思い出の裏側の恋 (統合失調症自伝)脚色有り

何事もなく彼女は現れた。

ニコニコ生放送で、彼女は現れた。

その子の第一声はあまり覚えてないが、多分、初見です……というコメントだと思う。

当時生主をやっていた僕の元にパチスロタグで来てくれた女の子。

その子の名前はあずきバーさん。

初見ながらいろいろ質問していくうちに仲良くなり、今度配信の方法教えますね、と約束し、ラインも交換した。

数日後、配信方法を教えるためスカイプで通話。

訳あってビデオ通話になり、彼女の顔を見た瞬間ーー

そこには、絶世の美女ーー芸能人でいえば北川景子を思わせる綺麗な大人の女性がそこにいた。

一目ぼれだった……

多分一目見たときから好きだったんだと思う。

こんな綺麗な人とビデオ通話できるなんて俺は幸せものだなんておもったりして……

その後、ワトソンがしっかりあずきさんをプロデュースし、生主にさせることができた。

あずきさんは俺の枠の常連となり、俺もあずきさんの枠の常連リスナーになった。

あずきさんは瞬く間にリスナー数を増やし、あっというまに先にコミュニティを立ち上げていた俺のコミュ人数を抜いていった。

無理もない、あずきさんは美人で関東のある地区の元ナンバーワンキャバ嬢。

きっとモテモテで、客との会話など商売上手なのは間違いない。

女子力も高く、ポジティブでいつも一緒にかかわっているだけで何やらいいことがいっぱいあった。

そして、ある日のこと。

あずきさんは俺の相談に乗ってくれた。

内容はこうだ。

「コヒレが可愛いので仲良くなりたい。どうすればいいかな?」

というものだった。

「ワトソン君、私もコヒレやったことあるけど、とにかく通りかかるたびに注文するんだよ」

「メロンソーダとかいっぱい注文した方がいいですか?」

「ワトソン君、とにかく注文、注文、注文。全部メロンソーダで、舌がシュレッグになるくらいまで注文するんだよ」

「わかりました」

コヒレも可愛いが、本当はあずきちゃんとのこのラインのやり取りが嬉しかった。

パチ屋でメロンソーダを頼む時も、あずきさんが背中を押してくれたおかげで、たくさんメロンソーダを頼むことができた。

コヒレにメロンソーダを頼むとき、ラインで実況しながら、それ聞いてくれたあずきちゃんとのやりとりが本当に楽しかった。

そして、プレゼントをコヒレに渡すことになった。

クリスマスに。

あずきちゃんにもクリスマスプレゼントを渡したかったが、気に言ってもらえなかったらどうしよう、だとか、当時交際中の彼がいるあずきちゃんにそういうものを渡すのは、よくないって思ったりして。

結局渡せなかった。

本当に好きな人は、あずきちゃんだが、女子力の高いあずきちゃんのアドバイスで、コヒレともっと仲良くなれたらいいなって思ったりして。

「ワトソン君、食べ物は渡しちゃだめだよ、付き合っているわけじゃないから、渡すならこれ渡すと喜んでくれると思うよ」

そう言って、見せてくれたのがアマゾンのハート型の入浴剤だった。

「可愛いですね」

僕がラインで返した。

「でしょ~!」

彼女がラインで返した。

そしてクリスマスの日、プレゼントを渡す時もあずきちゃんとライン実況しながらプレゼントを渡しいった。

再び背中をあずきちゃんが押してくれたおかげで、プレゼントを渡す勇気が出た。

「あずきさん、今からコヒレにプレゼント渡しにいくね!」

「ワトソン君、勇気を持って頑張って!」

好きな人が応援してくれるのが嬉しかった。

応援してくれたおかげで、無事プレゼントも渡すことができた。

コヒレが喜んでくれたことを報告すると、あずきちゃんも一緒になって喜んでくれた。

一生の思い出となった。

しかし、ある日のこと。

あずきちゃんが突然、ニコ生を引退するということをツイッターで報告していた。

僕はちょうど友達の結婚式に行っていて、ホテルの中でその情報を知った。

理由はこうだ。

「彼氏と結婚するから」

あずきちゃんはしっかりときっぱりとした女性だ。

辞めると言ったら辞めるんだろう。

でも、何だろう。

表面上では、僕はあずきちゃんに

「あずきさん、ご結婚おめでとうございます」

なんてことを言っていたが、心のどこかでは、悔しかったり、苦しかったり、複雑な気持ちがそこにはあった。

俺とあずきちゃんは所詮ネットの付き合い。

リアルのあずきちゃんを知らない。

ネットではネットの距離感があるが、彼女はそこをわきまえていたと思う。

でも、俺の心はそういうことを全然わきまえていなかった。

ただただ画面の向こうの美人な彼女に思いをはせて、いつのまにか本気で好きになっていたんだと思う。

その日、最後のあずきちゃんの放送があった。

明日への扉の曲が流れていた。

泣いていた。

あずきちゃんはリスナーさんとの別れに泣いていた。

そんな泣いてるあずきちゃんを見て、素直に可愛いって思った。

放送が終わり、そっこーで電話をかけた。

「もしもし」

「はい、もしもし」

「あずきさん結婚おめでとう!」

「ありがとう、失礼ですが、誰ですか?」

「ワトソンです。ラインでかけなくてすいません」

「ああ、ワトソン君。ありがとう……」

その後いろいろ会話が弾み、

「私ね、パセリを育てようと思ってるんだけどワトソン君も育ててみない?」

「育ててみます!」

正直パセリを育てること自体はあまり興味はなかった。でも好きな人の前では、りもこんになってしまうのは僕の癖だった。

でも、あらたな試みでいろんな趣味を増やせたらいいかなって思ったりもした。

電話も終わり、友達の結婚式から帰ってきて速攻でパセリの種を買いに行った。

ツイッターで毎日すくすくとパセリが成長していく様子を僕は撮影しアップした。

途中カラスの襲撃も受けたりしたが、ハウスの中で飼うことにし、何十日とその様子をアップした。

「大きくなったねパセリ」

あずきちゃんが、パセリのことについて、言ってくれるたびに、僕は嬉しい気持ちになる。

「パセリ名前考えなくちゃね!?」

「名前ですか?」

ニコ生で公募をとったところ、ふかくにもパセリの名前はうんこちゃんって名前に決まってしまった。

しかし、あずきちゃんは楽しそうにうんこちゃんの成長過程を楽しんでくれた。

そして、その後も僕の放送に何度も足を運んでくれて、ツイッターやラインでも何度も関わってくれて、

それだけで、僕は、心地よい気分になれた。

しかし、そんな日々もそう長くは続かなかった。

俺は、2015年に薬を断薬し、2016年ついに、あずきちゃんとの連絡も終わりを迎えるときが訪れた。

自分の妄想や、メンタルがおかしくなり、自分から好きな人のラインをブロックし、連絡先から消してしまった。

ツイッターでもおかしな呟きが増え、そのたびに、彼女に嫌われたんじゃないかと、彼女が自分のフォローを外してないか、何度も何度確認していた。

でも、妄想状態のころの自分は、常に嘘つくことなく、自分に素直に、自分のルールをしっかり守り、生きていたと思う。

体重も減少し、50キロ前半まで落ちた。

なぜか、顔も引き締まり、眉毛や髪もしっかり整え、男はあまりやらない化粧も覚えた。

急に自信が持てるようになった。

なんだろう。

このパワーの源。

全て虚像が見えてるはずなのに。

この自信。

街中をオシャレしながら歩くだけで、心がこうようした。

きっと、このパワーの源は。

あずきちゃんのおかげなんだろう。

女は好きな人ができると綺麗になるという説を聞いたことがある。

でも、男のケースでもそれは当てはまるんではないか?

あずきちゃんが好きだから……

少しでも好きな人に振り向いてほしいから……

自分がどんどん自分じゃなく変わっていくのがわかった。

あずきちゃん、ありがとう、あずきちゃんのおかげで僕は勘違いながらこんないい男になりました。

そんな勘違いもつかの間、今度はぱったりとあずきちゃんとの関わりがなくなった。

相手から連絡がこなくなった。

嫌われたんだ……

って素直に思った。

自分はしつこくしないように細心の注意をはらっていたつもりだったのに。

しかし、、今となればきっと妄想だったと思う。

あずきちゃんにとって俺という存在はネット友達にすぎないわけだし、

普通にただただ彼女はいつも通りの生活を送っているだけなのに、俺が一方的な妄想で嫌われたと判断して、陰で泣いたりしたりして。

妄想のおかげで、情緒がどんどん不安定になり。

一人で車の中、パチ屋の店内、カラオケボックスの中、一目もはばからず大号泣したりしていて。

なんで俺の心はこんなにも振り回されるだ。

なんでこんなにストレスを感じるんだ。

なんでこんなに相手の気持ちが気になるんだ。

もう伝えよう。

あずきちゃんに。

思いを。

でも相手は人妻。

結婚しているみ。

奪い取ることはできない。

奪い取ったところで、人から奪ったものは人にまた奪われる。

その繰り返し。

でも、この思い。

伝えなければいけない。

伝えなければストレスがやばい。

俺はツイッターのダイレクトメッセージでついに思いを伝えることにした。

「あずきちゃん、ツイッターのダイレクトメッセージには、文字数に限りがある。限りある文字数だけど、それ以上に書き表せないくらい、僕はあずきちゃんのことが好きです。ずっと好きでした。綺麗なところ。優しいところ。あずきちゃんのおかげで自分に自信をもてるようになりました。これからも友達でいてください」

と、送信した。

返事が来た。

「ワトソン君。気持ち嬉しいよ。好きでいてくれたんだ。おばさんすごくうれしい。ワトソンくんの気持ちにこたえることはできないけど、おばさんでよければ、ずっと仲良くしてくれたら嬉しいな」

返事を返した。

「おばさんだなんてそんなことないです。40歳手前には見えないくらい、本当に綺麗で美貌ある女性だと思っています」

返事が来た。

「私どんなおばさんに見える?」

「自分がどんな人間性なのかあまり明かさない魅力的な人に見えます」

「私は本当はのんびりやさんなんだ」

そんなことを言ってきたと思う。

この告白は、ただただ思いを伝えるものとなったが。

数か月か数日後。

とうとう関係も終わりを迎える時が来てしまった。

妄想でどんどん頭がおかしくなった俺は、一方的なダイレクトメッセージを長文で送りすぎ、相手に迷惑を掛けまくってしまった。

「ワトソンくん。悪いけどフォロー外してくれる? ワトソンくんは悪くない。でも私は疲れてしまった。本当はツイッターもやめようかなって思ってるところ」

「わかりました。もう二度とあずきちゃんのツイッターはのぞきません。本当はだめだってわかってるのに、どうしても近づきたくて、好きになってしまった以上、いろいろ酷いこといっぱい言ってしまったりして、本当にごめんなさい」

そして、二人の連絡手段はなくなり。

その後俺は、妄想で頭がおかしくなりまくり、ついに警察に捕まって逮捕された。

あずきちゃんのことを忘れたことはなかった。

入院先の受付のイス座る綺麗な別の女性の背中があずきちゃんにも見えた。

入院先で倒れた患者さんがいた。

だれか助けてと叫んだ人がいた。

なかなか職員さんが駆けつけてこなかったから、

受付の窓ガラスをこぶしで割ろうかなとも頭をよぎった。

でも、割ったらその破片がこの受付のあずきちゃんに似ているひとの背中に飛び散ってしまう。

しぶしぶ俺はあきらめ職員を待った。

倒れた人は助けられ、一命を取り留めた。

妄想が。

頭が酷い。

監視されている。

きっと。

きっと。

きっと、もしかして俺は、あずきちゃんと両想いなんじゃ……

そんな訳のわからない危険な妄想が頭をよぎった。

長い入院をへて、しっかり薬を飲み退院。

妄想は消えた。

それから二年後。

2018年2月ごろ。

あずきちゃんのツイッターはもう見ないと心に決めていた。

しかし、気になってふとツイッターをのぞいた。

すると。

あずきちゃんは、子供をちょうど産んだ日だった。

そんなツイートが流れていた。

よかったね。あずきちゃん。

もう複雑な思いはない。

好きな人が幸せを迎えた。

ただただそれが素直にうれしい。

そうだ。

クリスマスの日に渡せなかったプレゼント。

手紙を添えて渡そう。

プレゼントは職場で作っている、赤ちゃん用のおむつケーキ。

手紙には、こうしるした。

「あずきさん、出産おめでとうございます。ツイッターであずきさんが出産したこと知って、本当におめでとうって気持ちになり、どうしても祝福したくて、おむつケーキと手紙を送ることにしました。あれから2年たちましたが、あのときはツイッターで酷いこといっぱい書いて本当にすみませんでした。全ては、僕が病気でだんやくし、妄想で頭がおかしくなった影響で言ってしまった感じです。本当にごめんなさい。今はA型作業所というところで、元気に働いています。僕も、もし、次生まれてくることがあったら、あずきちゃんみたいにまた素敵な女性と出会えたらいいなって本当に思います。あずきちゃんとあずきちゃんのお子さんが素敵な光あふれる未来を、北海道の地から祈っています」

そして、そんな手紙を書いて送った。数日後のツイッターで。

「友達からおむつケーキいただきました。ありがとう~♪」

そんなツイートを見て、俺は嬉しい気持ちになった。

俺の思い届いた。って。

そして、返事が数日後きた。

内祝の品物と一緒に一通の手紙が届いた。

「ワトソン君。おむつケーキありがとう。手紙もありがとう。私は生まれてきた坊ちゃまと旦那さんと幸せな家庭を築いて光り輝く未来にしていくね。ワトソン君もお体気をつけて、元気になってね。次生まれてきたら、ワトソン君みたいな人とまた仲良くなれたらいいねっ! いつも素直に生きていければきっと私なんかよりいい女性に巡り合えるよ。元気でね。本当にありがとう あずきより」

それから僕は、自分に素直に元気に生きることを心がけることにしました。

おしまい

統失の妄想エッセイを書いています!もし、よろしければ、絡んでくれたら嬉しいです(ヮ´ト∀ン)