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【実施レポート】第1回トークイベント「産学官連携によるロボット社会実装の実現」

《登壇者》
・一般社団法人日本惣菜協会 AI・ロボット推進イノベーション担当フェロー 荻野武 氏
・コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役/ファウンダー 沢登哲也
・安藤健 氏(ファシリテーター) 

コネクテッドロボティクス株式会社が主催するトークイベントが、2023年3月より複数回にわたり開催されました。 

第1回(2023年3月8日開催)のテーマは、労働力不足が深刻化する今日の日本において喫緊の課題であるともいえる「産学官連携によるロボット社会実装の実現」。

登壇者は、今まさに産学連携して研究開発と社会実装を進めている2人 ——— 一般社団法人日本惣菜協会 AI・ロボット推進イノベーション担当フェローの荻野武氏と、「食産業をロボティクスで革新する」をミッションに掲げるコネクテッドロボティクス株式会社の代表取締役/ファウンダーである沢登哲也(以降、CR・沢登)です。

・ロボット化の成否を分けるものは何?
・ 産学官で上手く連携するコツは?
・ 連携相手が大企業とベンチャーとでは違ってくるのか?

 

ロボットを専門とする安藤健氏(パナソニックホールディングス株式会社 ロボティクス推進室 室長)をゲストファシリテーターとして迎え、産学連携によりロボットを社会実装するために必要な観点について話し合いました。 

産学官連携による「規模の経済」が惣菜工場のロボット化を可能に

——荻野さんは2021年より日本惣菜協会で惣菜製造の現場のロボット化を推進されているとのことですが、自己紹介を兼ねてそこに至るまでの経緯をお聞かせいただけますか。 

日本惣菜協会・荻野氏:現在、日本惣菜協会でロボット導入の推進を行っています。これまでのキャリアとしては日立製作所から転職して、キューピーで5年ほど次世代技術の実装をしていました。そのときに惣菜業界の課題に直面することになったのが、日本惣菜協会へと移ったきっかけです。
日本の労働力不足、少子高齢化が大きな問題となっている中、経産省ではロボットフレンドリー環境(ロボットを導入しやすい環境)の実現に向けたタスクフォースが設置され、私もキューピーの者として参画していました。
深刻な人手不足を解消するためにはどこを機械化していけばいいのか、多くの企業が集まって議論した末に出した結論は、「真っ先にロボット化すべきは惣菜工場である」というものでした。食品製造業界で今どこよりも困っているのは、労働人口が約60万人と多く、かつ労働生産性が一番低い惣菜業界だからです。

現状、日本には惣菜メーカーは3,000社ほどもあって、キューピーだけがロボット化してみたところで業界全体の人手不足解消にはなりません。じゃあどうすれば業界全体の人手不足問題を解消できるかというところで、日本惣菜協会に転職しました。

一般社団法人日本惣菜協会 AI・ロボット推進イノベーション担当フェロー 荻野 武 

——沢登さんが食産業向けロボットの開発に取り組まれるようになった経緯はどういったものだったのでしょうか。

CR・沢登:2014年に創業した当初は、ロボットコントローラーの受託開発を行ったり、AIのアプリを作ったりしていました。昔からずっとロボットが好きだったということがあるのですが、私の原体験として、祖父母が飲食業を営んでおり、お客様の喜びを直に感じられるという手応えに惹かれていました。そういった原点に立ち戻ってロボットと食の融合点ともいえるこの事業を2017年の4月にスタートさせました。

——CRではちょうどシリーズBでの資金調達を実施したところと伺っています。

CR・沢登:はい、この事業もそろそろ6年になり、どんどん大きくなっていくフェーズにあります。そして今こうして荻野さんたちとの産学官連携で惣菜業界の課題に取り組んでいるわけですが、この取り組みを通じて食産業にさらに貢献して、3つのビジョンを実現したいと考えています。

コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役ファウンダー 沢登哲也(さわのぼりてつや)

 《3つのビジョン》
・つらい労働がなくなる
・人手不足を解消し高い生産性を実現する
・いつでも美味しく健康な食を楽しめる

 

——おふたりは今日のテーマである「産学官連携によるロボット社会実装の実現」に向けて取り組んでおられるということですが、惣菜業界の多くは中小企業です。投資の伴うロボット化はスムーズに進むものなのでしょうか。

日本惣菜協会・荻野氏:その点こそが、今こうしてCRさんと一緒にソリューションを立ち上げている理由です。通常、製造業の企業がロボット化を進める場合、ロボットSIer(システムインテグレーター)と組み、多額の投資をしてそれこそ1億円もするようなシステムを作り上げていきます。中小企業には到底作れないし、高すぎて買えません。 そこで中小企業各社の共通の課題を集約して、それを解決するシステムを作り、1社2社ではなく最終的には全惣菜企業3,000社に売って普及させる。規模の経済を効かせて価格を目標500万円程度にしていこうと。ディストラクティブなイノベーション(破壊的革新)を創発するモデルを作るわけです。比較的安価で導入できるなら、一部の大手メーカーだけでなく中小企業にとってもロボット化は実現可能なものになります。

産学官連携では省庁間の連携が社会実装を加速する

——惣菜業界全体を見渡す立場として、効率的な産学官連携に重要なのは何だと荻野さんはお考えになりますか。

日本惣菜協会・荻野氏:社会実装の速度に大きく影響する省庁間での連携が重要だと感じています。CRさんが中心となって各企業の力を結集し、昨年度開発に成功したものに、マックスバリュ東海の工場に導入した惣菜盛付ロボットがあります。既に他の惣菜メーカーさんにも導入されています。これは農水省のプロジェクトですが、開発のところは経産省の力をお借りしていて、開発したものを横展開していくのに農水省の力をお借りしています。産学官連携の官の部分の連携、いわば省庁の合本ですね。こうした省庁間の連携は効率的かつ加速度的に社会実装を進めていく上で必須ですが、今まさに実現しつつあるといったところです。

惣菜盛付ロボットを導入いただいたマックスバリュ東海のインタビュー

——産学官連携の成果物ではなく進め方の部分に着目した場合、惣菜とは別の産業での活用も視野に入ってくるものでしょうか。

 日本惣菜協会・荻野氏:はい、今我々が進めている産学官連携しての研究開発と社会実装の手法は、異なる産業で活かしていくことも可能だと考えています。たとえばサプライチェーンの最上流に当たる農業でも皆さん高齢化で苦労されていますが、労働力不足を補えるようなロボットは価格の問題からあまり導入されていないのが実情です。日立製作所で技術者として働いていたのでわかるのですが、作る側としてはこれだけいいものを作ったのだから値段が張るのは当たり前だというプライドがあります。でも、現場に導入するところまでを考えるなら価格こそ技術です。いかに価格を下げるか。そこがもっとも難しく、もっとも技術力を問われるところです。だからこそ、1億円かかるロボットシステムではなく500万円出せば買えるロボットシステムにするためにも産学官連携が欠かせません。複数の企業や研究室が持ち寄る多種多様な技術がなければ無理ですし、規模の経済を効かせようと思えば産学官を横断する仕組みも必要となってきます。今回の経産省と農水省の例のような省庁間での連携も不可欠でしょう。その辺りが形になってくれば、適用する産業を問わない中核部分を抽出したモデルとして惣菜業界から農業などの他の産業・業界へと持って行けると思います。そういう意味では今やっている惣菜製造がモデル作りの1丁目1番地で、これからの日本にとって非常に重要だと思います。

——農水省と経産省が連携して食の流れの最上流から最下流までを一気通貫で整え、そこにテクノロジーも絡めていければ、パッケージとして輸出できるような産業になってくるのかもしれませんね。沢登さんはそういったグローバルな観点から何かお考えがあったりなどしますか。 

CR・沢登:はい、グローバル展開については実は創業時から考えています。たとえば日本と同様あるいはそれ以上に人件費の高いアメリカなどの飲食産業にロボットを持ち込む余地があると考えています。我々の3つめのビジョンである「いつでも美味しく健康な食を楽しめる」に関係してくるのですが、どこに行っても日本の美味しい食事が食べられるという意味で、6次産業化も視野に入れています。さらに20年先、30年先を考えると、宇宙コロニーでの生活が現実のものとなる可能性も高い。そうなれば、宇宙に行っても地球の自分の家で食べていたのと同じ美味しい食事を食べられるということが大切になっていくと思うんです。単なるロボティクスによる自動化ではなく、おふくろの味みたいなところまで持っていけたらいいなと思っています。

NASAが描いたスペースコロニーの予想図。NASA Ames Research Center

惣菜業界のロボット化の鍵は汎用性と必要十分仕様

——惣菜業界の今後を考えたとき、この動きの勢いを止めないことが重要かと思います。中小企業が多い惣菜業界でロボット化を一層進めていくためにはどういった技術や工夫が必要とお考えですか。 

日本惣菜協会・荻野氏:規模の経済を働かせるために、ピカピカの専用機ではなくあくまで汎用的なものを使い、できる限り共通化してロボットシステムを作っていくことだと思います。 それから現場目線の仕様も大切ですね。惣菜は不定形で決して扱いやすくはありませんが、だからといってミクロン単位の精度は要求されませんから、そこは仕様を緩和する。逆に食品を扱うというところで必要となってくる機能はプラスする。そういったところを明確にすることで、多品種少量生産、変種変量生産という惣菜の多様性に対応できるようになるでしょう。 

——沢登さん、ロボットメーカーの立場としてはいかがですか。

CR・沢登:荻野さんのおっしゃるような点を実際に心がけています。惣菜の多様性にどれだけ切り込めるのかが重要だと考えており、専用機は作らないというのが基本的なポリシーです。シンプルで汎用的なものがロボティクスの果たすべき使命だと思っていますので、汎用のロボットアームや汎用のハードウェア、汎用のソフトウェアを使い、シンプルなハードウェアでやっていきます。

最速で課題解消できるのはやはりスタートアップ

——荻野さんは大企業でお勤めの経験がおありですが、CRさんのようなスタートアップと大企業とでは取り組み方がやはり違うものなのでしょうか。

日本惣菜協会・荻野氏:そうですね、違うと思います。大きな違いはやはりスピード感です。盛り付け作業は簡単に見えるかもしれませんが、不定形であったり柔らかかったりとハンドリングが難しく、機械化が不可能といわれていた領域でした。ところが、CRさんは業界でどこも作れなかったものをゼロから作って、半年間でもう社会実装しているんです。大企業でやったらマーケットはあるのかとか技術的にできるのかとかいろいろ議論して、ようやく4年後にできるくらいじゃないでしょうか。CRさんには、会社としては大きくなっても大企業のマインドにはならないでもらえたらと思います。 

——CRさんには大企業からの転職者も多いですよね。それまでいた大企業との文化の違いに驚いたり悩んだりする社員さんもいらっしゃるのでは?

CR・沢登:会社としてのステージが進むにつれ、大企業で得た良い経験、培ったスキルやポジティブなマインドセットを持った人が即戦力として転職してきてくれるようになり、とてもありがたいことです。一方で、我々は理念を非常に大切にしている会社ですので、目の前の仕事がしっかりできるというだけでは実は足りません。食産業を革新するという何十年もかかるような仕事にコミットする覚悟があるかが問われます。ですから、トップである私自身の日頃の発言や行動のすべてがミッション、ビジョン、バリューに基づいたものとなるよう常に心がけています。

産学官連携のベースとなるのは共感と信頼

——ところで、荻野さんと沢登さんが知り合ったのは経産省のプロジェクトがきっかけとお聞きしています。荻野さんから見てCRという企業はどんな印象なのでしょうか。 

日本惣菜協会・荻野氏:ひと言で言うと、志と利他の精神を持っている企業さんだと思います。人手不足のない世界を創造するという志を持ち、自社のことだけを考えているのではなく業界全体の生産性向上、もっと言えば幸福を考えている。起業する技術者で利他の精神を持っている人は多くありませんが、周囲の協力を得ながらどんどん大きくなっていくのはやっぱりそういった技術者の起こした会社なんですよね。CRさんはそういう会社だと思います。我々は、渋沢栄一の「合本主義*」という考え方を重視しています。今回のプロジェクトでいえば、惣菜業界の課題を合本して、それに対し技術を合本してソリューションを作り上げ、それが奏功して業界全体の利益が向上し、ひいては国の税収が上がっていく、という捉え方です。one for all, all for oneですね。そうした共感と信頼が根底にある合本主義の精神に一番ぴったりなのがCRさんだと思っています

CR・沢登:過分なお言葉を頂戴して恐縮です。ちょっと話が大きくなってしまいますが、歴史的に見ると食とテクノロジーは非常に密接に結びついて人類を発展させてきたところがあります。食料生産が増えたり食の質が良くなると、文化やテクノロジーが発展しますし、それによってまたさらに食が発展してきてというのが続いてきているんですよね。そして今日、大量生産ができない部分が食産業の中にまだたくさんありますが、人がやらなくてもいいところはロボットが担うようにすることによって、食品生産はもちろん仕事の質まで上げられるはずです。そう考えると、大袈裟かもしれませんが「これは人類のためになる!」と高揚しますし、これが私のミッションなのだと心の底から感じられ、やっていて楽しいです。 

——今日はおふたりの「業界全体を良くしたい」という想いを強く感じることができました。最後に、これからどんな業界、どんな世の中にしていきたいと思っていらっしゃるかについて一言ずつ頂戴できますでしょうか。

日本惣菜協会・荻野氏:惣菜業界はとにかく人手不足です。作業の大変さに離職する人が多いことも原因の一つです。そうした大変な作業をロボティックスでなくしていければ、業界全体が楽になります。海外に輸出していけば、世界中がハッピーになります。そんな未来を目指して、皆が力を合わせていけたらと思います。

CR・沢登:長期視点で考えるということが、食産業だけでなく日本全体に必要だと思っています。50年後100年を考え、働く人も経営する人も食べる人も誰もが喜べるようなエコシステムを作り、食産業に普及させたいと願っています。 

——これで本日のトークイベントを終了させていただきたいと思います。
皆さん、ありがとうございました。


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