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アナログレコードと楽しむ子育て:昔の子ども向け音楽集がおもしろい

子育てで見つけたmy favorite things:今回はレコードのこと

赤ちゃんとの暮らしに「レコード」は相性がよい。赤ちゃんは回るものが好きで、円盤のくるくるを一緒に眺める。やさしい音もよい。片面20分ほどで鳴り終わるのもちょうどよい。それにレコードというだけで大人は少し優雅な気持ちにもなる。

レコードを聴き始めたきっかけは、赤ちゃんが生まれてから、母が古いレコードをくれたからだ。それは「音楽と愛と:0才からの音楽/愛の調べ」という10枚組のレコード集。101曲が収載されている。「0才から」とあるので、きっと母も子育てに気合いを入れて買ったにちがいない。でも結局「あまり聴かなかった」という。私も聴いた記憶はない。だから40年前のものだけど状態はきれいだ。

そんなわけで私はAmazonでレコードプレーヤーを買った。再生操作は簡単だ。赤ちゃんをあやしながら、10枚のレコードを代わりばんこにかける。抱きながら、歌いながら、赤ちゃんと一緒にレコードが回るのを眺める。そうやって何か月も家の中で過ごした。

1〜5枚目
6〜10枚目

子ども向けレコードと思いきや、大人の本気あふれる作品集だった

このレコード「音楽と愛と:0才からの音楽/愛の調べ」シリーズには、世界の古今東西の音楽から選ばれた101曲が、楽器や国ごとに体系化され収録されている。このように体系立てて音楽を聴くのは初めてだ。レコードのパッケージ裏には、ひとことずつ曲の解説が書いてある。曲の背景、楽器、作曲家、作詞家、演奏家のこと。すべての音楽は世界の歴史につながっている。

レコード裏には解説がぎっしり

解説冊子も入っている。36ページと薄いが読みごたえがある。このシリーズの監修者(山本直純)、冊子執筆者(宇野功芳)、曲目解説執筆者(渡邊學而)や、各演奏家の紹介がある。みな昭和50年代当時の第一線の音楽家と思われる(ヴァイオリニストの黒沼ユリ子や辻久子、ピアニストの安川加寿子は私でも名前を知っていた)。豪華な布陣だ。

解説冊子
解説雑誌の一部


冊子には制作者の思いがしっかりと書かれている。いくつかの言葉を紹介する。


「-こんなにも大きな力を持っている音楽、こんなにも生活に密着している音楽を、ある程度、体系的・情緒的に分類し、整理して、愛聴者の皆さんに提供することは、音楽事業にたずさわっている私どもの義務であろうと思います。(略)101曲はいずれもが私たちの情感を、やさしく慰め、いたわってくれる曲のみです。それは、乳のみ児をやさしく愛撫する母の手に似ています。(略)そんな母の持つ微妙な感情を、この101曲は、余すところなく私たちに伝えてくれます。-」

刊行元である「日本メールセンター」音楽事業部長 成澤誠司氏の言葉より

「-食事が人間のからだの栄養となるように、音楽は心の栄養になるのです。教養や情操を高める、などというなまやさしいものではなく、それが無くては、人間の心は死んでしまうのです。(略)いちばん大切にしたいのは心です。(略)ぼくは芸術の本質は〈寂しさ〉と〈情熱〉ではないかと思います。人生の本質が〈寂しさ〉と〈情熱〉だからです。したがって芸術にはその反射作用として〈愛〉と〈祈り〉の感情が無くてはなりません。-」

宇野功芳「音楽のある生活」解説文より


制作者の熱い想いが綴られている


子ども向けだからこそ手を抜かない。子どもに媚びない。「家族で楽しめる音楽集を、第一線の音楽家たちで作ろう」という、この企画に関わる大人たちの「本気」が伝わる。40年たった今、どこを探しても、こんな骨太クオリティの子ども向け音楽集はどこにもないんじゃないだろうか(ぜひ作ってもらえたらうれしいな)。


昔の大人たちの心意気が、レコードのなかに残っていて、私はとても元気づけられた。

レコードは入手困難だが、ヤフオクなどで出品されているのを時々見かける。ほかにもよいレコードがないかときどきチェックしている。

「音楽と愛と:0才からの音楽/愛の調べ」の曲目一覧と、感想など

1 乙女の祈り:ピアノの詩情①
Side 1:①乙女の祈り(バタジェフスカ) ②エリーゼのために(ベートーヴェン) ③トロイメライ(シューマン) ④楽しき農夫(シューマン) ⑤楽興の時第3番(シューベルト) ⑥軍隊行進曲第1番ニ長調(シューベルト)
Side 2:①トルコ行進曲(ベートーヴェン) ②ト調のメヌエット(ベートーヴェン) ③春の歌(メンデルスゾーン) ④狩の歌(メンデルスゾーン) ⑤月の光(ドビュッシー) ⑥亜麻色の髪の乙女(ドビュッシー)

【感想】「乙女の祈り」のイントロが赤ちゃんは大好き。「乙女の祈り」のバタジェフスカという作曲家を初めて知る。女流ピアニストで23歳の若さで亡くなったという。

2 トルコ行進曲:ピアノの詩情②
Side 1:①トルコ行進曲(モーツァルト) ②金婚式(マリー) ③調子のよい鍛冶屋(ヘンデル) ④エコセーズ(ベートーヴェン) ⑤ヴェニスの舟歌第2番(メンデルスゾーン) ⑥舟歌(チャイコフスキー)
Side 2:①幻想即興曲(ショパン) ②プレリュード「雨だれ」(ショパン) ③華麗なる大円舞曲(ショパン) ④夜想曲(ショパン) ⑤エチュード「木枯らし」(ショパン) ⑥エチュード「別れの曲」(ショパン)

【感想】ピアノの古典の名曲が勢揃い。Side2ではショパンだけを堪能できる。

3 愛のよろこび:美しいヴァイオリンの調べ
Side 1:①愛のよろこび(クライスラー) ②愛のかなしみ(クライスラー) ③ロンディーノ(クライスラー) ④メヌエット(モーツァルト) ⑤タイスの冥想曲(マスネー) ⑥セレナーデ「白鳥の湖」第4曲(シューベルト)
Side 2:①思い出(ドルドラ) ②ユーモレスク(ドボルザーク) ③熊蜂の飛行(リムスキー・コルサコフ) ④ロマンス第2番へ長調(ベートーヴェン) ⑤ツィゴイネルワイゼン(サラサーチ)

【感想】Side1は辻久子、Side2は黒沼ユリ子の演奏。名曲中の名曲選りすぐり。赤ちゃんはバイオリンよりピアノのほうが落ち着いて聴けるかな?

4 禁じられた遊び:ギターの名曲/ハンガリー田園幻想曲:フルートの名曲
Side 1:①禁じられた遊び(スペイン民謡) ②舟歌(コスト) ③雨だれ(リンゼイ) ④月光(ソル) ⑤アメリア姫の遺書(リョベート) ⑥前奏曲第1番(ヴィラ・ロボス) ⑦スペイン舞曲第5番(グラナドス) ⑧アルハンブラ宮殿の思い出(タルレガ)
Side 2:①精霊の踊り(グルック) ②メヌエット(ビゼー) ③ハンガリー田園幻想曲(ドップラー)

【感想】Side1はギター、Side2はフルート。いずれも日本の演奏人口の多い楽器だそう。赤ちゃんは笛の音色によく反応していた。

5 ドレミの歌:アメリカのうた/庭の千草:イギリスのうた
Side 1:①ドレミの歌(ロジャース) ②トゥナイト(バーンスタイン) ③オクラホマ(ロジャース) ④なつかしのヴァージニア(JAブランド) ⑤ネリーブライ(フォスター) ⑥ジェリコの戦い(黒人霊歌)
Side 2:①庭の千草(アイルランド民謡) ②ダニーボーイ(アイルランド民謡) ③ピクニック(イギリス民謡) ④グリーンスリーブス(インフランド民謡) ⑤アニーローリー(スコットランド民謡) ⑥埴生の宿(ビショップ)

【感想】有名な「ドレミの歌」の歌詞はペギー葉山が訳したのだそう。黒人霊歌の「ジェリコ」は歌詞の意味を調べた。「ダニーボーイ」はゆったりとしたメロディとは裏腹に、戦争に愛する息子を送り出す親の歌ということを知る。赤ちゃんは「ピクニック」がお気に入り。

6 菩提樹:ドイツのうた/トロイカ:ロシアのうた
Side 1:①菩提樹(シューベルト) ②野ばら(シューベルト) ③ローレライ(ジルヘル) ④故郷を離るる歌(ドイツ民謡) ⑤流浪の民(シューマン) ⑥眠りの精(ブラームス)
Side 2:①トロイカ(ロシア民謡) ②ヴォルガの舟歌(ロシア民謡) ③カチューシャ(ロシア民謡) ④赤いサラファン(ロシア民謡) ⑤ともしび(ロシア民謡) ⑥黒い瞳の(ロシア民謡)

【感想】「菩提樹」「野ばら」「ローレライ」を訳した近藤朔風という人物について調べるのに夢中になった。「わらべは見たり野中のばら」「なじかわ知らねど心わびて」など古典の日本語のリズムは私は好きなので、赤ちゃんの耳に心地よく響いていればいいなと思う。ドイツのリート音楽は、メロディも美しいし、和訳もきれいので大好き。

7 オー・ソレ・ミオ:イタリヤのうた/愛の讃歌:フランスのうた
Side 1:①オー・ソレ・ミオ(カプラ) ②帰れソレントへ(クルティス) ③ラ・ノビア(プリエト) ④ルナ・ロッサ(ビアン) ⑤サンタ・ルチア(ナポリ民謡) ⑥カタリ・カタリ(カルディロ)
Side 2:①愛の讃歌(モノー) ②パリの空の下セーヌは流れる(ジロー) ③枯葉(コスマ) ④王様の行進(フランス民謡) ⑤アヴィニヨンの橋の上で(フランス民謡) ⑥夜の調べ(グノー)

【感想】たからかに歌い上げる声の響きが、赤ちゃんけっこう好きなようす。「ラ・ノビア」をよく歌ってあげたが、実はけっこう大人の歌詞。

8 アンダンテカンタービレ:合奏のよろこび
Side 1:①アンダンテ・カンタービレ(チャイコフスキー) ②死と乙女(シューベルト) ③鱒(シューベルト)
Side 2:①アイネ・クライネ・ナハトムジーク(モーツァルト) ②春(ヴィバルディ)

【感想】これはあまりまだ聴いていない。1曲が長くて、赤ちゃん退屈ぎみだったため。

9 聖母の宝石:オーケストラへの誘い1
Side 1:①聖母の宝石(V・フェルラーリ) ②ハンガリー舞曲第5番(ブラームス) ③白鳥の湖(チャイコフスキー) ④アルルの女(ビゼー) ⑤禿山の一夜(ムソルグスキー)
Side 2:①ボレロ(ラヴェル) ②舞踏へのお誘い(ウェーバー)

【感想】ボレロの繰り返すメロディーが赤ちゃん気に入ったようす。最後の盛り上がりがかなり興奮。最初のうちは聴き終わったら寝落ちしてくれていて、寝かしつけたい時にかけたりしていた(うまくいったの2回だけ)。

10 ウイーンの森の物語:オーケストラへの誘い2
Side 1:①金と銀(レハール) ②スケーターズ・ワルツ(ワイトトィフェル) ③ホフマンの舟歌(オッヘンバッハ) ④ドナウ河の漣(イバノビッチ)
Side 2:①ウイーンの森の物語(ヨハン・シュトラウス) ②アンネン・ポルカ(ヨハン・シュトラウス) ③美しき青きドナウ(ヨハン・シュトラウス)

【感想】ワルツやポルカのリズムに合わせて、抱っこで踊りやすい。「ホフマンの舟歌」もすごくきれいな曲で、聴いていたら(自分が)寝てしまいそう。いつか子どもが大きくなったら一緒にウイーンに行ってみたいなぁ。

曲目一覧



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