詩09『またいつか』

十年くらい前
もっと子どもだったころのぼくには

近くて近くて大好きな人がいた。
会いたい人が。

周りの大人たちは、

「またいつか、会えるやろうからな」
「大きくなったら、いつか事情のわかる時が来るわ」

それは、三十年、四十年、いやもっともっと生きてきた、
過去を持っている大人たちの

「いつか」になった後の大人たちの、
善意と逃げの、温かくて冷たい、言葉だった。

いつかっていつなん?
来週?来年?再来年?

ぼくが何歳になったら?
じゃあ、今日のこの気持ちはどこに持って行けばいいん?

ぼくは、姿の見えない『いつか』を夢みた。
それはぼくの首を絞めもしたし、救いでもあった。

でも、

いつかは会えるだろう、という希望は
今しかない子どもにとって、十分な救いにはなれなかった。

だってその子は、たった九年分の過去しか持っていないから
『いつか』なんて遠いこと、想像できないんだよ。

だから、
振り向いて、駆けよって、

「違うよな、そうだよな。今、会いたいんだもんな。今、知りたいんだもんな」と

ただ、抱きしめてやりたい、背中をさすってやりたい。

たとえ会えないとしたってさ、
「会いたい」というこころを、受け入れてやってもいいじゃないか。

ねえ、あの日のぼく。

会いたい人がいることの幸せは、痛みは、
十九歳になっても、やっぱり痛いよ。

他の何かで、代わりが効くものじゃない。

ぼくらの「いつか」は、まだ遠そうだ
手を繋ごうか、アイスでも食べて待っていよう。

いつかじゃ嫌なんだ。
ぼくは、きみに、あの日のぼくに、

いま、会いにゆきます。


「今日のおはなし」
キンモクセイが香る、すてきな季節になってきましたね。

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