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パンフがないのはもったいない! 映画『ジャングル・クルーズ』小ネタ解説

ディズニーランドのアトラクションから生まれた映画『ジャングル・クルーズ』が公開された。「これぞ夏休み映画!」と思えるほどのドキドキとワクワク展開で、『竜とそばかすの姫』のことなんかすっかり忘れるくらいの楽しさ。しかし、残念ながらパンフレット制作がないとのことで、家に帰っても楽しくなる小ネタ集をまとめます。

①意外とヒットしていないアトラクション映画

「カリブの海賊」をモチーフにした『パイレーツ・オブ・カリビアン』を除き、ディズニーのアトラクション映画はあまりヒットしてきませんでした。米国内興行収入を見てもこんな感じ(数字はBox Office Mojoより)。

・『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003) 3億541万3918ドル(制作費1億4000万ドル)
・『ホーンテッドマンション』(2003) 7584万7266ドル(制作費9000万ドル)
・『カントリー・ベアーズ』(2002) 1699億825ドル(制作費3500万ドル)
・『トゥモローランド』(2015) 9343万6322ドル (制作費1億9000万ドル)

ちなみに、『ジャングル・クルーズ』は初週末で、米国内興行収入3420万ドル、世界興行が2763万ドル、それに加えてディズニープラス配信分の3000万ドルを稼いだそう。

過去のアトラクション映画の数字はパンデミック以前のため、比較対象にするにはちょっと難しいですが、同じ週末の米国内興行ランキングは、2位にA24製作でデヴィッド・ロウリー監督作「The Green Knigh」(公開初週)が680万ドルで、3位にM・ナイト・シャマラン監督作の「オールド」(公開2週目)が680万ドルでランクインしているので、『ジャングル・クルーズ』は5倍ほどになります。コロナ禍以降の全米初週興行収入では『ブラック・ウィドウ』が約8000万ドルで、2021年最大だったので、なかなかのヒットと言えそう(ただ『ブラック・ウィドウ』は、+配信の影響もあり、2週目の米興収が67%ダウンしました)。

②知っておきたい「ジャングル・クルーズ」の歴史

アトラクションの「ジャングル・クルーズ」は、米カリフォルニア州アナハイムのディズニーランドがオープンした1955年7月17日からある老舗のアトラクションです。

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当時は気軽に海外へ行けなかったこともあり、ゲストを異国の川に案内し、旅の体験をしてもらうというアイデアをウォルトは気に入りました。しかし、当初は“魅惑的な船旅”という基本案しかなかったそう。

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そのアイデアをブラッシュアップさせたのが『アフリカの女王』(1951)でした。航海中の光景や危険、水浴びの機会がアトラクションのヒントになったといいます。

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この映画のエッセンスは、映画『ジャングル・クルーズ』にも引き継がれました。衣装がかなりポイントを抑えています。

このあたりは、本作が配信されているディズニープラスの『ディズニーパークの裏側 ~進化し続けるアトラクション~』が詳しく解説しています。乾いたアナハイムの地にジャングルができるまで、マンネリ化の脱却、真の主役とも言えるスキッパーの存在、度重なるリニューアルについてなど、さまざまな歴史が学べます。

③名物“トレーダー・サム”のあれこれ

「ディズニーランドは永遠に完成しない」というウォルトの名言どおり、数々のアトラクションが、さまざまなリニューアルを重ねてきました。アナハイムでは「タワー・オブ・テラー」のテーマが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に変わったり、問題作『南部の唄』をテーマにした「スプラッシュ・マウンテン」が『プリンセスと魔法のキス』を題材にしたものにアップデートすると発表されていたりと、時代に合わせて変化していきます。

「ジャングル・クルーズ」もそのうちの1つ。人種差別や不適切な表現は、リニューアルを機に修正されています。

特に今年話題になったのが、トレーダーサム。生首を売る原住民として「ジャングル・クルーズ」で人気のキャラクターでした。日本ではクルーズの最後にお守り売りとして登場します(初期は生首、その後は果物を売ってました)。しかし、このサム、アメリカでは4月に突然姿を消したのです。

ディズニーの映画やパークを含め、文化の盗用は現在進行系で問題視されています。トレーダーサムは、先住民の文化を理解せずに、“見る側”が楽しむ目的のみで、ステレオタイプな描かれ方がされていることが問題になりました。人種差別/植民地主義的だということです。米ディズニーホテルにはサムの名前がついたバーが2つも存在しますが、肝心なアトラクションには不在という結果になってしまいました。

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しかし、そんなサムが、今回の『ジャングル・クルーズ』に女性として登場しました。スキッパーと仲が良いという設定はそのままに、より主体性があり、強い存在として帰ってきました。

USA TODAYによると、エミリー・ブラントは、サムについての話し合いを、製作者、ディズニースタジオ、ディズニーパークを交えて慎重に行ったそう。

「わたしたちは、この懐かしさの感じるライドの斬新さと精神を映画の中で維持する必要があるとわかっていたと同時に、適切な姿で現代に届ける必要もありました」とエミリーは語ります。

ゆえに、冒険映画の先住民=敵 という多くの映画で描かれてきたステレオタイプなどが本作では見直されています。このシーンは、ただのどんでん返しではないのです。サムはある一件から出番が激減し、また、植民地主義の問題に真っ向から向き合っているかと言われればそうではないですが、日本人にとっては、先住民への差別問題はなじみが薄いので、“先住民=恐ろしいもの”として描かれてきた多くの映画を見てきた人にとって、考える/見直すきっかけになったのではないでしょうか。ちなみに、米パークへのサムの復活計画は今のところないそうです。

「滝の裏側」のジョークや、だじゃれ好きな船長などアトラクションのおなじみの要素を取り入れつつ、映画としても充実した物語になった『ジャングル・クルーズ』。『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』『パイレーツ・オブ・カリビアン』を彷彿させる冒険の物語が展開し、ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽がさらに興奮を加速させます。

海外旅行へ行けなかった時代に生まれたアトラクションが、海外旅行へ行けない2021年に映画となり、旅の体験を与えるという偶然。あまりにも出来すぎていませんか…!

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