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自分自身が成長したのは、チームで試行錯誤する面白さを知ったから

今回は、惣菜盛付けロボット「Delibot」のプロジェクト責任者にインタビューしました。

経済産業省の推進する「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」の取り組みにおいて開発されたDelibotは、コネクテッドロボティクス(以下CR)の代表的プロダクトの一つ。ロボット大賞やFOOMAアワードの受賞製品でもあります。そんなDelibot開発の裏話や、マネージャーとして意識していること、自分自身の変化・成長を感じたとき、これからのCRに期待していることなどについて話を聞きました。

CRにご興味をお持ちの方、CRでの製品開発の様子をお知りになりたい方はぜひご参考になさってください。

まったくの白紙から始まったDelibot

— CRでの現在のお仕事について教えてください。

執行役員として技術部門で製品開発全体を統括しています。特にCRの主力製品であるDelibot(惣菜盛付けロボット)については責任者の立場です。

— Delibotは経産省の事業の一環として開発されたのですよね?

はい、その通りです。2年前に経産省・日本惣菜協会が主催のプロジェクトとして開発がスタートしました。私はそのプロジェクトのCR側の責任者に任命されたんですけれども、正直なところ最初はできると思っていなかったんです。なにしろ、どうしたらいいのかわからないところからのスタートでしたから。そもそもどういった食材をつかむのかすら最初は決まっていなくて、ただもう「とにかくロボットを使って現場の労働を楽にしよう!」っていう実にふんわりした話だったんです。それがこうして形になったというだけでなく、実際に多くの現場に導入され、さらなる使いやすさを目指し現在進行形で進化しているというのは、感慨深いものがあります。

今なお脳裏によみがえる試行錯誤の数々

—— Delibotはこれからも進化し続けていくのかと思いますが、Delibot開発のこれまでの道のりで特に心に残っていることなどはありますか?

今でもよく思い出すのは、開発初期の段階での試行錯誤ですね。

プロジェクトとしては決まっていても、具体的にどんなことをやるのかが未定だったので、ハードウェアはもちろんAIのエンジニアまでスタンバイしていました。ようやく「不定形の食材を扱う」ということを決めたら、次は「どうやって不定形な食材を扱うか」について考えなくてはなりません。ありとあらゆるハンドの形状を検討しました。

続いて「ロボットがつかみやすいようにするにはどうすればいいか」の問題に向き合ったときには、本当にいろいろ試しましたね。ゆすったら食材が取りやすくなるんじゃないかと言って、フィットネスマシンを買ってきたエンジニアもいました。あのブルブルブル……となるやつです。
みんなで仲良くフィットネスマシンに載って、ブルブルと試して。
まあ結局、そのアイデアは採用しなかったんですけれど。そういったことを3〜4ヶ月間くらい大真面目にやっていましたね。責任者の私としては本当に気が気じゃなかったです。今思い返しても、よくあれで完成まで漕ぎ着けられたなという感じです。とにかく試行錯誤、これに尽きました。
日本人エンジニアと外国人エンジニアがわちゃわちゃと惣菜を取り囲んで、ああでもないこうでもないと。そんな試行錯誤の連続が今も強く印象に残っています。

「今あるDelibot」への3つの転機

—— そんな試行錯誤の連続から実機が実際に現場導入されるまでには本当にいろいろなプロセスがあったかと思いますが、振り返ってみて「これが転機だったな」と感じるのはどういったことですか?

そうですね…… 3つあります。

1つ目は、極力シンプルなシステムにしようという方向性を定めたこと。

ハードのエンジニアからAIのエンジニアまでスタンバイしていたと先ほど話しましたが、選択肢はいくつもあったんです。技術的にものすごいリッチなロボットを使うというのももちろんそうした選択肢の一つでした。
ただ、私はCR入社以来さまざまな失敗をしてきました。複雑なものを作って失敗してきた過去があるんです。その経験から、可能な限りシンプルな、現場で使いやすいものにするというのをモットーにしました。

CRの4つあるコアバリューのうちの一つが"Simple, Visible, Tangible"で。
私はそれがプリントされたTシャツを職場で着ているくらいなんですけど、まさにそれです。シンプルにしようと決めたのは、大きな転機というか、Delibotの本質的な方向性が確定したタイミングでしたね。

2つ目は、現場との協力体制。

製品開発というと、お客様のご要望に沿っていいものを作って納品するっていうのを想像しがちなんですけど、作る側の我々だけでやっていると、実際に現場に導入したときに使いづらいものに仕上がってしまうことがよくあります。でも、最初の導入先だったマックスバリュ東海さんは、我々に任せきりではなくて、導入する側として自分たちも頑張ってくださったんです。そうやって歩み寄ってもらい、製作サイドと現場サイドが一丸となって“本当の意味で現場で使えるもの”を作るというゴールを目指せたのは非常に大きかったです。

そして3つ目は、形になった後の進化です。

最初に作ったVer.1は、ひーこら言ってなんとか半年間で作ったということもあり、安定して動きはするものの、清掃に手間がかかるなどメンテナンス性には改善の余地がありました。ですがその後、優秀なメンバーたちが入ってきてくれて、Ver.2ではその辺りが改良され、一気に進化した感じです。

自分を成長させてくれたCRの理想的なチームワーク

— ここ1年くらいでご自身がバージョンアップしたなというか、一皮剥けたなみたいに感じる部分ってありますか?

組織的なところにも関心が向くようになってきたと感じています。
以前の私は、自分は技術者だという認識、もっと言えば自負がありました。自らの技術を活かして一人黙々と開発すればいいんだといったようなイメージです。だから、人とか組織とかにはあまり関心がなかったというか、そういうのはちょっとイヤだなっていう感覚があったんです。
でも、食洗機とかDelibotとかを作っていく中で、インターンの子も含め色んな人たちがやって来て、皆んな楽しそうにやっているのを目にするわけです。なんでこんなに楽しそうにやってるのかと、単純に興味が湧きました。

そしてやがて、技術者あるいはプロジェクトマネージャーとして製品を作っていくことよりも、むしろチームの皆んなが同じ方向を向いて走っていくこういうところに面白さがあるのかなと思い至ったんです。
自分の中での大きな変化だったと思います。

そんな風に人や組織といったところに関心が向いたのは、CRならではのチームワークが理想的に機能する様子を目の当たりにしていたからこそですね。

— チームの連帯感は、CRの強みといえそうですね。

はい。ただ、CRが会社 として大きく成長していくフェーズにあって、メンバーはどんどん増えて来ています。今の雰囲気のままで大きくなっていけるのか?大企業みたいになっちゃうんじゃないか?という不安は当然出てくるでしょう。何もかも現状とまったく同じである必要はありませんが、今のCRの良さを残しつつ会社を大きくしていくというのは、大きな意味でのTrial and Error、CRとしての一つのチャンレンジといえるかもしれません。

“枠”を取り払うことの大切さ

— 製品開発に関わるメンバーたちをマネジメントする立場として、
チームで取り組んでいく上で大事にしていることなどはありますか?

基本はやっぱり、これもまたコアバリューの話になってしまうんですけど、"Open Quest"ですかね。私自身を含め誰しもこだわりがあったり、過去にこうしたことがあったからこれならうまく行くはずとか、マネージャーはこうすべきだとか、そういうある種のフレームというか決めつけがあるものです。チームが最大限の力を発揮できるようにするには、そういった枠みたいなものをいかに取り払っていけるかが大事だと思います。

そのためにも、なるべく話しやすい環境を作るとか、言い出しやすいフラットな関係性を築くとかを意識しています。なかなか難しいですし、ちゃんとできているかどうかはちょっと自信がないんですけども……。口で「フラットに意見を言ってね」ってお願いしたところで言わないじゃないですか。やっぱり言葉じゃなくて行動で示すしかないと思うので、なるべく階層を作らないように、マネージャーである私自身も現場に行ったり自分で手を動かしたりしています。

— 枠を取り払う以前に、そもそも枠が存在していることに客観的に気づくこと自体が難しいと思います。

確かにそうですね。先ほどの「開発サイドと現場サイドが一丸となる」という話に戻ってしまうんですけど、現場不在だといつの間にか自分たちで枠を作ってしまっているというケースが結構あります。実物を見ていなかったり、試しもしなかったりという状態で、製作している人間だけが製作現場で論じていると、いろんなものが見えてこないし、気づかないんですよね。

だから、現場に足を運んだり、現場の作業者と同じことをやってみたりする。無駄かもしれないけどやってみる。出てきたアイデアも頭ごなしに否定するのではなくて、とりあえずやってみる。

やらないためのあれこれをやるよりも、やる方向に物事を持っていくようにしている感じでしょうか。工夫というか、そういったことを心がけています。

Delibotのさらなる進化と普及、CR製品のグローバル展開を視野に

— 今後チャレンジしていきたいことはありますか?

2つあります。

1つ目は、チャレンジというにはちょっと地味かもしれませんが、Delibotをもっともっと「使えるロボット」にしたいですね。
どこの工場からも「まあ、とりあえず入れてみようか」と言ってもらえるくらいのレベル、「うちはもう入れてるよ。え?そっちはまだ入れてないの?」という話が出るくらいのレベルまで持っていきたいです。

2つ目は、海外市場も含め、もっと広範囲にプレイできるといいなと考えています。これはDelibotに限らずですが。
今現在は日本国内の困っている人たちだけを見ていますけど、もう少し視野を広げてより広い市場を対象にしたい。グローバル展開もしていきたい、そう思っています。

挑戦や変化を楽しめる仲間とともに歩んでいきたい

— 新たにジョインするメンバーはこれからますます増えていくと見込まれていますが、そうした新しい仲間にどういったことを期待しますか?

新しい何か、自分が知らない何かにチャレンジしていくことと、いろんな変化を楽しむことでしょうか。良い変化だけではなく悪い変化もあるし、仕事をしていればピンチもあるでしょう。でも、仮に失敗したところで命を落とすわけではないです。だから、そんなときにも明るくコミュニケーションを取って、チャレンジングな状況をむしろ楽しめるような人であってくれたら、とても嬉しいし、頼もしいですね。

—— 本日はお話をありがとうございました。