ヒップホップ/R&Bシーンでのハウス流行の兆し
ヒップホップ/R&Bシーンで現在ハウス流行の兆しが見えてきています。その発端となったのは、Drakeがリリースしたアルバム「Honestly, Nevermind」です。ジャージークラブも少々取り入れつつハウス中心に作り上げた同作は大きな話題を集め、内容的にも充実した快作となりました。
Podcast「CATCH WHAT'S NEXT」でも触れましたが、Drakeは以前から「One Dance」などでアフリカ系のハウスを導入していました。今回のアルバムもその延長線上にあるものです。「Honestly, Nevermind」でエグゼクティブプロデューサーとしてクレジットされているBlack Coffeeは南アフリカのハウスアーティストで、南アフリカの音楽に詳しいaudiot909曰く南アフリカでは「国民的ヒーロー」のような存在だそうです。
そんなBlack Coffeeはグラミー賞を獲得したばかりです。さらに、南アフリカといえばアマピアノのブレイクというトピックもあります。「Honestly, Nevermind」は、タイミング的にもDrakeのこれまでの活動の流れにもピタリとハマる絶妙な作品なのです。
ここまでなら単にDrakeが一人でハウスを取り入れて素晴らしい作品を出しただけなのですが、この後すぐにBeyoncéがハウス路線のシングル「BREAK MY SOUL」をリリース。ビッグネームが立て続けにハウスに挑んだことで、ハウスの話題が上りやすくなりました。
そしてついに先日、Beyoncéのアルバム「Renaissance」がリリース。蓋を開けてみたらニューオーリンズバウンスやディスコなど多彩な要素を導入していましたが、やはり目立ったのはハウスの要素でした。
しかし、今思うと今年はハウスに挑んでいたアーティストがほかにもいました。メインストリームと近いところでは、Diploがリリースしたアルバム「Diplo」もハウス色の強い作品でした。Diploはエレクトロニック・ミュージック畑のアーティストですが、プロデューサーとしてヒップホップ/R&B勢ともたびたび交流しています。今回のアルバムにもMiguelやBusta Rhymes、Lil Yachtyなどが参加。ハウス系のビートに乗る歌やラップを聴くことができます。
Drakeと同じカナダ出身のラッパーのTommy Genesisも、Kanye West率いるVery Good BeatsのCharlie Heatとのタッグ作「world on fire」でハウス要素を導入。ちなみに被せたのか偶然なのかは不明ですが、「Renaissance」と同日リリースでした。
メインストリームの動きとあまり関係がなさそうに見えるところだと、KnxwledgeがBandcampでリリースしたアルバム「家.V1」もタイトル通りのハウス作品でした。そのほかにも作品一枚を大きく使ったわけではありませんが、Robert Glasperのアルバム「Black Radio III」にもハウス路線の「Everybody Love」が収録されていました。
そもそも、ハウス要素の導入は線にはならなかったものの、点としてはこの10年間にも散在していました。ハウスの聖地・シカゴではChance the Rapperが2019年にリリースしたアルバム「The Big Day」に、ハウス要素を取り入れた「Found a Good One (Single No More)」などを収録していました。また、Chance the Rapper周辺で活動するVic Mensaも、2014年のシングル「Down On My Luck」でハウスに軽快なラップを乗せていました。
また、そのVic Mensaも参加したKAYTRANADAの2016年のアルバム「99.9%」も、いくつかの曲でハウスの要素を導入していました。KAYTRANADAは2019年作「BUBBA」でもハウスを取り入れており、近年のこの分野における重要アーティストの一人と言えると思います。そして、KAYTRANADA作品に参加しているアーティストもハウスを取り入れることがしばしばありました。
「99.9%」収録の「TOGETHER」に参加しているGoldLinkも、ハウス風味にたびたび挑んでいるラッパーの一人です。2019年にリリースしたアルバム「Diaspora」はアフリカ的な要素も入っており、「Honestly, Nevermind」と並べて聴くとより楽しめると思います。
そのほかにもAnderson .PaakをフィーチャーしたMac Millerの2016年のシングル「Dang!」などもハウス要素を取り入れたものでした。また、さらに前まで振り返ればNe-Yoの「Closer」のような曲や、Jungle Brothersなどの取り組みもあります。DrakeとBeyoncéのハウスへの接近は革新的な出来事というより、以前から近い距離にあったヒップホップ/R&Bとハウスの距離を再認識する機会と言った方が近いのかもしれません。
それを受けて今「ハウスを作ってみたいと思っているビートメイカーが多くいるのではないか」と考え、異ジャンルに挑戦する際に大事なことなどを聞くインタビューをSoundmainで行いました。インタビュイーはラッパーとしての作品をリリースしたこともありながら多彩なジャンルに挑み、今年はテクノ作品「Hyper Nu Age Tekno」をTaro Nohara名義でリリースしていたやけのはらです。アルバムもかなりユニークな作品なので、あわせて是非。
ここから先は
¥ 100
購入、サポート、シェア、フォロー、G好きなのでI Want It Allです