見出し画像

散文『愛と思い出の反比例』

こめかみに汗が流れる。お風呂の中はうるさく無音で、たまに家が鳴る。温まってなんか居なくて、でも暑くはなりたくない。だから私はお風呂から上がることが出来ずにいる。
今日の一日を思い返して、お腹の底があたたかくなる。よくある表現だが、この場合の「あたたかく」はどの漢字だろう。暖かい?温かい?お腹の底とは体温なのか、そもそもお湯的な何かなのか。実態を感じることは人生に置いてなかったけれど、今私が感じているふわふわこそがこの表現に値するものなんだろう。
愛情を感じた1日だった。
私は高校生をやっていたんだなとも思った。
もうすっかり遠い過去で懐かしさを覚えるようになっていた。
母校には卒業の時に建っていなかった校舎が建っていた。知ろうとしないから、あの校舎がなんの場所なのかは分からない。教室か、多目的室か、何らかの施設か。私にはもう関係の無いことなんだと、ふと実感する。散々通いつめて、小さな世界で生きていたというのに、いつの間にか私はその蚊帳の外にいる。蚊帳の中は自由ではなかった。
私は、今、お風呂に囚われている。早くあがりたいけど、外が寒くて出たくない。ああ、もう1時間経つ。水に溶けて一体化するには何時間かかるのだろうか。早く出よう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?