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東京という下町に

大暑|土潤溽暑
令和6年7月31日

約3年ぶりの引っ越し後の整理もほぼ終わり、やっと生活を取り戻してきた。今回はなんだか新天地に来たというよりも、どこか戻ってきたという表現の方がしっくりくる。以前住んでいた五反田からほど近いのもあるけれど、それ以上に土地との周波数が合うような、日常の営為が自然と発生する感じがある。自分は、この下町の身体感覚というような鼓動を求めていたのだと思う。小さくて身近な、文化史とか民俗とか、そういう言葉で括られるような事象が好きなのだ。

新居の近くには町工場があり、吹き抜けの天井からは重そうな機械がぶら下がっている。自転車で裏通りを走っていると表具屋があり、漢方のお店があり、和菓子屋さんがある。塗装が剥げ落ちているラーメン屋、出口の見えないアーケードの商店街、未舗装の路地にリズムよく配置された飛び石、瓦屋の向かいにある鶏卵屋さん。下町はこれらの小さな商いの集合体だ。中心点も設計図もなく、ただ具体だけがやたらと配置されている。港区のオフィス街で感じるような、各々が私益を指向するいがみ合いは下町には存在しない。

今日も近所を散歩してみる。卸値よりも安いんじゃないかと不安になる八百屋を横目に、これからなじみになるだろう店を探してみる。踏切が降りて、電車が走り去る。黄色い帽子を被った女の子が、律儀に待ちぼうけしている。

帰ってきた、東京に。東京という下町に帰ってきた。

-T.N.

土潤溽暑

ツチウルオウテムシアツシ
大暑・次候

友人にチケットをもらい、久々にアーティストのライブというものに行った。大したファンでもない自分がそのアーティストのライブに行くのは失礼な気もしたけれど、独特の光線とスモークに身を包みながら、大衆の熱狂と興奮の渦に揉まれるのは悪くない体験だった。もう翌日には来なくなった筋肉痛に怯えながら、熱狂を思い返している。

参考文献

コヨム, 東京リリシズム(清明|虹始見), 2021年4月17日, 閲覧2024年7月31日
コヨム, 町工場(清明|鴻雁北), 2021年4月13日, 閲覧2024年7月31日

カバー写真:
2024年7月25日 港区のオフィス 5階にて。こんなところでもバッタは生きている


コヨムは、暦で読むニュースレターです。
七十二候に合わせて、時候のレターを配信します。

東京という下町に
https://coyomu-style.studio.site/letter/tsuchiuruoute-mushiatsushi-2024


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