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100生きて死ね-直島旅行記vol.9-

最終日の朝。今日もかなりの晴天だ。キッチンに向かうと、小野さんが朝食にフレンチトーストを焼いてくれた。窓から差し込む朝日を背に受け、出来立てのフレンチトーストを食す。


今日は直島にある地中美術館とベネッセハウスミュージアムに行く。小野さん夫婦に別れを告げた後、宮ノ浦港で電動自転車を借り向かった。昨日の豊島と同じく晴天の下駆ける快感は今回の旅の大きな収穫だ。10分ほどすると、地中美術館に着いた。「自然と人間を考える場所」のコンセプトのもと、安藤忠雄により設計された当美術館は、瀬戸内海の景観を損なわぬよう建物の大半が地中に埋没されている。建物全体はコンクリートでできており、入口からは長い一本道が続いた。建物自体は地下であるが、自然光が降り注ぎコンクリートに様々な模様を描いていた。


地下二階からの三階建てであり、まず最下層にあるウォルター・デ・マリアの作品に向かった。階段状の神殿のような大空間の中央に直径2mほどの黒光りする球体(まさにGANTZ)が存在し、空間を取り囲むように金色の三角柱や四角柱が立っていた。天井中央が大きく開いており、降り注ぐ日光が球体に反射されていた。神聖な雰囲気であるが、どこか禁足地に来てしまった感じ。胸の奥底をひっくり返されたような印象を受けた。

続いて、一つ上のフロアに上がった。ここにはモネの睡蓮がある。土足厳禁だったので、靴を脱いでモネが飾られている部屋に向かう。と、そこには幅10mほどの睡蓮が正面に鎮座していた。「見たことあるやつや!」と、声を殺し心の中で興奮する。全体が暗緑色がかり、水面に鈍色の空が反射して夕方と夜の微妙な色合いが睡蓮とともに浮かんでいた。部屋はかなり大きく、20mほど離れていても睡蓮が放つ強烈な印象をひしひしと受け取れた。歩を進め、近づいていく。先ほどまで全体として放っていた印象が一気に無くなり、なんの絵か分からなくなる。近づくつれて、絵の具の盛り上がりや荒々しい筆遣いの跡がはっきりとしていった。画集からは放たれないリアリティーがそこにはあった。

地中美術館を後にしてベネッセハウスミュージアムに向かう。この道中は徒歩のみとのことで、道中に咲いている花々に目をやりながら進んだ。10分ほど歩きたどり着いた。当館では数々の現代芸術作品が置かれている。らせん状の階段を下り、広い踊り場に何やら怪しげに点滅する物体があった。

“Yellow and die"  

 "Laugh and live"

100個の"○○and live"と100個の"○○and die"という言葉がネオンで書かれており、一つずつランダムに点灯する。機械的に次から次へと移り変わる文字。"live"から"die"に"die"から"live"に生と死は同等にあり、その循環を表すかのように。


日も沈んできたので宮ノ浦港に戻り、フェリーに乗る。初の一人旅だったが、まったくいいものになった。窓の外は、寂し気にだが晴れやかな夕日の色を纏っていた。


「どうやって楽に死ぬか考えてるだけだから」


昨日の居酒屋でのことがよぎる。

"よく生きる"とは、若さに固執したり、より長く生きようとすることではなく、誕生から死に至るまでの、自然のサイクルを受け入れことかもしれない。

あの人たちは、”よく生きている”から楽しそうなのか。と妙に納得した。


最後まで読んでいただきありがとうございます!! 東海道中膝栗毛の膝栗毛って「徒歩で旅する」って意味らしいですよ