見出し画像

霞が関の官僚の人気が凋落している本当の理由①

こんにちは。牛侍です。

前回の記事、「100ヶ月後に退職するキャリア官僚(まとめ)」には多くの方にご好評をいただきまして、誠にありがとうございました。職業問わず、共感した、考えさせられたという声をいただきました。

今回から、霞が関の官僚の人気が凋落している本当の理由についてお話ししたいと思います。

昨今は、テレビ番組の特集や日刊紙、そして元官僚の方々によって、霞が関の(いわゆる)ブラックな働き方についての情報発信がされています。こうした報道や情報発信のおかげで、日夜身を粉にして働いている現役官僚の皆さんの勤務状況にスポットが当てられ、河野大臣がついに残業代全額支給の方針を発表されたり、国会質問通告の早期化や、対面での質問取りの自粛について与野党合意に至るなど、大幅な進捗が見られます。これらが着実に実施されることにより、他律的な業務に振り回される現役官僚の皆様の就業環境が少しでも改善することを願ってやみません。

(参考記事)テレビ朝日:対面での質問取りの自粛

(参考記事)Yahooニュース:国会質問通告の早期化

しかし、個人的には、国家公務員の就職人気が今後どこまで回復するかには疑問が残ると考えています。なぜならば、国会関連業務の効率化は、霞が関が抱えている問題の一部にすぎず、その他にも多くの改善すべき点や、構造的な問題が残されているからです。

そこで、国会関係と異なりあまり報道されることのないこうした課題について、複数回にわたって、個人的な見解を書いていきます。初回となる今回は、あまりに大上段の話ではありますが、次のテーマについて論じてみたいと思います。

それは「日本では行政と政治があまりに不可分に結びついているのではないか」という問題です。

1.新規採用された官僚の志と現実とのギャップ

行政官を志す学生の方は、自分の官僚時代の同期を見回しても、「高い給与を得るよりも、公共のためになる仕事がしたい」「政策を立案し実現することで、国を良くしたい」という高い志を持って国家公務員試験に合格し、各省庁に採用されます。自分も一年目の人事院研修では、他省庁の仲間と共に、夜遅くまで政策談義やこれからの仕事への熱意を語り合いました。

しかし、実際に行政事務に当たると、執務時間の多くが、国会関連の業務に充てられていることを知ります。国会審議(本会議・各委員会)だけではなく、議員からのレク依頼や資料要求、また法案や税制改正、政策関連のその他根回しを含めると、国会まわりの仕事は業務の多くを占めており、社会経済情勢の分析・政策効果の評価などに使える時間は、業務時間内にはほとんどありません。

「ブラック霞が関」をご執筆され、官僚の働き方改革のオピニオンリーダーである千正康裕さんのような高い志を持つ優秀な官僚は、それでも政策を検討するために現場に足繁く通われますが、それらも多くが業務時間外に行われます。

かくいう千正さんご自身が、「自分で自分の仕事がよかったのかどうかわからない、というのがすごく気持ち悪かった。そこから僕は『じゃ、見に行くしかないな』と思って、平日夜とか土日に現場を見に行くということをやり始めたんです」と語っていらっしゃいます。

(参考記事)Forbes Japan:「60点を狙い続ける」のをやめた。元厚労省官僚・千正康裕の決断


2.やるべき仕事ができないのはなぜか

本来であればむしろこうした仕事こそが官僚の本分というべきですが、なぜそれを業務時間外や土日にやらなければならないのか。それは、そもそも霞が関では、「国会運営や政治に携わることこそが行政官の本分であり、専門的な知見に基づく分析業務や政策立案のための基礎的調査などは、優先順位が目の前の永田町の動きに劣後する」という認識が、暗黙の裡に共有されているからです。

立法府が自らの強力な調査機能や政策分析機能を有さず、各議員事務所がリサーチ業務を行うだけの余裕がない日本では、大局的な政策方針から非常に細かな事実確認、果ては支援者の個別案件に関する問い合わせまで、ありとあらゆる事項が政党・国会議員から霞が関という名の”無料シンクタンク”にアウトソースされます。これに対し、各省庁側はこうした依頼を喜んで引き受け、対応します。この裏には、政治家との関係を強化することで、政党・議員との間に「パイプ」を構築し、いざ自らが望む政策を実現したいと考える場合には、政治的な便宜を図ってもらいたいという意図があります。

3.政治と行政の相互依存関係

このように、日本では政治と行政が相互依存関係にあり、互いが互いを必要とし、支えあう関係が構築されています。そのため、万が一、省庁側が「よりよい政策を実現するために、社会・経済の定量分析と政策の企画立案に注力したい」と考えたとしても、そのようなことは不可能であり、政治家、特に与党の有力議員との関係構築を最優先事項として行動することになります。

さらに加えて、特に各省庁の幹部になればなるほど、自分の次の処遇如何には内閣人事局を通じて政治の意向が反映されることになるため、できるだけ自分のことを評価してもらいたいというインセンティブが働きます。極端な話、時間外の深夜労働が必要となる国会からの依頼を引き受け、実行することにおいて、「部下のライフワークバランス」と「政治からの自分の評価」が天秤の両極にのっている状況にあります。

4.海外との比較(イギリスの事例)

海外と比較しても、日本の政治と行政の関係は、特異なものであると言えます。例えば、同じく中央集権国家であるイギリスでは、政治家と公務員の接触は禁止され、議会と行政府はあくまで閣僚である大臣を通じてコミュニケーションをとることが原則とされています。このため、イギリスの行政官は、幹部クラスや大臣秘書といった一部を除いて、基本的に議員からの様々な要求や根回しに毎日忙殺されるということはありません。また、高級官僚の人事についても、基本的に専門性と中立性が重視される仕組みとなっています。

(参考記事)日経新聞:透明な人事、やりがい生む 「省庁横断の幹部公募制を」霞が関官僚 私は変える(番外編)田中秀明・明治大教授インタビュー

実例として、現在ウェルスナビというフィンテック企業でCEOを務めていらっしゃる柴山和久さんは、英国と日本の財務省の両方で国家予算に関わる仕事をされた経験がありますが、イギリスではほぼ定時帰りであった(18時半まで残業をすると上司に怒られた)一方で、日本に帰ってからは毎日午前3時まで働いていたと語っています。これは、イギリス人の方が日本人より優秀だからではありません。そもそもイギリスでは、行政官のレベルで求められる政治的調整が圧倒的に少ないからではないかと考えられます。

(参考記事)PlusParavi:柴山和久さん・AI投資革命の旗手、ウェルスナビ創業者が経験したどん底


5.まとめ

政治と行政の関係性というのは、日本の統治機構のあり方そのものに関わる問題であり、にわかには動かしがたいものです。しかし、そもそも日本の官僚が多忙を極めている根源的な原因を考える際には、見落とすことはできません。

たとえ霞が関でテレワークが普及しようが、行政に求められる役割が変化しない限りは、結局自宅で深夜までPCで勤務することが求められることになりますし、その場合の労務管理の方法が自己申告では、残業代が満額支給されても、申告される時間の正確性にも不安が残るではないでしょうか。これは、昨今巷で注目されている「DX」(デジタル技術を活用した組織のビジネスモデルや文化を変革すること)ではなく、「デジタイゼーション」(単なるデジタル化。例えば、紙の資料を電子的に保存したり、決裁を電子化すること)にとどまり、抜本的な見直しにはつながらない可能性が懸念されます。

我々は、行政が日本において果たすべき役割を、今一度よく考える必要があると思います。政官の関係性はおそらく国民の総意でしか変革することができないものですが、一人一人が、霞が関で懸命に働く行政官にどのような仕事をしてほしいか、政治的調整にほとんどのリソースをつぎ込んでほしいのか、そうではなくあるべき日本の将来像や政策議論に注力してほしいのか、といったことに少しでも思いを巡らせることは、日本という国が明るい未来を目指すために有益なことではないでしょうか。

6.次回予告

最後に、簡単に次回予告をさせていただきます。

次回は、行政組織の内部での情報独占の話をさせていただく予定です。霞が関では、政治回りをはじめとして、重要度が高ければ高い情報ほど、実際に行政事務のために手を動かす下のレベルには共有されず、上の意見や考えを「忖度」することが求められます。時には壁に耳を当てて、時には後ろからこっそり資料に目を通して、多くの職員が上役の考えを当てに行く「忖度ゲーム」に参加しており、これがうまい人物ほど優秀とみなされる傾向にあります。

これは公務員組織のみならず、日本の伝統的な民間企業でも多く見受けられる現象だと思います。これがなぜ働き方の観点から問題なのかを考えていきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?