【5日目】まだ夏に固執している 青いうた フラッシュバックの身分もないのに
夢をみる。
夢に出てくるのはいつも小学校のメンツだった。
高校で出会った人は出てこない。
大学で出会った人も、そのほかで出会った懐かしい人も出てこない。
いつも出てくるのは小学六年生ぐらいの記憶だ。
教室は高校の校舎だったりするのに
登場人物は変わらない。
わたしの中で、全ては小学校で止まっているのかもしれない。
小学校だと認識できるのは、いつもあの男子が出てくるからだ。
彼は、男子の中でも背の順で前から片手で数えられるぐらいの小さめの子だった。
確か、一年生の頃から同じクラスだったはずだ。
だけど、あまり記憶にはない。
5年生の時も同じクラスだっただろうか。
あくまで、彼は、
わたしの友達A(昨日のnoteにも出てきた)の彼氏だった。
学年で一番初めに付き合ったのはこの二人だった。
だから、彼は男子友達から大変冷やかされていた。
元々は、彼は一軍とされる存在だった。
学年で一番モテる男子二人が仲良くて、そこに所属していたはずだった。
サッカーをしていた同士で仲間とされていた。
だけど、彼はなぜかその二人からクビを告げられた。
いつの間にか、その二人からハブられて、うっすらと悪口を言われているようだった。
それが女子と付き合ったことに原因があったのか、
それともそうじゃなく喧嘩をしたのか、
本人もいまいちわかっていなかったように見えた。
だけど、何らかの大きな決別が起きていた。
下校の道、わたしはAとよく帰っていたから、
途中から3人で帰ることも増えてきていた。
もう一人の女子がいる時は、わたしとその子だけで走って帰って、
Aと彼を二人きりにしようとしたこともあった。
そして、その二人がバイバイをした後にAと合流をして、
なんか喋った?なんて、小学生らしく盛り上がったりもしていた。
同時期、ちょこちょこと人が付き合ったり、別れたり、告白したり、振られたり、
そういった恋愛が増えていった。
その影響で、
「小柳が〇〇と喋ってた、仲良くしてた、わたしが好きなこと知ってるのに!」
「隣の席になったの許せない」
「給食の時間に笑って話してた」
なんていう僻みや妬みの喧嘩も増えていった。
四年生の時までにもたくさんの嫌がらせを男子からも女子からもされてきたわたしは、恋愛感情になれるはずもなく、Aと彼を冷やかすだけに終始していた。
そうすることで、「わたしはその人に興味ないよ」と伝えていたのだろう。
そういうかわしをしてきて、
わたしが好意を持たれることはないだろうと思いながら、
友達の彼氏という中で仲良くしていた。
いつからか、趣味がとても近いことを知った。
ボカロが好きで、ちょとグロいものがすきで、ニコ動が好きで。
「命について考えさせられたアニメって何?」
そう質問されたことがあった。
わたしは
「ブラック★ロックシューター」
と応えた。
近所の公園のジャングルジムと上り棒がくっついている遊具のところでの会話。
「だよね、」
とだけで通じ合ったあの澄んでいて、冷たい空気を覚えている。
カゲプロが流行っていたあの頃、
うごメモが流行っていたあの頃、
人生で唯一、話が全部合う友達がいた時間だった。
彼からは「絶対に好きだから聞いて」と秋赤音を教えてもらった。
スカイプで連絡を取り合って、
「ニコッとタウン」という仮想空間で遊んだり、
何をしていたのかも覚えていないような日々を過ごしていた。
ある日、突然ピンポーンと家のインターホンが鳴った。
窓から玄関を覗くと彼が一人だけで立っていた。
約束もしてなかった休日だったはずだ。
そもそも、彼の家は大きい坂を越えた向こう側、
校区内でも違う町で遠い場所に住んでいた。
だから、わたしはとても驚いた。
「話があってさ」
彼は言う。
顔が浮かない感じがした。
「親が離婚することになったんだ」
ふんわりと何かが壊れてしまう気がした。
関係なのか、空気なのか。
「そっか」
「引っ越しはするけど、多分、校区内だから大丈夫」
「ならよかった。いなくなると寂しいからな」
「うん、よかった」
お互い、いつもとは違うノリではなく、人として向き合っている実感があった。
うちの井戸の前で2人で並んで、
言葉数は多くないけど、ゆっくり、ポツポツと事情を話してくれた。
「あ、この後、Aのところいくの?てかもう伝えたの?」
そう聞くと、「いや、別にいいかな」と応えた。
きっとその時点で、Aとは「彼氏・彼女」と言う関係が終わっていたのだろう。
その後、彼はむしろ近いところに引っ越してきて、より頻度に遊ぶようになった。
いつの間にか、別れていたし、それは当然の感じだった。
むしろ、小学生の交際にしてはよく続いたぐらいだ。
小学校の修学旅行は、伊勢志摩スペイン村だった。
わたしはAとBと(バレンタイン前にわたしの悪口を吹聴した)Cと男子二人とグループを組むことになった。そして、わたしは班長。
彼は、仲のいい男子5人で組んでいた。
ひととおり回って、お昼ご飯をバーガー屋さんで食べた後、
わたしとA以外はピレネーというスペイン村一番のジェットコースターに乗りにいった。
ちょうど、そのバーガー屋に彼のグループが来て、
一緒に時間を過ごすことにした。
ゆるい、時間。
「あいつら付き合うらしいで」
「え、まじか、きしょいな」
「あー、あいつも告白するとか言ってた」
「やばー」
修学旅行と恋バナは何十年も共にあるものだろう。
「お前は好きな人おらんの?」
「わたしはいないねぇ〜、〇〇は?」
わたしが彼に聞いたんだっただろうか。
好きな人を聞かれた彼は顔を真っ赤にして、
「いる、けど言わない」と言った。
「え!え!え!」と皆が大盛り上がりになり、
「ダレダレダレ!」と口々に話して、笑う。
みんなどこか「青春だな」って思っていたのだろう、
あえて全てを暴かず、ゲラゲラ笑うことを優先して、終わらないようにしていた。
時計を見ると、ピレネーに行っていた人たちが帰ってくるべき時間になった。
なのに、誰も帰ってこない。
そのあとは、学年みんなで劇を見ることになっていた。
だから、戻ってこないと遅れてしまう。遅れてしまうと、怒られる。
わたしは怖くて、探し回るかを迷った。
不安になり始め、その青春のひとときは終了して、その好きな人は明かされることなく修学旅行はおわった。
そして、6年生も終盤に差し掛かった日々の中で、
彼の好きな人を当てようという昼休みが訪れた。
わたしたちは、クラスメイトの名前を一人ずつ挙げていった。
「違う違う」って言いながら、彼は赤くした顔を伏せるようになった。
「え、あと誰いる?」「もういないよな」「あれえ忘れてる人いるっけ」
「えー告白するの?」と誰かが聞いた。
「……絶対、無理っ!」
今思い出すと、何となく、涙を浮かべていたように思う。
あの時、どうしてだろうと思った。
聞かれたくないのかと思って、わたしは追求するのをやめた。
ちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴って、掃除の時間が始まり、
みんなバラバラに持ち場に行った。誰だったんだろうね、なんて言いながら。
Aとともに帰宅している夕暮れに
「あいつの好きな人、とかげやで」
と言われた。
「え、まじ?うっそだー!ありえんよ」
わたしは、自分が恋愛の対象になると思っていなかった。
だから、自分の名前を上げようとも思わなかった。
でも、考えてみれば、要素はたくさんあった。
そうであることが嬉しかった。
だけど、向こうも告白をするつもりはないというし、
わたしから告白をするのも意味がわからない。
ただ、ただ、友達として、小学校を終われたらと思っていた。
小学四年生の時に、不登校をしていたわたしはスクールカウンセラーに
「中学は私立に行った方がいいんじゃないかな」と言われていた。
小学校のメンバーが全く変わらず、中学に進む地域だった。
だから、小四の時の嫌がらせや地獄を考えたら、絶対に私立に行った方がいいと助言されるのは納得だった。
だけど、わたしは、この時の友達に出会えてしまったから、
彼との楽しい会話を知ってしまったから、
彼らとの時間はとても楽しくて仕方なかったから、
大丈夫だと思ってしまっていた。
中学に行っても、このメンツなら大丈夫だろうって。
仲良くし続けれるんじゃないかって。
わたしは、彼ともいつも通りに過ごした。
友達として好きなだけだったし、彼もそれでよかったみたいで、
ずっと仲良くしていこうと思っていた。
だけど、中学に入ると、彼とはクラスが分かれてしまった。
テニス部に入った彼は、先輩たちに毒されていく。
毒されていくと思うのは、わたしの勝手だ。
きっと、それが男性社会の適合だったんだと思う。
それでよかったのかもしれない。
だけど、彼はあの時までの彼じゃなくなっていく。
ちょっとした違和感は明確になり、男と女の境界線が引かれて、乖離していく。
バラバラな生命体になり、
敵と味方で分かれていくような。
実際は、そんな出来事もない。
彼に何かをされたわけでもない。
普通に、喋らなくなり、すれ違っても他人になっていく、ただそれだけのことだ。
わたしはそのまま、彼を夢に見る。
彼らとの時間の中で、囚われたまま、笑い合ったり、何かから逃げたり、机を突き合わしてしゃべっている。
あの時、わたしは恋をしていたのかもしれない。
いや違うかも。
あの時の時間にわたしは恋をしているんだろう。
恋とは、執着だと思う。
ずっと、あの思い出に執着している。
彼がわたしを好きと思ってくれたことに、執着している。
もし、あの時、付き合っていたのなら。
もし、あの時、同じクラスになっていたのなら。
人生は大きく変わっていたのではないか。
その変化の可能性に執着している。
きっと、生徒会にも入らなかったし、それで目をつけられることもなかった、その結果不登校になることもなくて、ちゃんと授業を受けれて、ちゃんと受験勉強をして、入りたい高校に入れたのではないか。
もっと、まともな人間になれたのではないか。
そういう可能性に執着して、
夢を見ているのだろう。
彼はいつまでわたしの夢に出てくるだろうか。
わたしは、恋をしない人間だと思う。
いわゆる片思いも、強い思いも、LINEを送るドキドキを感じたことも
何も体験をしたことがない。
意識的に、「恋人」を作ることはある。
お互い「恋人になろう」という契約をする。
愛情は知っているけれど、「恋」というものはわからない。
これからも、意識的にしなければ、「恋」はしない気がする。
恋人という存在に少しだけ寄りかかることはしたいけれど、
恋はできない。愛情で付き合いたい。
でも、それも彼に恋をしているからなのだろうか。
恋という名の執着をしてしまっているからなのか。
きっとこういうのも、
「シンデレラシンドローム」になるのかもしれない。
ネットでよく騒がれる
「いじめられてたあの時、女子は助けてくれなかった。彼女もできなかった」と犯罪に走る存在の思考回路と近い。
というより、わたしの思考はそれそのものじゃないだろうか。
わたしは過去に縋り付いて、今の自分を認められていない。
彼が夢に出ることは嬉しい。
あの暖かい時間はわたしの人生にとってかけがえのないものだったから。
ずっと、戻りたくて仕方がない。
苦味の中の一粒の砂糖はひどく甘く感じる。
その甘さに依存して、夢の中で消費し続けているわたしは、
どうすれば断ち切ることができるのだろう。
ずっと内緒にしてきた、
ずっとなかったことにしてきた、
この思いを始めて言葉にしたことで、
わたしは終わらすことができるだろうか。
彼の家の前を通る時、出会わないかと脳裏をよぎる。
今もこの街にいるのか、生きているのか、何をしているのか、
知りたいようで、知りたくない。
今のわたしをどう思うだろう。
胸を張って合える存在だと、わたしは今のわたしを思えない。
隠れてしまいたいと思っているその想いこそが、
夢の中の彼を作り出しているのではないか。
わたしは、今のわたしが恥ずかしいんだ。
早く、自信を持てる自分になりたい。
それこそが、断ち切る最後なのだろう。
その日はまだ、遠い。
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