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集大成的なBring Me the Horizon『Post Human: NeX GEn』

進化を止めることのないバンドのスタンスを改めて示した良作でした。

アルバムの情報

アーティスト: Bring Me the Horizon
タイトル: Post Human: NeX GEn
フォーマット: アルバム
リリース年: 2024年5月24日
録音期間: 2021~2024年
ジャンル: オルタナティヴ・メタル、エモ・ポップ

概要

バンドの7thアルバムにして、2020年のEP『Post Human: Survival Horror』に続く"Post Humanシリーズ"第2弾。
当初は2023年9月にリリースが予定されていたが、「不測の事態」に陥った結果、翌年5月にサプライズリリースの形になった。
2023年下旬に脱退したキーボディストJordan Fishが関わった最後の作品になった。

楽曲レビュー

1. [OST] Dreamseeker

僅か20秒だが、Cynthoniの凝ったサウンドコラージュで期待感を高める。

2. Youtopia

今作の中でも特にエモ・ポップな曲。ポップ・パンクに始まり、アコースティック・バラードへとシームレスに流れる展開は彼らの持ち味。シンセサイザーのアトモスフェリックは、重厚なギターやエレクトロニクスとブレンドして分厚いサウンドスケープを構築している。

3. Kool-Aid

近年のBMTHの音楽的変遷とLinkin Parkのキャリア全体をミキサーにかけたような音楽。メディアや消費文化、盲目への風刺を題材としているだけに辛辣で生々しい。それだけにシャウトも多く、メロディックなコーラスやリフとコントラストをつけて、ダイナミクスを確保している。

4. Top 10 Statues That Cried Blood

ハイパーポップへの試みが前面に打ち出されたアップビートでキャッチ―なポップ・パンク。ドラムとベースの力強いリズムセクションの貢献も特筆点。過剰なプロダクションとブレイクビーツでリスナーを飲み込む点がBMTHならでは。"血の涙を流す像"という視覚効果に訴えたダークなコンセプトと曲調にギャップがある点がロックだ。

5. Limousine (feat. AURORA)

ヘヴィかつグルーヴィな入りだが、Deftonesを彷彿とさせる。神秘的でエーテリックなAURORAの声とOliverの組み合わせはダイナミックなコントラストが効いていて、思っていた以上に良かった。

6. Darkside

こちらもLinkin Parkの影響を色濃く感じさせる、エモーショナルでキャッチーな曲。自らのダークサイドを受容するテーマ性は、重厚なリフやエレクニックなビートと、エモーショナルな歌唱との相性にも現れており、緻密なプロダクションにバランス感覚が現れている。

7. A Bullet w/ My Name On (feat. Underoath)

メタルコア界の重鎮とコラボ。Underoathの視点に立つなら、コーラスは『They're Only Chasing Safety』、ブレイクダウンは『Define the Great Line』の路線に近い。

8. [OST] (Spi)ritual

楽曲のコンセプトが反映された儀式的なムードの音楽。インターリュードとしては少々浮いている。

9. N/A

本作にいくつもある"依存症"をテーマとする曲の一つ。タイトルからして世界観の不確かさを物語っている。アコースティックなサウンドにバンドの守備範囲の広さが現れており、比較的エレクトロポップ寄り。この曲が最も評価が分かれやすいのではないだろうか。この歌メロはGreen Dayの「Brain Stew」を思い出す。

10. Lost

極端なポップネスとヘヴィネスのブレンド、激しいブレイクダウン、溢れるような高揚感。まさに近年のファンのニーズに真正面から応えた曲。可愛らしいイントロながら、自己喪失や迷走の葛藤を歌った歌詞が生々しい。

11. Strangers

作中でもかなりエモポップ寄りの曲。プロダクションの洗練度は一つのピークに達している。うつ病などの精神疾患がテーマで、歌詞のメッセージ性もひと際反響が大きそう。

12. R.I.P. (Duskcore Remix)

エレクトロニコア度の高い曲。ビートのしつこい溜め方がBMTHらしい。Duskcoreのミキシングはダンスフロア的なアプローチも意識していそう。ところで、このバージョン以外は今後出るのだろうか。

13. Amen! (feat. Lil Uzi Vert & Daryl Palumbo)

本編の最高傑作。ヒップホップとのクロスオーバーは迷走するバンドが殆どであるが、このバンドに限ってはそうはならない。ミックスの達人だからこそできる曲。目まぐるしく変転するヴォーカル・パートがサビに到達した瞬間のカタルシスは素晴らしい。

14. [OST] P.U.S.S.-E

Cynthoni (Sewerslvt)をライターに迎えた曲。どんな数奇な縁でも引き込んでくるのがバンドの強みでもあり、エレクトロニックな側面で大いにインスパイアされている様子。もっとも、インターリュードとしての必要性は疑問符が付くのだが。

15. Die4u

こちらもドラッグの曲。作中『amo』期の路線に最も近いエレクトロ・ポップ路線。今回のシングル曲の中では地味な扱いをされていそう。

16. Dig It

ソフトでラウドなダイナミクスを打ち出した、BMTHのアルバムの終曲らしい雰囲気。どこまでも感情をさらけ出す意味でも、収録位置としてはここ以外に入りそうもない。

総括

グリッチの歪みやエレクトロニックの混沌の中で内面をさらけ出すという、過負荷的なデジタルサウンドのトレンドを象徴するようなアルバム。

楽曲のタイプもアプローチも過去最高度にバラエティに富んでおり、それでいて多くの部分でクロスオーバーに飲まれることなく自らのカラーを出せている点がBMTHの非凡さだと思う。

その反面、楽曲の多様化にはJordan Fish脱退が少なからず寄与していることも伝わってくる。集大成的ではあってもエピック度に関しては驚きは少ない。「Lost」「Amen!」の出色ぶりを見るに今後の彼らに課される試練は並ならぬものになりそうだ。

過剰な試みが空回りしがちな制作姿勢も含め、デスコアバンドとしてデビューしポップ・ロックへと容赦ない変貌が続くキャリアを彼らならではのやり方でアップデートした良作
次は4年も待ちたくない。

関連リソース

Amazon
HMV
Tower Records Online
Apple Music
Spotify

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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