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2022年おすすめ国内新譜アルバムVol. 12: ninomiya tatsuki、PEAVIS & NARISK、add. some labels

国内新譜アルバム紹介Vol. 12です。

今回紹介するのは、ninomiya tatsuki「trial and error」PEAVIS & NARISK「MELODIC HEAVEN」V.A.「Monday Beat Cypher Mixtape (vol.1)」です。


ninomiya tatsuki「trial and error」

新潟のビートメイカー。

ninomiya tatsukiはヒップホップやアンビエント、エレクトロニカなど多彩な作風を持つアーティストです。その幅広さで複数のジャンルの大型プレイリストの常連となっていますが、アルバム単位で聴くと異なる作風でも共通する美しさを楽しむことができます。

今作はインストヒップホップとアンビエントの二つの軸を持った作品です。異なるジャンルを同じ感覚で聴かせるようなその感性と、美しいメロディ感覚が冴え渡った良作に仕上がっています。

冒頭を飾る「(recall)」はアンビエント路線。ドアを開けるような音や波の音などをエレピに乗せ、穏やかで優しい良さを生み出しています。しかし、そんな中にもヒップホップ由来のループ感があり、単なるアンビエントとも括りきれない魅力です。続く「etude - AL ver.」は哀愁漂うピアノと太いドラムが印象的なヒップホップ路線。タイトル曲「trial and error」も、美しいギターと女声ヴォーカルをエモーショナルに使ったヒップホップです。その後「(swich)」では再びアンビエントに挑んでいます。この「ヒップホップ二曲→アンビエント一曲」という流れは以降も続き、ヒップホップにわずかに寄った絶妙なバランスで楽しめます。また、序盤は美しさが際立つ作風ですが、7曲目「distress」あたりからは不穏な空気も入ってきます。ワブルベースのようなゴワゴワとした低音を使った「escapism」は曲単位で取り出すとかなり強烈なビートです。ninomiya tatsukiは多作なアーティストですが、幅広い作風を構成に見事な構成でパッケージした今作はこれまでの作品の中でも屈指のものだと思います。

なお、そんなninomiya tatsukiと同じく新潟を拠点に活動するビートメイカー、uinの対談を先日行いました。写真も私撮影です。二人のルーツや制作方法などの話を聞いています。毎回恒例「史上最高のビートメイカー」や参考にしているビートメイカーのエピソードもあるので、皆さま是非。


PEAVIS & NARISK「MELODIC HEAVEN」

福岡のラッパーとビートメイカーのタッグ作。私が一緒にPodcast「CATCH WHAT'S NEXT」をやっているYonYonのレーベル、Peace Tree発の作品です。

PEAVISは歌心のあるフロウもタイトなフロウも巧みに用いる柔軟なラップスタイルの持ち主。NARISKJ Dilla系譜のブーンバップからトラップ、アフロビーツなど一つに留まらない幅広い作風を聴かせるビートメイカーです。

そんな二人が手を組んだ今作は、ハウスやエモラップ、R&B風味などやはり多彩なアプローチが楽しめます。しかし、まとまりのないカオスな印象ではなくかなり統一感のある印象です。これはリスニング感覚がカオスに慣れてきたこともあるかもしれませんが、柔らかな感触のミックスやメロディアスなフロウ多めで聴かせるラップによる力もあると思います。幅広いアプローチを取りつつも、軸となるものがしっかりとあるからこそ生まれる強度です。

幕開けの「Continue!」kiki vivi lilyをフィーチャーしたハウス路線の一曲。先行シングルとして3月にリリースされていた曲ですが、DrakeBeyoncéが立て続けにハウスに挑んだ今聴くとまた違う風に響きます(まさに『CATCH WHAT'S NEXT』じゃないですか!)。

続く「Dream Ship」はオーガニックな鳴りのドラムを使ったChane the Rapperあたりが出てきそうな路線、「Sad Melody」は手数の多いドラムとギターのエモラップ系…と最初の三曲だけでも異なる方向性が楽しめます。以降も美しいピアノと歌フロウが沁みる「Beach Side in Fkc」Rin音を迎えた「Last Dance」など良曲が次々と登場。例の高音シンセも飛び出す現行ウェッサイ風味の「ゆっくり」橋本薫のねっとりとした歌をフィーチャーした「Live Long」、uinと共に活動するラッパーのSkaaiと共にピースフルに歌う「Passport」、YonYonの声も聞ける「Be Changed - Remix」と続くラスト4曲の流れは特に素晴らしいです。快作。


V.A.「Monday Beat Cypher Mixtape (vol.1)」

DJ兼プロデューサーのKMが創案したビートコンテスト、「Roland presents KM BEAT CYPHER 2021 supported by OTAIRECORD」の参加楽曲をまとめたコンピレーション。

KMはトラップやハイパーポップ、ハウスやトリップホップ…と多彩な要素を取り入れた作風を聴かせるアーティストです。これまでにもそのクロスオーバー感覚を備えた先鋭的な作風をたびたび紹介してきました。

今回のビートコンテストにも、KMの音楽性を反映するように多彩なビートが集まっていました。私の知人でもHASEDAIがフューチャーベース的な路線で、VOLOJZAがファンキーなハウスで参加(非公開含めるとほかにもいました。どの作品も個性豊か)。こういった全く異なるスタイルが集結したのは、KMだからこそ起きたことだと思います。

そんなビートコンテストの決勝進出者とKMによる曲を収録した今回のコンピレーションは、やはり参加アーティストはバラバラなものの不思議なまとまりのある作品となっています。そして感触はやはりKM作品と同様のもので、「制作へのディレクションを行わずともキュレーションに個性が宿る」ということを再認識させられます。

ハイライトをいくつか挙げると、エレクトロニカ~ウィッチハウス系のJoshunend「Stay in my eyes,Forever」は優勝も納得の素晴らしさ。レイジ路線のD3adStock「Stargazing」は、ラップが乗らずともそのまますんなり聴けけます。ハイテンションなpackage_emoji「P.A.T.T.(KMBC2021 AfterParty Edit)」、エモーショナルなStingRay「REMEMBER」あたりがお気に入り。uinの「life-size」もレイドバックした良曲です。

また、今作には未収録ですがファイナリストの作品だとフォンクのNill Pxssessxd「Apxtemnxphilia」が私としてはベストでした。未聴の方は是非。


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