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「街を面白くしてるのは建築家だと思っていたけど、もっと色々な人が面白くしているのだと気づいた。」

山下真一郎さん
1989年 愛知県出身。二級建築士。
武蔵野美術大学にて建築、同大学院でランドスケープを専攻。
不動産デベロッパー、オフィス仲介会社にて、ホテル、事務所、飲食店、などの企画・設計に従事。
2023年 omusubi不動産入社、ローカルの持つ価値が発揮できる不動産コンサルティング、仲介、内外装デザイン監修などを行う。

”みんなでつくる学大高架下プロジェクト”

ー現在のお仕事について詳しくお聞かせください。
メインは不動産開発のコンサルティングをしてます。
現在は学芸大学の高架下の地域密着型の商業施設の開発、運営のお手伝いをするお仕事の担当をしています。
この中にシェアアトリエとかシェアオフィスがあるんですが、どうやったらユーザーさんに届けられるか、企画を考えたり広告を作ったり、といったお仕事がメインです。
あとは建築の内装の設計とか、家具の選定とか、設計施工の会社さんと一緒に進めています。
あとはどれぐらいの売上が立って、どれぐらいお金を借りて、何年で回収するかみたいな、そういうお金の話。
その三本柱が大きな軸としてある感じです。

ー今回は、コミュニティデザインの授業なので、手掛けられてる学芸大学のプロジェクトはコミュニティデザインに近いということであっていますでしょうか。
そうですね、学大のプロジェクトが一番それに近いかなと思っております。このプロジェクトで面白いのは、開発する前からコミュニティみたいなものを立ち上げるっていうところが面白いポイントかなと思ってまして。
みんなで作る学大高架下っていう、そういうメディアをチームメンバーが作ってます。
例えばこの学大パークマーケットみたいなものだと、学大のFOOD&COMPANYさんとかAquvii(アクビ)さんという、飲食だったりとか服飾の会社さんとタッグを組んで、色んな店舗さんを集めてマーケットを開いたりとか。
そういう活動を建物が出来る前からすることによって、その中でこういう飲食店が街にあるといいよねみたいな声が集まったり、このパークマーケットとかでもアンケートのボードとかが張り出されていたりして、意見を拾い上げるようにしています。
街に求められる施設開発になるために、出来る頃にはもう一定数のファンがいることを目指して開発してるところですね。

ー今はもう完成にはなってるんですか?
タイムラインで言うとまだ完成してないです。今年の11月中旬に開業を目指していて、このパークマーケットとかが始まったのはもう2年前ぐらいからで、徐々にこういうことをブラッシュアップしながらプロセスを進めてるところが面白いところかなと思ってます。

ーすごく長いプロジェクトですね。
そうですね。建築の開発とかになると、2、3年ってよくあって。
大きいところの開発になると、15年とか20年とかでやったりとかするので、都市開発みたいな話になってくると、割とそういう長さになってきます。

ーコミュニティというと、街の人なのかなというイメージだったんですけど、いろんな人っていう中に、企業さんだったりとかも巻き込んでいますね。
そうですね。今回のプロジェクトで話し合われているのは、学大エリアの特徴として、何かコンテンツを作っている人、例えばウェブデザイナー、写真家、料理人とか、クリエイターの人がすごい多いなと思ってて。
企業としてチェーン店みたいなレベルの企業もあれば、個人店みたいなレベルの企業もあれば、個人作家さんとか、もうちょっと下へいくと、時々その副業で何か雑貨作ってるみたいなレベルのクリエイターさんとか、昔かじってて興味あるぐらいの人など、クリエイターの中でもすごいグラデーションがあって、その層が厚いのがこのエリアの特徴だねみたいな話が内側でありました。
いきなり店舗を構えるのは、すごいハードルが高いじゃないですか。なのでなるべく小さなゴールとして、小さなポップアップみたいな形でクリエーションが表に出せるような場所を用意できるように今頑張って企画してるところです。

ーこのようなプロジェクトにデザインプロセスといったようなものはあるのでしょうか。たとえば、プロジェクトの流れ、ターゲットを決めてなのか、どのようなことを考え、実行に移すみたいな。
一番最初のお話は、ボーナストラックっていう小さな商店が集まった商業施設が下北沢にあり、そこにomusubi不動産が入居しているんですが、それに近いことが学芸大学でできないかというものだったんですね。
学芸大学の人達と一緒に作るところがすごい大事だから、デベロッパーの内側で企画を練ってという感じにはしたくなかったんです。その前に徐々にアイデアキャラバンみたいなヒアリングをして、いろんな人に「どんなことがあるといいと思いますか?」みたいなことを聞き、200を超えるアイデアを頂いたりして、町内会で未来作戦会議というWSのようなものをしたりして、いろんな街の声を拾い上げていって、全体コンセプトを練り、街が知れるローカルメディアの運営をしたりしました。

https://gakudai-koukashita.com/

これは、通常のデベロッパーとか設計事務所側で考えて提案するという流れではなく、いろんな人、最後に使ってくれる人とか、お店を持ってくれるような人達と先にイベントをして、そこでこういうものが欲しいよねっていう、マーケットニーズを確認してから開発を進めた方がいいんじゃないかということをomusubi不動産側から提案して、今回このようなプロセスにしてもらいました。

ーこれは通常のデザインプロセスとは違うのですか
普通の開発だと、経済合理性だけで考えて、なるべく仕様が高級で高く貸せるものにしようとして結果的に初期投資が高くなって、賃料が上がってチェーン店しか入らなくなって、最終的に他の街との違いがない街になるというのが、よくありがちな街がつまらなくなる仕組みだったりするんです。
やっぱり面白い街に面白いものを出そうとする人って、何かチャレンジング人が多かったりします。そのような人たちがいきなりバーンと高収益出せるかどうかわからないので、まずはスモールステップの賃料で借りてチャレンジを受け止められる区画があるというのが大事だったりします。
そのような人たちがいなくなると、やっぱりどこでも見たことある風景になっちゃうので、その辺りを調整したのが今回のプロセスの面白いところだと思ってます。

”街をおもしろくするための、言葉と数字”

ー街をおもしろくしたいとか、チェーンで街がつまらなくなってるなとか、そういうところに何か共感されて活動してるんですか?
そうですね、僕も好きな街は下北沢だったりとか西荻窪とかです。ああいうところってやっぱり個人のお店があるなっていうか。街を面白くしてるのって、ハードとしての施設がかっこいいお店だよね、というのもあるんですけど、それよりその事業の事業主さんがこういうお店にしたいという想いがのった商品やサービスといったソフトが、一番場所を面白くするのかなと思っています。
なのでそういう人の考える世界が実現できるようにお金の面とか技術的な部分の課題を解決することでサポートできる人になりたいなと思ってやっています。

ーそういった想いって、学生時代とかから何か繋がっていたりしますか
ありがとうございます。めっちゃいい質問だと思います。
僕が大学生で就活してた時に、表参道に毎年のように建築家が新しい建物を建ててた時代だったんですけど、それにあんまり乗り切れない自分がいて。
自分はどんな施設が一番好きかなって思った時に、代官山にできたTSUTAYAが何かすごい好きだったんですね。
で、じゃあそれを作った建築事務所に行けば、自分が好きな建物が建てられるんじゃないかと思って、その事務所に行ったんですよ。インターンでね。そこで中の人とかに喋って分かったことは、その事務所ももちろんすごかったのですが、一番すごいのはTSUTAYAの社長さんだったんだなと思ったんですね。
あそこの場所でああいう体験を提供してみたいという要望を建築家に出したところがすごくて。
それを実現するのももちろんすごいんですけど、けど、多分そこがなかったらああはならないな、というのを感じて。
「あ、そっか。僕は街が面白くなるのは建築家が面白くしてると思っていたけど、全然違うかもしれない」みたいな、何て言うんですかね、価値観が変わる体験をしました。
そういうことも含めて、設計事務所の機能があるデベロッパーを最初の会社に選びました。

ーなるほど。建築家のお仕事として何かを建てるみたいなイメージだったんですけど、活動を聞いていると結構マーケティングとか幅広くやられてるのは、そういったきっかけがあったんですね。
そうですね、はい。そこが大きかったと思います。
学生時代はプロデュースの世界は商学部とか経済学部とかその辺の人達がすごい高度な理論を使ってやってると思ってたんですよ。その世界には少し興味あるけど、どうやってそれをやればいいかわからなかったんですね。
それがわかったのが、大学院の後半のタイミングだったんで、とりあえず設計者としてデベロッパーに就職したんですけど、企画の人たちと話してたら、なんか結構みんな理論が完璧にあってやってるっていうよりかは、割とそれぞれの現場で四苦八苦しながらこういうのって出来てくんだなみたいなことがなんとなくわかったんですよね。
あ、じゃあ自分ももしかしたらできるかもしれないと思い始めて、そっちの方がやりたいなという気持ちが設計したい気持ちより上回った時に飛び出したという感じでした。

ーお話の中で大学院のお話とかも出てきたんですけど、卒業制作や大学院の勉強は、そういった今興味を持っている分野だったんですか?
大学とかの時はここまでソフト寄りの話にはあんまり興味はないつもりで。あの建築家かっこいいなみたいな、そういうのはあったんですけどね。なんかいつの間にかこうなっちゃってましたけど。

ー結構社会人になってからみたいな感じなんですかね
ただ、振り返ると学生の時からダイアグラムが得意だったんですよ。コンセプトとか言語的な意味を図や表を使って表すものです。なんでこういうふうな形にしたんですか?みたいなこと伝える時に、このエリアはこうだからこうしたとか、こういう形にすると街の流れとこう繋がるからとか、最終的な形の意味を図で示すのは好きでした。また高校生の時も数学と美術が得意だったんですよ。
Excelとか扱うのはそんなに苦じゃない、というのはあったかもしれないですね。その部分は不動産をやる上で有利に働いていると思っています。社会人になってから出会った不動産ばりばりの世界の人が言ってたんですけど、「不動産は言葉と数字の格闘技だ」って言ってて。(笑)
不動産と聞くとビルとか大きな物体のイメージをすると思うんですが、その実務にあたる契約書はめちゃくちゃ難しい言葉ばかり並んでるし、巨大開発の投資の効果を予測するExcelは数字だらけの世界だったりします。物理的には大きなものではありますが、実際やることは確かに言葉と数字の世界なんです。僕がやってるの大きさの施設はそこまで複雑で込み入った数値計算とかはないし、契約書も10ページ程度とかで、そういう言葉と数字の世界とデザインの世界のちょうど間みたいな規模です。高校の時に数学と美術が好きだったように、ちょうどいい規模のことをずっとやっていけたら面白いなという感じですね。

ー言葉と数字っていうのはちょっと意外でした
ですよね。僕も中に入ってみて意外でした。ものすごい物質を扱ってるじゃないですか。大手町のビルみたいな。あれも今の感覚からすると全部、言葉と数字の結晶だなと思うこともできるようになりました。
僕がやりたいのは、そういう世界の中で予算を勝ち取って、良いクリエイターとお仕事をご一緒したいんですよね。例えばグラフィックデザインにおいて100万円って割と大きな額ですよね?でも10億のプロジェクトにおいては1%分な訳です。
その1%の予算を支払ったお陰で売上が2%上がるなら、100万円を払って200万円もらえるので、プロジェクト全体で考えると逆に100万円儲かることになります。
数字だけで考えてる人たちに、絶対このグラフィックデザイナーと仕事をした方ががいいです。このグラフィックデザイナーと仕事をしたら200万儲かります。だからこの人たちと仕事をする予算は100万にしましょうみたいなことを言える人になりたいなという感じですね。
デザインの世界も捨てずに、だけどちゃんと言葉と数字の世界の人たちとの共通言語も持って、その二つをうまく繋げることができる人になりたいなって。
今の工事費高騰みたいな話があると、じゃあデザイン面をちょっと削るかって話になりがちなんで、そこをどうやって守るかみたいなことをやっていきたいなと思ってますね。

ー学芸大学のコミュニティーのプロジェクトで何か大変だったことと嬉しかったことみたいなところをお伺いしてもよろしいでしょうか?
そうですね。嬉しいところから先に言うと、やっぱり生のリアクションが見れるっていうのはすごいいいですね。
建築って2年とか3年とか時間がかかるので、設計をしてる間本当にみんな来てくれるかなとか、ドキドキしながらやるんですけど、それがきっとこの方向で進めていけば、あの人たちが来てくれるだろうなって思い浮かべながらやれるのが嬉しいことですね。
こういうことに子供が喜んでるとか、素直なリアクションがあったりとかすると嬉しいですし、イベントをやってる時に隣近所のおばあちゃんが「これなんかね?」と話しかけてきて、イベントをしてると言ったら、頑張ってるねと言われるとやっぱり嬉しいですよね。
大変なところは、街とかを相手にすると、本当にいろんな方が関係者になるということですね。例えばこの学芸大学のプロジェクトだと、こっちにもあっちにも商店街、こっちいけば祐天寺、こっちへ行けば都立大、目黒区さんからの要望だったりとか、この施設の目の前にも、家買ったりしている近隣住民の方も人いるじゃないですか。
そういう人からすると何かやらガヤガヤとイベントやったり、工事でトンカチやってたりすると、どんな建物ができるの?って不安になったりするのは当然で。
やっぱりそういうところでお声をいただいたりとかも正直あります。クリエイターとお仕事する時も誰を呼んで誰を呼ばないとか、そういう判断とかもやっぱりでてきてしまいますし、その辺の気配りなどの見えない苦労みたいな部分はありますね。そういった利害調整が事前にうまく丸く収まってないと、イベントをしても結果的にすごく残念なことになってしまうので、そこは見えない努力として頑張ってるって感じかもしれないです。

ー街だといろんな人がいますもんね。
そうですね。街で活動する大変さは感じますね。政治ってこうやってできてるんだなって思いますね。(笑)

”企業に勤めてやりたいことをやる”

—山下さんは今は企業にお勤めされてて、他のゲストのお2人は自営業というか、自分でやっていて好きなことを仕事されていて。その、キャリアの作り方みたいなところって、結構学生とか興味あるかなと思ってまして、どういうことを考えて、今のこういった働き方を選んでるよとか、そういったのはありますか
それで言うと、ムサビの中ではどちらかというと社会人対応ができるタイプの人間だと思っていったんですけど、自分で言うのもアレなんですけど、社会の中でいうと社会人対応できてない方に当たるので、企業勤めって大変だなと思ってます。あと元々は建築設計をずっとやってこうと思っていたので、その頃はゆくゆくは独立かなみたいな感じで思ってました。
でもやってくうちに建築設計ってめちゃめちゃ細いことに気づくんですよ。大きいプロジェクトだと本当にミリ単位の調整を、200枚とか300枚とか図面を描くので、そういう世界は僕は向いてないなと思って。
逆に広く浅く、全体を満遍なく調整するみたいな方が僕は得意だなと思いました。そういうことをしようとすると、企業にいた方がいい部分もあるかなと思ってます。例えばこの学大のプロジェクトだと個人に発注することってなかなか少ないと思うんですよね。

大きいプロジェクトの時は、受けとる方の信用とか実績も見られたりします。その規模のお仕事をご一緒できる会社の中で比較的自由な働き方ができるカルチャーのあった会社を選べば、僕みたいなタイプでも社会人としてやっていけるかなと、そういうところでちょうどいい企業選んでやってるところはあるかもしれないですね。
最初の会社はグループで多分1000人ぐらいの会社で、次が50人の会社で、今20人の会社にいるんですが小さくなればなるほど裁量権はむしろ大きくなってて、やりたいこととやれることのバランスを考えながらキャリアチェンジしてきた感じですね。
どのポジションで何やりたいかみたいなところによっては、個人じゃない方がお声がけしてもらいやすかったりすることもあるかなと思っています。

ー企業だからこそできることみたいな。
そうですね。やっぱり予算の額桁がいくつか違うみたいなこととかは、企業にいた方があるかなと思ってます。

ーお話色々ありがとうございます。すごい面白いですね。
何かのお役に立てれば光栄です。

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