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上半期のベスト・メタル・アルバムUlcerate『Cutting the Throat of God』を考察&全曲レビュー

毎度期待を裏切らないニュージーランドのデスメタルバンドUlcerate。
最新の7thアルバム『Cutting the Throat of God』は、デスメタルの既成概念を超越した名盤中の名盤だった!


アルバムの基礎情報

アーティスト: Ulcerate
タイトル: Cutting the Throat of God
リリース年: 2024年6月14日
録音: 2023年9月~12月
レーベル: Debemur Morti Productions
ジャンル: Dissonant Death Metal、Technical Death Metal

各曲レビュー

1.To Flow Through Ashen Hearts

イントロの旋律からしてもはやデスメタルに期待されるものとはかけ離れており、このバンドが新たな領域へ踏み込んできたことを明示している。このモチーフを発展させる手法も柔軟で、双方のギターは時に対話的な呼応すら示している。何より鬱屈とした哀感と不吉な予感のブレンドがいかにもUlcerateの音楽だ。

2.The Dawn Is Hollow

よりテンポが速く攻撃的な曲。不協和音と調和音が共存するアヴァンギャルドな表現手法に圧倒される。それでいて、メロディもちゃんと活きているのは、ソングライティングの方向性としっかりかみ合ったミキシングのセンスによるところも大きい。

3.Further Opening the Wounds

息苦しくてうねりのあるリフを主軸としたグルーヴィなナンバー。中盤で一筋縄ではいかない加速と減速を繰り返しながらスラッシュビートへ発展する練り具合が面白い。不協和音に訴えない意味では、これもまた新境地な曲だろう。前2曲に負けず劣らず名曲。

4.Transfiguration In and Out of Worlds

落ち着いた曲調の開始は、バンドの音楽性の深淵さが顕れている。前3曲のようなトリッキーで激しい転調は控えめで少々長さを感じる。今回は全体の水準が非常に高いので、アルバム中最も地味な扱いをされるかもしれないが、ムーディーな良曲。

5.To See Death Just Once

今作で一気に表出してきたブラックメタル的な表現手法がよく顕れている曲。不協和音の渦のようなパートと、クリーンで深淵なパートを往還しながら盛り上げる様は圧巻。アルバム後半の重要な聴きどころだろう。

6.Undying as an Apparition

アグレッシヴかつカオティックに疾走。比較的起伏の少ないこの曲も地味な部類だろうが、ギターとドラムによって積み上げられてきた緊張感を自然に開放するカタルシスがたまらない。

7.Cutting the Throat of God

個人的に2024年ベストメタルパフォーマンスにして、本作における、いや、Ulcerateのキャリア最高傑作。リフレインの魅力、スリリングな発展、リズムの複雑さ、深淵なドラマ性、ヴォーカルパフォーマンス、どこを切っても彼らは登り詰めている。特に5:45~のパートの陶酔は尋常ではない。もう終わらないでくれ!っていうくらい素晴らしいフィナーレだ。

総括

前作『Stare Into Death And Be Still』に比べると、メランコリックさはやや減退したものの、メロディの水準は更に上がり、それでいてより力感とスピード感に満ちた新作である。プロダクション面を含めて、『The Destroyers of All』 以降のいいとこどりに新境地を加えた印象。

彼らの音楽性はジャンル的にはディソナント・デス・メタル、テクニカル・デス・メタルに該当するだろうが、Neurosisのようなアトモスフェリック・スラッジ・メタル的要素やGorgutsのアヴァンギャルド性も色濃く影響を受けてきた。

今回、彼らは不協和音で構築された迷宮のような表現ばかりに訴えるのではなく、メロディをふんだんに生かしてブラックメタル的な手法も取り入れて並列させる曲作りへ傾倒してきた。プロダクションも解像度を重視したもので、バンドの難解な印象を持たれてきたリフも浸透しやすいと感じた。

これは、Jamie Saint Meratの多彩なリズムの引き出し、Paul Kellandの深みと哀愁のある歌唱、Michael Hoggardのダイナミックなギターワークなど、各メンバーの円熟味とパッション溢れるプレイによるところも大きい。Magnus Lindbergのマスタリングの貢献も特筆点。

その結果、パート間の移行、とりわけ加速と減速はこれまで以上にシームレスに聴こえるし、それが作品全体のダイナミクスに寄与している。Ulcerateはただでさえ難解な"不協和音デスメタル"に、複雑な曲構造をクリアーに明示する逆説的な形で、この業界に前代未聞の深淵さと可能性を提供し、孤高のポジションを獲得したと言えそうだ。

関連リソース

Amazon
AppleMusic
Bandcamp
Spotify
TowerRexordsOnline

ひょっとしたら上半期どころか、2024年のベストメタルアルバムにだってなりうるかもしれない。
最後まで読んでいただきありがとうございました。


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