詩23『どこにいても、そばにいる。』

うん、だからね、ごめん
きみを連れては帰れない

だって、お母さんがまた怒るんだよ
これ以上汚いものをウチに入れないでって
これ以上お金のかかるものを持ってこないでって

また怒鳴るんだよ
お母さん、ほんとうはそんな人じゃないのに

だから、ごめんね。

ぼくはきみを明日から愛せないや
ぼくはきみにもう愛をあげられないや
だって、持ってない、持ってないんだもの

『参観日のお知らせ』プリントで
きみの雨を拭ってあげよう。
いいんだ、どうせ捨てるんだし
ぼくのやさしさは、これでいっぱい

ねえ、誰かを愛したら他の誰かが悲しむって
そういうもんなのかな
愛しちゃいけない相手って

ほんとうにいるのかな

誰のこころも傷つけないように、誰も悲しまないように
きみを大切にしたかったよ

給食のパンと、段ボールと、ビニール傘
これだけ、きみに残してあげられる
ぼくのやさしさは、300円
ぼくのやさしさは、これでいっぱい

いっぱい、いっぱい、お腹の底から、せいいっぱい。

すぐに足りなくなるし
いつかは壊れるだろうけど。

これから
空は暗くなって、もっと寒くなるんだよ
夕立だってもうすぐ降るだろう

暖かくして寝なよ、だなんて
ムリだよな、

町にはあたたかい晩ごはんの匂いでいっぱい
ランドセルのえんじ色が夕日に溶けていく

でもきみは、一人で。

優しさだけじゃ、愛せない
出会わなきゃ、よかったかい
中途半端に生ぬるいだけじゃ

きみに名前はつけられない
ぼくらの今日に、名前はない
たった一度、最初で最後
きみを抱きしめる勇気さえないぼくだもの。

傘、ここに置いていくからね
ばかだな、だめだろ、出てきちゃ
濡れるだけだよ、風邪ひくよ

可愛いな、

大好きだよ。

でも、帰らなきゃ
行かなきゃ
大丈夫かな

今にも、振り向きそうになるよ


[今日のおはなし]

削って削ってすり減らして
配り歩いて
平等に同じ量だけ配り歩いて、
なんて、そんなの。

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