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童話『盲聾の星』第二話

「ねえ」
コホンと咳をした後に続く可愛らしい声が、眠れないラムダの耳に届きました。彼女の咳払いはあくまで弱った喉が発声するための準備であって、王族の咳払いだというのにちっとも偉そうな感じがしません。

「あなたも行ってしまうの?」

バルコニーに出てきたセリーヌ王女の、麦穂のような金色の髪が、遠くでさらさら揺れています。それだけ言うと力なく唇を閉じてしまった彼女を見て、ラムダは思わず、いいえと言う風に大きく瞬いてみせました。わたしね、とお姫様が言います。

「あなたたちご家族が大好きなの。いつも明るく照らしてくださって、感謝しているわ。3人いっぺんにいなくなってしまったら、そんなの寂しいわ、あんまりだわ」

一息で言い切ると、お姫様はヒューっと音を立てて深呼吸しました。ラムダは、方々を照らす家業を誇りに思っていましたが、それと同じくらいお姫様にとっての自分の役目も誇っていました。控えめな彼女は、ごくわずかな決まった相手にしか――しかもその者と二人きりの場面でしか――自分の感情を表さないのです。ラムダは、自分がその相手に選ばれたことが嬉しくて誇らしくてたまりませんでした。

けれどその喜びは、北へ行くか南に留まるか、彼を七夜悩ませることになりました。

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