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雨の日は机上の旅に出る

大寒|水沢腹堅
令和6年1月25日

雨の日が好きだった。雨が降ると、野球部の練習が休みになるから好きだった。窓を打つ雨音を聞きながら、ゆっくりと机上旅行を楽しめる日だった。

小学生のとき、通っていた囲碁教室に行きたくなくて、野球チームに入りたいと親にせがんだ。公園でのキャッチボールや、バッティングセンターに行くのは好きだったが、いざ野球チームに入ってみると、ちっとも楽しくない。練習に ”行かなければならない” のが、究極に嫌だったのだ。その対象が、囲碁から野球へ、そして塾の授業や、大学のサークル活動と、次々に移り変わっていっても、”行かなければならない” ところへ行きたくない気持ちは、ついぞ変わらなかった。その中でも、特に野球部はその傾向が著しく、練習に行きたいと思ったことは一度もなかった。部活動やクラブチームなんて、好き好んで所属している人なんか、誰一人いないと思っていた。

そんな日常の苦痛から解放してくれるのが、雨だった。雨が降ると、練習中止になるか、室内で筋トレだけして、早めの解散となる。最短でうちへ帰り、自分の部屋に籠って、大型の時刻表を捲りながら、足を踏み入れたことのない北海道や九州へと、机の上で旅に出る。机上とはいえど、特急列車は高いから、鈍行でいけるところまで計画を立てる。この営為は、自分にとって心の拠り所であり、圧力から抜け出せる束の間の休息であった。どこまでも行ける、時間すらも操れる。そのくせ、野球部を辞めるという選択肢がなかったのは、制約の中に生み出された余白、搾り出された隙間に心地よさを感じていたからかもしれない。秘密基地は狭く険しい方がワクワクするのと同じで、だだっ広い空地にはロマンを感じない。

今日は久しぶりに雨が降っている。子どもの頃と比べて、雨の記憶を思い出すことが減った気がするのは、ひとえに気候変動のせいだろうか。こんなに雨が降らない日々は、昔の自分だったら気が滅入ってしまうだろう。

-T.N.

水沢腹堅

サワミズコオリツメル
大寒・次候

やってきました大寒。毎年大寒になると、派手に体調を崩す。それも、風邪やインフルエンザなんかではなく、仕事や活動がままならなくなるほど、仕事が手につかなくなるほど、崩れる。無理をしない、たまに手を抜くのも、長く走るコツの一つだと学んだ。

ちなみに今までずっと「たいかん」って読んでた。だからバチが当たってたのかもしれない。

大寒を乗り越えれば、立春。やっと春が見えてきた。


参考文献

なし


カバー写真:2011年9月20日 実家近くの緑陰歩道。台風が過ぎて、静かに佇む2つのベンチ。


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雨の日は机上の旅に出る
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