裏アカ

芸能人は本当によく裏アカがばれる。
芸人はあんまり聞かないが、アイドル、タレント、YouTuber、声優はコンスタントにばれて炎上、活動休止している。
Xを始める前は「そんな危険なもの持たなきゃいいのに」と思っていた。しかし、Xを始めて数ヶ月、裏アカを持つ人の気持ちが結構分かった。「自身のキャラクターから逸脱したネガティブな感情、もしくは思想的意見について、自身の立場を脅かすことなく世の不特定多数の共感を得たいから」だ。

SNS、とくにXは「制限無しの無法地帯」とよく言われるが、それはある人にとっては正しく、ある人にとっては正しくない。

アイドル、タレント、YouTuber、声優、芸人といった、キャラクター商売の人の場合、基本的にそのキャラに沿った発言しか好まれない。今後のイメージや仕事に影響しかねないからだ。もししようものなら、ファンや仕事仲間から余計な心配や勘繰りをされたり、事務所から注意されたりと、面倒が多そうだ。したがって、芸能人の発信は内容に制限が加わり自由な発言は困難となる(ことが多い、「そんなもん知るか!俺は言いたい事言うぜ」精神の人もいる)。

素のままでプレイしている人ならば、わざわざ裏アカなんて作る必要ないかもしれない。しかし大抵はそうではない。皆ある程度キャラの鎧を着ているものだ。そして、当然人間だから、時にネガティブなことも吐き出したくなるだろう。気に入らない奴だっているだろうし、「死ね」と思う事もあっていいと思う。だから、裏アカを作り、そこで表の顔では吐き出せない感情を吐き出す。そこで多くの反響を得て「やっぱそうだよね!あいつ死んで欲しいよね!」などと鬱憤を晴らしたいのだ。「アイドル」=「偶像」に囚われているのは、ファンのみならず本人も同様なのである。

南海キャンディーズの山里さんやパンサーの向井さんがよく「裏アカなんか作らずノートに書けばいいのに」と発言している。しかし、それでは、世の不特定多数の共感が生むカタルシスか味わえないから意味がない。自分の世に放った悪口に付いた無数の「いいね!」を見て、自身の正当性を確認したいのだ。
お二人ともSNSど真ん中の世代ではないから、その辺の風情には実感が湧かないのかもしれない。しかし、SNSに毒されてしまった世代の人間は、悪口はみんなで共有しなければ満足できないのである。

悪口やゴシップほど楽しいエンタメって無いと思う。笑えるだけでなく、その場にいる人との絆が生まれるからだ。共通の敵ほど絆を深める存在はない。おそらく言葉が生まれた瞬間から続くロングセラーなのではないか。人類が初めて発した言葉は「ありがとう」でも「好きです」でもなく「あいつマジムカつく死ね」だったりして。

健全な裏アカをやっている人はいるのだろうか。芸人なんかだとネタツイ用に裏アカ作ってる人とかいそうだ。バズった投稿って、だいたい誰か分からないような抽象的なアイコン、ユーザー名、プロフィールだな。文脈や自我を感じさせない発信元の方が、より多くの人の心にリーチするのだろう。サイバー空間上を漂う無機質な「言葉」のみが、読み手の心を動かすダイナミクスを持つのだ。Xとは、人類史上かつてない特殊でストロングな言論空間といってよいだろう。


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