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Ballhead インタビュー ヒップホップの“踊れる”側面を追求する、ビート職人の生きる道

私が「サウンドパックとヒップホップ」「極上ビートのレシピ」の連載を行っていたメディア「Soundmain Blog」のサービス終了に伴い、過去記事を転載します。こちらは2023年6月14日掲載の「極上ビートのレシピ」の第6回です。


SpotifyやApple Musicといったサブスクリプション型ストリーミングサービスの浸透以降、リスナー数が急成長したインストヒップホップ。ここ日本でも活気溢れるシーンが形成され、その中から国境を越えて大きな支持を集めるビートメイカーも増加してきている。この連載では、そんなインストヒップホップを制作する国内ビートメイカーに話を聞き、制作で大切にしている考え方やテクニックなどを探っていく。

第6回に登場するのはBallhead。福井を拠点に活動するビートメイカー集団〈DRS〉の一員であり、dhrmaと同じくWONKのレーベル〈〈EPISTROPH〉〉にも所属しているビートメイカー……いや、「ビートスミス(Beat Smith)」だ。大胆な声ネタの使い方や繊細な路線でもダンサブルなグルーヴを忘れないそのビートは、まさに「Smith=職人」の技である。今回はそんなBallheadに、仲間と一緒に音楽に取り組むことの大切さやそのドラムの作り方、謎のスローガン「STAYYOUNGMOVEMENT」などについて話してもらった。


ブレイクダンスからビートメイクへ

――ヒップホップとの出会いは何でしたか?

中1、中2くらいのことだったと思います。その当時に姉が不良の彼氏と付き合っていて、姉の部屋からNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDDELIの曲が聞こえてきたんですよ。それをきっかけに「こういう音楽があるんだ」と思って、スペースシャワーTVでやっていた30分くらいヒップホップのMVを流す番組を観るようになりました。そこからSHAKKAZOMBIEとか、その辺の日本語ラップを聴くようになったんですね。

その中で一番衝撃を食らったのが、大神BUDDHA BRANDと SHAKKAZOMBIEによるスペシャルユニット)の「大怪我」という曲です。MVを観てブレイクダンスとヒップホップの格好良さを感じて、そこから本格的にハマりました。

――音楽活動は何から始めたんですか?

まずはブレイクダンスです。お金かけずにできるっていうことで、中2くらいから見様見真似で始めました。そこからチームに入ったりしつつ、27歳くらいまでずっとやっていましたね。

ブレイクダンスを始めた後は、DJをやりたくて高校生くらいからレコードを買うようになりました。その流れで「ショウケースをやるなら自分で音の編集もやらなくちゃいけない」と思うようになって、SP-303を買って音の編集をやるようになりました。本格的なビートメイクは20歳くらいからですね。

――じゃあ、ダンサーをやりながらビートも作っていた時期もあったんですね。ビートを作り始めたきっかけは何でしたか?

ショウケースに使う音を、自分で編集するようになったのが入口でした。そのうちに、90’sヒップホップの好きなフレーズを抜き出してループをかけて、そこに好きなドラムをハメ込んで……みたいなことをやり始めたんですよね。

――もうビートメイクですね、それは。

そうなんですよ。でも当時はそれがビートメイクだと思っていなくて、あくまでショウケースの音編集としてやっていました。そこからHIFANAを知って、明確に「ビートを作りたい」と思うようになりました。MPCを生で叩くのとブレイクダンスを合わせたショウケースをやりたくなったんですよね。そこからMPCを買って、本格的にやり始めました。

――かなりダンスと密接な活動を行っていたんですね。

今はダンスとクラブカルチャーの界隈はセパレートしている印象ですが、その当時はダンスとクラブカルチャーの境界線が曖昧だったんですよね。僕の住んでいる地域だけかもしれないですけど。なので、地元のクラブ界隈での流行りにも触れてきました。

ちなみに僕の住んでいる地域は、ヒップホップカルチャーとヒッピーカルチャーが密接に融合してもいるんです。それで、HIFANAもやっていたアフリカの民族楽器の「アサラト」が流行った時があって。音楽理論とかはわからないし、ピアノなどの楽器もやったことはないんですけど、アサラトの経験だけはあります(笑)。


「なんか俺たち、すごい格好良いことしている気がする」

――現在では〈DRS〉や〈EPISTROPH〉などの一員として活動していますが、ビートメイクを始めたての頃は身近にビートメイカーは誰かいらっしゃったんですか?

MPCを買った当時は、周りに全くいなかったんですよ。使い方すらわからなかったんですよね。でも、以前同じダンスチームにいた中学の同級生がたまたま使い方を知っていて、そいつに教えてもらって使い方を覚えました。

地元にいっぱいビートを作っている人がいることを知ったのは、大学を卒業したタイミングでしたね。それで出会った人たちに色々教えてもらいながら、自分も「こんなことができたんすよ~」って話をしながらスキルを身に付けていきました。

――〈DRS〉もその流れで生まれたような形でしょうか?

まさに。プロデューサーっぽいことを遊びでやっている、グループを作って名前を付けたがる友達がいたんですよ。そいつから「ビートメイカーを集めて“パイナップルビーツ”ってクルーを作ったら面白くないですか?」って声がかかったんですよね。俺の認識ではそれがきっかけだと思います。でも、これも話す人によって違うかもしれない曖昧な話なんですよね(笑)。

――その人は今〈DRS〉のメンバーにいる方なのでしょうか?

その人はDJはするんですけど、ビートは作らないです(笑)。ラップをしたくてそんなことを言い出したわけじゃなくて、ただ周りにビートを作っている人が何人かいるから集められました。その時に声がかかったのは、確か俺と6-SenSelampの3人だったと思います。

――そういう誰かの思い付きを本当にやってしまうのはすごいですね。

アハハハハ(爆笑)。でも〈DRS〉を組む前に、一度みんなで音を鳴らして遊んだことがあったんです。いつも自分たちが遊んでいるクラブの隣に、好き勝手に使える無人のレンタルスペースがあって。そこで“パイナップルビーツ”的なやつらで機材を持って集まって、ビート作ったり音鳴らしたりしたんですよね。あれは楽しかった。一晩中やっていたんですけど、終わった後に「なんか俺たち、すごい格好良いことしている気がする」みたいな充実感がありました。この「みんなでビートを作って楽しかった思い出を共有したい」みたいな気持ちも、〈DRS〉が生まれたきっかけですね。

――めちゃくちゃ楽しかったのが伝わってきますね。

〈DRS〉は楽しい思い出しかないですね。今でも楽しいです。みんな結婚とかでライフステージが変わってきたけど、今もたまにみんなでタイミング合わせて遊んだりもしますし。音楽仲間ということもありますけど、普通に仲の良い集まりって感じでやっています。


「癖」や「あえてやっていること」が大事

――制作環境はどのように変化していきましたか?

最初はSP-303とターンテーブルからのスタートでした。その後MPC2000XLとSP-404SXを買って、NICKELMANさんのDCRから2016年に出した『make me sick』ってビートテープまではその環境で作りました。往年のスタイルって感じですよね。

――もしかして、DAWは使っていないんですか?

いや、2017年に〈EPISTROPH〉から出した一作目の『WEDO』からDAWですね。MPCでよく使う「Shift」ボタンが壊れちゃって、お金かけずに使えるAbleton Liveのトライアル版をインストールしてDAWでの制作をスタートしました。今は皆さんのご支援で稼がせてもらったお金で、普通に有料のAbleton Liveを使っています。

――数あるDAWの中からAbleton Liveを選んだ理由は何でしたか?

6-SenSが使っていたのがデカかったですね。あとDibia$eMndsgnなど、当時のLAビートシーンの人たちはAbleton Liveを使っているイメージがありました。それで「ビートといえばこれ」と思って買いましたね。

――DAWへの乗り換えはスムースに行きましたか?

苦戦しましたね。そもそも音の出方が違う。以前はMPCから404や303に音を入れて、エフェクトをかけて曲を作っていたんですけど、その頃に出ていたような音が出ないんですよね。同じサンプルを使っていても似たような音が出なかったので、音の違和感がデカかったというのはありますね。「なんかすごい違和感がある!」って戸惑っていたんですけど……途中で諦めました。解決せずに(笑)。今はもうそっちの方が長くなっちゃっているので、「MPCの出音ってどんなだったっけ?」って逆に忘れちゃいましたね(笑)。

――制作方法はサンプリングオンリーですか?

基本的にサンプリング主体ですが、そこから連想するものをシンセや色々なレイヤーで拡張していくような感じですね。何かしらアディショナルサウンドというか、ちょっと付け加えることはMPCで作っていた時からやっていました。

足すのに使っていたのはmicroKORGです。サンプリングだけで作る場合もあるんですけど、そこから連想するものや想像できるものがあればとりあえず一回やってみることにしています。サンプリングは多い時は3曲くらい使っていますね。

――ネタを細かく刻んで揺らすような印象があるのですが、今はDAWなんですよね。どうやってチョップしていますか?

Ableton Liveの「Simpler」という機能ですね。MPCでチョップする感覚とほぼ一緒なのが良くて。「大体この辺にいい音がありそう」とかを叩きながら探したりできるんですよね。あんまりオートチョップは使わなくて、手動でワープポイントを振るようにしています。もっと賢い方法はいっぱいあると思うんですけど、自分で作っている感を大事にしたいんですよね。

――そういうのが良さに繋がってくる部分でもあるんでしょうね。

その人の「癖」的なところや、「あえてやっていること」が大事なんじゃないかなと思いますね。前回のNICKELMANさんの「全部ハード機材で終わらせる」というのも、まさにそういうことだと思います。


ハードなビートにチャラさを持ち込む

――Ballheadさんは色々な質感の曲をサンプリングしている印象があります。ネタを選ぶ際、どういうものに惹かれる傾向があると思っていますか?

本当になんとなくでしか選んでいないんですよね。ゴールを設定せずにスタートする場合も多いですし。ちゃんとネタは選ぶんですけど、ある意味「Rhythm Roulette」Mass AppealのYouTubeチャンネルにて配信されている、目隠しをしてランダムにピックアップした3枚のレコードからサンプリングして曲を作るという企画)みたいな感じに近いかもしれないです。

――あれもなんとなくその人っぽいネタを選びますよね。サンプリングといえば、Ballheadさんの作風の基本はブーンバップですが、声ネタの選択がチャラいというか、アメリカのメインストリーム寄りだったりするのが面白いと思います。

あれはネットで拾ってきたアドリブ集(※)から使っています。アドリブをビートに入れるとメリハリが付くのが良いと思うのと、二面性みたいなものが好きで積極的に入れているんですよね。シリアスなブーンバップにふざけた声ネタを入れるみたいな。ふざけているのか真面目なのかわからないものが好きなので、チャラい声ネタを積極的に選ぶようにしています。

※一般的にアドリブとは即興を指すが、ヒップホップの場合は「エイ」や「ワット?」のようなガヤ的なものを指す。

――歌をサンプリングする時も1970年代ソウルとかじゃなくて、2000年代のチャラいR&Bとかを使いますよね。

世代的なこともあるんですけど、あれもまさに二面性ですね。ハードなビートにR&Bをぶち込む、そのギャップが楽しくて。あと、「そういうキャッチーな部分があると親近感を持てるんじゃないか」というのもあるっすね。ギャップみたいな話は初期から意識していることです。

――そういえば、CRAMさんに以前取材した時も近いことを仰っていました。Ballheadさんはそういうチャラいネタを使いつつも、でもやっぱり硬派な部分もありますよね。あれは意識的に保っている部分なんですか?

インプットによってアウトプットの色が決まると思うんですけど、俺の場合は〈DRS〉のみんなが教えてくれた海外の音楽が体に染み付いているんですよね。みんなが教えてくれた音楽が格好良さの基準になっている。だから、チャラいネタを触っていてもそれなりに硬派な部分が残るんだと思います。

――いい話……。ほかに何か意識していることはありますか?

ここ最近は、DJで使ってもらえるようなサウンドにするのは意識している部分ですね。だから一番時間をかけているのもミックスで、自分のピーキーな音の出し方と箱鳴りの両立が難しいといつも思います。箱鳴りを確認するには現場で使うしかないから、ライブしてフィードバックを持ち帰らないとピリオドが打てないんですよ。ミックス前まではポンポン出来るんですけど。

――なるほど。クラブからあのビートが生まれているんですね。

プロフィールにもある「ヒップホップのダンスミュージック的側面」というのも、クラブで体を揺らす時のノリを出したいってことなんですよね。ブレイクダンスをやっていたけど、ダンスの影響というよりクラブで踊るためのサウンドって感じです。


デカいドラムを出せばどうなったって格好良い

――研究したビートメイカーはいますか?

いっぱいいますね。ベーシックなところではJ DillaMadlib。あとDibia$eもめちゃくちゃ研究しました。ビートの跳ね感の面で、Dibia$eが開発した部分ってすごくあると思うんですよね。ブーンバップのサウンドを一歩先に引き上げた人だと思っています。

あとはドラムにフォーカスし始めた理由としては、RIOW ARAIというブレイクビーツの人の影響が大きいです。この人の初期作品ってドラムしか鳴っていないんですよ。SP-1200やASR-10とかで音をバッキバキにしてシーケンスを組む人だったんですけど、その人のドラムサウンドに食らっちゃったんです。「デッカいドラムを出せばどうなったって格好良い」というのはその人から学びました。

――そういうヒップホップど真ん中じゃないところからも影響を受けているんですね。

そうっすね。中学・高校の時にはThe Chemical BrothersProdigyを聴いて喜んでいるやつでもあったので、無自覚にエレクトロニカとかの影響もあるんじゃないかと思います。ド直球のヒップホップみたいなのが作れないので、大阪のO.D.S.DJ SCRATCH NICEGRADICE NICEみたいな直球のヒップホップサウンドを作れる人たちには超憧れます。16FLIPとかもそうですよね。ああいう「ヒップホップ!」っていうサウンドを作れる日本人はすごいと思うんですよ。日本人って雑食だったりテクニカルすぎるところがあると思うんですけど、そうじゃなくて体の中にヒップホップが入っていてノリを体現できる人はすごいと思います。

――この流れで、「史上最高のビートメイカー」を5組挙げていただけますか?

変に格好付けずに言うと、J DillaとMadlibの二大巨頭は外せないですよね。あとは単純なマイフェイバリットでIman Omariっす。一回生で会う機会があって、人間的にも惚れちゃいました。ホテルのロビーでIman OmariのDJで踊り狂ったんですよ。そんな体験をしたもんだから、もうIman Omariは最高。最高の男って感じですね。僕の「yella」あたりの作品を聴いてもらえばわかるんですけど、スタイル的にもかなりIman Omariからの影響は大きいです。

あとは先ほども言いましたがDibia$e。僕のスタイルの基本となった跳ねるブーンバップスタイルはDibia$eから来ている部分が大いにありますし、SPでのビートライブを始めた人でもあるので、そこに対するリスペクトもすごいあります。で、5人目はelampかな。

――ここで〈DRS〉の仲間が。

elampは作る音楽も当然格好良いんですけど、DJもめちゃくちゃ格好良いんですよ。僕の中での「何がクールなのか」っていう基準はelampから教わったものです。あと、elampのビートを真似ようとしてもできない。いくら技術的なところや音を真似しても、あのクールさには到達できないんですよ。そこに関しては今でもelampを追いかけています。


パーティの現場やコミュニティから得られるもの

――〈DRS〉のメンバー内でテクニックを共有したりはしますか?

ガンガンします。でも一番デカいのは、テクニックよりも聴いている音楽の共有ですね。自分一人でできるインプットって限られると思うんですよ。範囲も偏ってしまうし。僕だったら放っておけばずっとR&Bばっか聴いているんで、別々のインプットをお互いにできるのが〈DRS〉の一番強いところですね。

――6-SenSさんとかはInstagramでも色々な音楽を共有していますよね。

6-SenSはシャバい音楽がとことん嫌いで、良いと思った音楽をめっちゃゴリ押ししてくるんですよ(笑)。Pop Smokeとか。でもそれで食らったりとかもしますね。NYドリルの音の格好良さも6-SenSから教えてもらいました。そういう自分一人じゃそんなにチェックしないところも教えてもらえるのが、クルーのいい点だと思います。

――6-SenSさんはNYドリル系のビートも作っていましたよね。

俺も作ろうとしているんですけど、出すクオリティに到達しないんですよね(笑)。でも、そういやってトライしていく中で発見があったり、新しいスキルが身に付いたりとかもあります。Ableton Live内で使ったことのない機能を使ったりとか。それで色々手数も増えていきました。

――作品を一緒に作るとかじゃなくても、〈DRS〉の存在自体がいい方向に作用しているんですね。

マジでそうです。必ずしも固まって動くのが重要というわけじゃなくて、一緒に音楽をやっている友人のコミュニティにいることで得られるものや助けられることはいっぱいあると思います。一人で音楽を作っている子は、CRAM君がやっているようなオンラインコミュニティに入るのもいいと思いますね。でも人と生で会って反応を分かち合う充足感は何にも代えられないので、できれば近くで見つけられるといいです。

――〈DRS〉的な集団に憧れているけど、まだできていない人にアドバイスするとしたら何かありますか?

友人として付き合える範囲の近い世代で組むのがいいと思います。35~36歳の人と20歳前後の子じゃ、どうしても先輩・後輩って感じが強くなりすぎちゃうと思うので。友人として遊べる範囲の世代で、一緒に飯を食ったり温泉に行ったりできて、なおかつ同じくビートが好きな友人を作ることがまず大事です。

そのために必要なことは、やっぱりパーティの現場に来ることだと思う。僕らもパーティのコミュニティの中で知り合ったので、そこに行かないとどうにもなんないよねっていうのはあるっすね。ヒップホップの現場、特にビートのパーティってそんな多くないと思うんですけど、機会があったら遊びに来るのが手っ取り早いです。そこで友達を作る。まぁ、友達を作るって簡単に言っても難しいかもしれないっすけどね(笑)。でも、Table Beatsでそれが少しできたんですよ。遊びに来た子たち同士をくっ付けたら、今度一緒にパーティやることになったらしいです。

――いい話。

やっていて良かったと思う経験でしたね。だから今後Table Beatsがある時には来てくれれば、マッチングアプリみたいな感じで俺らを使ってほしいです(笑)。誰とでも繋げようってわけじゃなくて、住んでいる場所や世代、音楽の好みとかを聞いた上で似たような子を紹介するので。インターネット時代とはいえ、生の人間の繋がりより強いものはないんですよ。


〈EPISTROPH〉のレーベルメイトから受けた影響

――Table Beatsといえば、Ballheadさんは〈DRS〉だけではなくて〈EPISTROPH〉にも所属していますよね。加入のきっかけを教えてください。

tajima hal君が主催しているレーベルの「Hermit City Recordings」から出ている、『Beats In Cycle』というコンピレーションのリリースパーティに遊びに行ったのがきっかけです。コンピレーションのリリースパーティが東京であったんですけど、前日に大阪でコンピに参加しているYotaro君と飲んでいたら「また明日東京で」みたいに言われて。それで「おし、行きます!」って言って行きました。

――行動力がすごい!

その頃は好きなビートがずっと流れている環境に飢えていたんですよね。それで行ったら、Kavvdっていう東京のビートメイカー仲間から「こいつ紹介するよ。こいつはヤバいバンドマンで……」とWONKの(荒田)洸君を紹介してもらったんです。それで「おお、WONK! 俺Tinderで女の子とメッセージのやり取りをしていたらバンドの話になって、『俺WONK聴いてるよ』って連絡したら、そこから返信来なくなったんだよね」みたいなことを話して(笑)。そういうくだらない話をした後、「そういえばこれ、この間出したビートテープ。聴いといてよ」ってパッと渡したら翌日に電話がかかってきたんです。「〈EPISTROPH〉っていうのをやるんですけど、良かったら加入してくれませんか?」って。「え、いいの? じゃあ、やりますか!」って感じで、そこから2~3ヵ月くらいでアルバム(『WEDO』)を出しました。2017年のことですね。

――Tinderの話を本人にするのすごいですね(笑)。しかもそれで加入って……。なんていうか、もうコミカライズされてほしいです。

ね。アホみたいな出会い方だった(笑)。

――〈EPISTROPH〉の人たちから受けた影響はありますか?

かなりあります。MELRAW君のライブを観た時に、テクニカルな部分を見せつけるところや、お客さんを喜ばせるためにやっていることがあるのがすごい良いと思ったんですよね。プレイヤーとお客さんって遠すぎてもダメだし、こっちがお客さんに迎合するようなスタンスでいても憧れる対象にはならないと思うんですよね。MELRAW君のお客さんとの距離感の程良い感じがすごくて、それからステージングみたいな部分も必要だと思うようになりました。

――なるほど。

WONKからもそういう部分で影響を受けました。ステージングで音楽の印象ってめちゃくちゃ変わると思ったんですよね。変拍子とかって、俺らみたいなヒップホップ上がりからはわかんないじゃないですか。それをステージングによって、お客さんが上手く乗れるようにコントロールしてくれる。それはWONKのライブを観て学んだことですね。


音、割っていこうぜ!

――また制作の話に戻りたいと思います。よく使う技法って何かありますか?

ブーンバップ的なリズムパターンだけどエレクトロっぽい固い質感のドラムが、最近SoundCloudでビートを聴いていると多いんですよね。多分J.ROBBが始めたことだと思うんですけど、キックがボコンとしていてスネアがすごいクリスピーみたいな。

NYドリルが好きになったって話にも繋がるんですけど、あの固いドラムをどうやって出せばいいのか全然わかんなくて考えたんです。それで見つけた技法が、「(メーターを)赤にぶっち切る」。「音、割っていこうぜ!」みたいな方法なんですよ。サチュレーターやダイナミックチューニングを駆使したりして、音をどんだけぶっち切らせるかみたいなことを最近はよくやっています。

――あの強い圧のキックはそうやって作っているんですね。ドラムといえば、Ballheadさんは打ち方も面白いですよね。聴いていると「あれ、今一個ドラム多くなかった?」みたいな時があったり。

ドラムは長めの時間を手で打って、調子の良い部分を大体4小節くらい抜き出してループをかけ、あとは抜き差しで作っています。MIDIみたいに置いてやってみたこともあるんですけど、本当にいつも同じものを作っちゃうのに気付いてやめました。

――ドラムもそうですが、Ballheadさんのビートは抜き差しも多いし展開も凝っていますよね。以前dhrmaさんに取材した時「展開を考えるのに一番時間がかかる」と話していたのですが、Ballheadさんもそこは時間がかかりますか?

展開というより、ライブで使ってフィードバックを取りながら作っていくので時間がどうしてもかかっちゃいますね。「ここちょっと間延びするから切り詰めよう」とか、「こんな感じだから低音を切っておくか」みたいな感じで、ライブで得た経験を持ち帰って修正していくんです。一曲にかける時間は長いと何か月にもなりますね。

――なるほど。ビートメイクの際、最初に取り掛かるのはどの部分からになりますか?

最初にネタを聴いてインスピレーションを持ってから制作に取り掛かっています。そこからネタを大事にしたビートをまず組んでドラムをハメていくこともありますけど、作る順番はまちまちですね。ウワモノもドラムも何度もやり直すので、最終的にはどっちが先だったのかわかんなくなることも多いです。


最新作『StrictlyButterSoulBeatSmith』のこだわり

――先ほどライブパフォーマンスでの経験がビートに反映されるという話がありましたが、最近出たアルバム『StrictlyButterSoulBeatSmith​』でそれが特に強く出た曲を挙げるとしたらどれですか?

カセットテープにはライブ用じゃない曲も入っているんですけど、基本的には全部ライブ用に作った曲なんですよね。ライブで破壊力を持たせたり、DJで飛び道具になるようなものってイメージでほぼ全曲を作りました。でも、強いて言えば一曲目の「B.O.K」ですね。あれはどこに行ってもどんな場所でも、大体フィットしやすい曲です。

――『StrictlyButterSoulBeatSmith​』には何かコンセプトはあるのでしょうか?

それこそDJユースっていうところですね。最初はアナログレコードにしようとしていたんですけど、最終的にはODD TAPEさんとテープを作ることにしました。

――今回のアルバムはシンセが目立つ曲も多いですよね。

ああいうアディショナルキーは全部弾いて入れています。ああいうシンセはTable Beatsの影響ですね。Phennel Kolianderはほぼほぼシンセでガンガン作るんですよ。dhrmaも最近は弾きでガンガン作っているし。Dyelo thinkもシンセの使い方がめっちゃ上手くて。ああいうのを直で食らっているので、そりゃシンセがメインの曲を作るでしょみたいな感じですね。

――Dyelo thinkさんがこの間出したアルバム(『Sasakia charonda』)もすごかったですよね。それは日本のビートシーン独自のものが開いている瞬間のような気がします。

あるかもしれないですね。あれだけ一緒にやっていたらお互いに影響されるので。Table Beatsはそれぞれ活躍するフィールドも広がってきていて、話の規模も大きくなっているように感じます。日本のビートシーンの時代がまた一つ動いている実感はありますし、自覚もありますね。

――収録曲の「OKIRELOADED」には、某ヒップホップ名曲のメロが入っていますよね。

あれは作っている時にKomplete Kontrolを買ったんですよね。「買ったからなんか弾きたいな~」と思って入れました。

――伸び伸びと音楽を楽しんでいる感じがしますね(笑)。今回特に思い入れの強い曲はありますか?

「all_my_life_bxxxheees」ですね。あの曲がきっかけで色んな人に声をかけてもらいました。俺も好きなんですけど、「これなの?」って思ったっすね。でも、意外とああいう2000年前後みたいな感じのヒップホップをやっている人は少ないかもしれない。

――タイトルに入っている「ビートスミス」とはどういう意味ですか?

「Smith」は職人的なニュアンスがある言葉で、「俺はビート職人っす。渋いっす」みたいな感じで使っています。自己紹介する時も「ビートメイカーです」と言わずに「ビートスミスです」って言うことにしています。

――以前からSNSとかでちょくちょく使っていましたが、作品タイトルに入れるのは今回が初めてですよね。

今ビートメイカーが増えてきて、誰もが「ビートメイカーです」と言いたがるところを「俺はビートスミスだけどね」とイキってみました(笑)。このタイトルは元々〈DRS〉のアルバム用に考えたものだったんですよ。長ったらしい名前が好きだったのと、『StrictlyButterSoulBeatSmith​』は頭文字を取るとSとBがループされている感じも良いなと思って。でも俺が自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃって、〈DRS〉のアルバムを作るのを面倒臭がってしまったんです。それで〈DRS〉用のタイトルを自分で使いました。

――なるほど。今回のようなソロではなく、〈DRS〉のアルバムでは色んな人のビートが入りますよね。その中で自分はこういうビートを作ろうみたいに意識をすることはありますか?

ほかの人どうこうじゃなくて、誰よりも格好良いビートを作ろうと思ってやっています。「このアルバムで俺はかます!」みたいな感じですね。


ビートメイカーのためのメディアを作りたい

――〈DRS〉内外で共作も結構やっているイメージがあるのですが、今後コラボしてみたいアーティストはいますか?

自分から「この人とコラボしたい」って願望はないですね。でも自分のできることを増やしたいので、技術が学べるようなコラボはしてみたいです。例えば、めちゃくちゃ弾ける人じゃなくて、いい具合の鍵盤ができる人。例えばKieferとか観ても、「そんなのわかんないっす」みたいになっちゃうので。そうじゃなくて遠すぎない、いいレベルの鍵盤ができる人と一緒に曲を作りたいですね。「これとこれを、この動かし方をすれば大体そうなるんだ」みたいな発見をしたいです。

あとはダブステップとかの全くジャンル違う人ですね。そういう人と一緒にスタジオに入って、後日そのスキルを別のものに置き換えるのをやりたいなって感じっす。

――今後やってみたいことはありますか?

音楽自体の話じゃないんですけど、ビートメイカーのための動画メディアを作りたいと思っています。ビートメイカーって既存のメディアに出たくても、ある程度のキャリアがないと出られないと思うんですよ。この「極上ビートのレシピ」はすごく良くて毎回読んでいるんですけど、親近感が持てるメディアはまだまだ足りない。これだけビートを作っている人がいるのに、そこはアンバランスだと思っているんですよね。

一回Table Beatsで、福岡の9uirk君を紹介する企画をやったことがあったんです。そのときやったオンライン通話対談みたいなことを、高いクオリティでやれたらいいなと思いますね。今は有志で身銭を削ってやるしかないので、それに賛同してくれる仲間を募集中って感じです。

――なるほど。最後に、SoundCloudのアカウント名に入っていて、2020年リリースの作品のタイトルにもなっている「STAYYOUNGMOVEMENT」について教えてください。

あれは長ったらしい名前にハマり始めた時に考えた言葉ですね。それまで俺はネットであまり発言していないキャラだったんですけど、頭悪そうなキャラを目指したくなって(笑)。それで誰でもわかりそうな単語を並べて、でも全然意味がわからない言葉を作って「この人頭悪い」って思われようとしたんですよね。

あとは人生のスローガンというか、「フレッシュでいたい」って気持ちです。作る楽曲もそうだし、立ち振る舞いも全て。つまりBボーイマインドですね。「STAYYOUNGMOVEMENT」を作っていた時は30歳を過ぎてからだったと思うんですけど、やっぱり先輩扱いされることが増えてきたんですよ。でも、「俺をそんな担がんでもいい」みたいな気持ちがあって(笑)。何年か先に生まれただけだと思うので、それに対する「全然自分は下っ端っすよ」みたいなノリもあります。「常に20代半ばくらいの気持ちで若くいよう」。そういうスローガン的な意味を、意味わかんない文字列で表したのが「STAYYOUNGMOVEMENT」です。

――Ballheadさんのバイタリティはまさに「STAYYOUNGMOVEMENT」そのものですね。今回はありがとうございました!

こちらこそありがとうございました! 俺みたいな地方のやつがこういう場に出たことで、ほかの地方の連中が「俺も頑張ればワンチャン」って思ってほしいし、そういう風に思わせていきたいですね。


Ballhead プロフィール

日本人離れした推進力のあるグルーヴを武器にするStrictly butter soul beat smith。時代に左右される事の無い価値観を提示する厳格な一面を持ちつつ、大胆さと不自然なユーモアを併せ持つアンバランスさが特徴。

WONKやMELRAW擁する新進気鋭のレーベル“EPISTROPH”からのリリースや国内屈指のbeat musicコレクティブ“Table Beats”への参加、海外アーティストとの共作等、ボーダーレスな活動を続けている。

Bandcamp
https://ballhead.bandcamp.com/

Instagram
https://www.instagram.com/ballhead_sbsbs/

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