見出し画像

散文 電車は人になる

無性に泣き出してしまいそうな私は空を飛ぶ蛇のような電車に揺られる。
どこかの何かの赤い光を雨はかき消そうとする。
こんなに寂しい気持ちになるものなんだと、弱い自分を再発見する。
こんなに弱いのか、こんなに弱いのなんてダメだよ、と私は鞭打つことすら出来ない。
会えないことに涙が出そうになるなんて知らなかった。それほどに私はあの人のことが好きなのか。
それとも、ただの依存か。
愛情を注いでくれる人だから、その愛を欲してて、まだ満たされきっていないのに帰らなければならないから、悲しくて仕方がないのか。
自分の承認欲求を知っているから、愛への飢えを知っているから私は自分の純粋な寂しさを信じることが出来ない。
ふと、顔を上げると街灯が見えた。規則的に並ぶその灯りは、誰のことも照らしていない。けれど、ずっとそこで光り続けている。無意味なのに、鑑賞者がいないのなら、世界の全ては意味をなさないのに、ただただあの街灯は光る。
力強くも、か弱くもない明るさで街の一角を照らしている。なんと健気なことか。
電車の中にはたくさんの人がいるのに、あの人はいない。
隣で笑ってくれていない。
持った傘に付いた雨が服に染み込んできて、体が冷える。痛みを伴うのなら、いっそなければ良かったのに。
そんなふうに思っても、もう知ってしまったから消えることが怖い。居なくなってしまったら、耐えれないのは私だけかもしれない。その事実が怖い。こんなにも悲しいのは私だけで、へっちゃらな顔をしてスマホゲームでもしていたら。
夜の雨は静かに闇から闇に移動する。車のライトはその車のためだけにある。
向かいに座る名前も知らない誰かのズボンの裾からあの人を思う。
生きているのは簡単で、酸素が無くならないように、星が降らないように、雨が流れ着くのは海しかないように、当たり前なことらしい。
でも、人間との関係は容易く途切れてしまう。それもヒトの体が水でほとんどができているように、太陽が沈むように、明けない夜はないように、もっと当たり前なことなのだ。
だけど、世の中では永遠があるとされていて、親友は当然にいて、嫌われたりなんかしないみたいな顔をしていて私は生きづらい。
この電車もいつかは止まるのに、みんな平気な顔をしている。
ドアが開いた時、足に冷たい風がまとわりつく。もう私はここから動けない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?