Travis Scott「DAYS BEFORE RODEO」全曲解説
音楽配信ストア兼メディア「OTOTOY」の、様々なライターが三か月に一回9枚の新譜を紹介するコーナー「REVIEWS」に新たに参加しました。私はヒップホップを担当します。そんな私の担当の第一回が先日公開されました。
今回の記事を書いていて、ブログをTumblrでやっていた頃に不定期で取り組んでいた「ミックステープまとめ(フリーDL可能作品まとめ)」を思い出しました。
このコーナーはフリーDLできるミックステープやEPなどを何枚かピックアップし、簡単なレビューを書くというもの。肌感覚ではApple MusicやSpotifyといった各種ストリーミングサービスの浸透と共にフリーDL作品は減少した感があり、最初は一度に20枚を紹介していたコーナーでしたが後期には10枚になりました。この後期「おすすめフリーDL作品」と9枚の新譜のレビューを書くOTOTOYの「REVIEWS」とは枚数が近いので、なんだか懐かしい気持ちになりました。
そんなことを考えていたら、Travis Scottが2014年に発表したミックステープ「DAYS BEFORE RODEO」が各種ストリーミングサービスで解禁されました。同作はこれまでにもたびたびブログで触れており、まさに待望の解禁です。
「DAYS BEFORE RODEO」以前のTravis Scottは、トラップ要素もありましたがKanye Westフォロワー~ヒップスターラップの色が濃い音楽性でした。しかし、「Metro Boomin徹底解説」でビートメイカーのWooRockが「この時からTravis Scottがアトランタのシーンに加わっていったような印象です」と話している通り、この作品以降はより一歩アトランタのトラップシーンに接近。現在のTravis Scottのスタイルの確立に向かった重要な作品です。そこで今回は同作を全曲解説します。
1. Days Before Rodeo: The Prayer
プロデュースはTravis Scott本人とMIKE DEAN、WondaGurl。
硬質なピアノループやホーンにタイトなドラムを合わせたビートは、どちらかといえばブーンバップ寄りです。Project Pat風のフロウも使用。
2. Mamacita (feat. Rich Homie Quan & Young Thug)
Travis Scott & MIKE DEANのコンビに加え、DJ DahiとMetro Boominもクレジットされた曲。
Travis ScottとMetro Boominらしいダークなトラップ路線です。しかしこの曲で異様な存在感を放っているのはRich Homie Quan。ヘロヘロな歌フロウはYoung Thugに負けない強烈さです。
SouthsideやLil' Cらが手掛けた曲。
エレクトロニックなシンセを鳴らしたビートで、オートチューンなどで加工した歌フロウを聴かせる曲です。意外なほどドラムが鳴っている時間が少なく、トラップとしてはかなり挑戦的。
FKi 1stらが手掛けたダークなトラップ。
切ないギターループと808の組み合わせは、今聴くとエモラップっぽく響きます。ディストーションを多用したTravis Scottの歌フロウはならではの味。
5. Don't Play (feat. The 1975 & Big Sean)
ヒップスターラップからの流れを感じさせるThe 1975ネタの曲。
しかしドラムや低音の処理は完全にトラップマナーです。Big Seanのキレキレのヴァースも強力。
Travis Scott、MIKE DEAN、Metro Boominの鉄板の布陣がプロデュース。
ズブズブと沈み込むようなダウナーなトラップビートを、Young Thugと共に三連フロウやメロディアスなアプローチも交えて乗りこなした曲です。リリースから10年が経ちましたが現在でも有効。
7. Zombies
Lex LugerとMIKE DEANの共作。
ズビズビとしたシンセを鳴らしたトラップビートで、今聴くとちょっとレイジっぽさもあります。フックで入ってくるアドリブが強烈。
8. Sloppy Toppy (feat. Migos & Peewee Longway)
プロデュースはFKi 1stとMIKE DEAN。
FKi 1stが好むエレクトロ要素と、MIKE DEANのダークで壮大なスタイルが完璧にマッチしたトラップです。サウンド的にはTravis Scott寄りですが、ラップ面ではQuavoが目立つMigos寄りの印象。
Lex LugerとMetro Boomin、MIKE DEANが共同プロデュース。
最も色が濃く出ているのはLex Lugerで、この時期のLex Lugerの旬の煌めきが感じられます。Travis Scottの声芸も見事。
10. Backyard
ソウルフルなネタ使いのトラップ。
ここでのTravis Scottはメロディ成分控えめで、各種エフェクトもあまり使わずラッパーとしての実力をしっかりと見せつけています。フックで入ってくる高音シンセには少しGな味も。
11. Grey
同時代のオルタナティヴR&Bと並べて聴けるような曲。
ハープのような音のループとヘヴィで隙間多めなドラムを使ったビートで、歌寄りのアプローチも多く取り入れて聴かせる曲です。後半でのエクスペリメンタルな展開も印象的。
12. BACC (Bonus)
Metro Boomin & MIKE DEANプロデュース。
ミニマルなシンセと勇壮なホーンを用いた、Lex Lugerっぽいノリのトラップです。比較的シンプルな曲ですが、Travis Scottらしいダイナミックな魅力は出ています。
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