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手紙 ~砂の城

それから少しして僕はあなたの部屋に半ば入りびたるようになりましたね
あなたはそれを許してくれたしそう望んでいるようにも思っていた
それだけじゃない 
あなたを連れ出して夜の東名高速をドライブ気分で仕事をしたこともあった
それすら「当たり前」のようになっていましたね
僕はただ あなたと居たかったからその想いに素直でいようとしたのです
そんな僕の気持ちをわかってくれていたのか あなたは嫌がる事もなく
僕の誘いに応えてくれていましたね
けれど本当はあなたには他にも大切なものがあった
もう3年以上頑張ってきた「資格試験」が近くに迫っていたのですからね
僕もその話を聞いていたし応援している気持に偽りはありませんでした
とはいえ 結果として僕は僕の都合であなたの時間を奪っていた・・・

試験の朝 あなたを送り出した時と終えて帰ってきた時の表情
その違いをみて試験の感触がどうだったかは容易に想像できました
「どうにかしなきゃ!」
僕はおどけて見せたりどうでもいい話で気を紛らわせようとしたり
平静を装いながらも必死でした
あなたもそれに気づいて笑顔をみせてくれるのだけれどどうにも力ない笑み
それを見てまた僕が焦りだす そんなループでしたね
そしてそんな時間の中 あなたに一本の電話がかかってきた・・・
その人はあなたの試験が「今日」だつたことを知っていて それが終わった
それを踏まえて連絡をしてきたようですね
あなたの時間を横取りせず・・・
そこからして僕とは違っていたのだなって思います
元カレのほうがあなたのことを考えられていたのかな・・・

「もう終わったことでしょ! もう連絡もしないって約束したよ!」
始めあなたは彼をこばんでいた
それから1時間ぐらい話していて 電話を切ったあなたが言いました
「あの人と話してくるね」
「えっ?なんで! 行くことないよ 行ってどうするの!?」
「とにかく行ってはっきりさせてくる 心配しないで」
僕は部屋から出ていくあなたを止められず 見送るしかなかった
不安・・・よりもどこか負けたような悲しいような気分のまま

1時間・・3時間・・夜中になっても帰ってこないあなた
さすがに不安になり探しに出ました
警察にも相談したけど「身内ではない」という理由で捜索願は却下
「大丈夫だから部屋で待っていなさい」一言慰められて帰されました
探すにしてもどこを探していいのかもわからなくて
結局あなたの部屋に戻り待つことにしました
一睡もできずひとりあなたの部屋でうずくまっているしかなかった

朝6時前だったと思います あなたが疲れた顔で帰ってきました
「無事でよかった! どうだった!? 大丈夫?」
そんな僕の呼びかけには応えず 最初のあなたの一言は
「私・・・あの人とやり直したい・・・ごめん・・・」
一瞬 何を言われているのかわからなかったけれど
次第にその意味が大きく重く押し寄せてきました
浜辺に創った砂の城が突然の大波に流されてゆく 
どんなに止めようと藻掻いてみても砂は沖へと流れてゆく
とてもじゃないけど受け入れがたい現実
なぜ?なぜこんなことになっているんだ?
あなたに問いかける間もなく言われてしまいました
「ごめん 帰ってくれる・・・? あなたとはいられない・・・」
これから始まろうとしている夏を前に 僕は寒さを感じながら
ひとりきりで街を歩いていきました




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