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「強みの保有」VS「強みの適用」、どちらが幸福感により影響を与えるのか?ー医師274名の調査からわかったことー

こんにちは。紀藤です。さて、本日は強みに関する論文「強みの保有 VS 強みの適用の違いとその影響」について調べたものをご紹介いたします。

「自分は◯◯の強みが”ある”」と認識していることは「強みの保有」です。
「自分は◯◯の強みを”使えている”」と認識していることは「強みの適用」
です。

言われてみればそうですが、「強み」は持っていると感じても、いつ何時も使えるとは限りません。プライベートではユーモア溢れるおじさんも、仕事では厳しい判断ばかりする役割であれば、保持している「ユーモアという強み」を、仕事で適用することは難しいかもれません。

本研究では、医師を対象に「保有している強み」と「適用している強み」を仕事とプライベートでそれぞれ調べ、幸福感・ワークエンゲージメント・バーンアウトに与えている影響について調べたのでした。

さて、どんな結果になったのでしょうか。内容を早速みてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『特徴的な性格的強みの保有と適用可能性:幸福感、ワークエンゲージメント、バーンアウトに不可欠なものは何か?』
Huber, Alexandra, Cornelia Strecker, Melanie Hausler, Timo Kachel, Thomas Höge, and Stefan Höfer. (2020). “Possession and Applicability of Signature Character Strengths: What Is Essential for Well-Being, Work Engagement, and Burnout?” Applied Research in Quality of Life 15 (2): 415–36.


30秒でわかる論文のポイント

  • 「特徴的な性格的強み」(シグニチャーストレングス)は、仕事や私生活において健康に関する成果を促すとされる。特に医師のような心身にストレスがかかる仕事では特に重要であると考えられる。

  • 本研究では医師を対象に「特徴的な性格的強み」の仕事とプライベートにおける適用可能性と、幸福感、ワークエンゲージメント、バーンアウトの関係を調べた。

  • その結果、医師の強みとして特徴的なものは『誠実さ・親切心・愛情・判断力・公正さ』であり、また強みの適用と強みの保有がそれぞれ与えている結果に違いがあることがわかった。

という内容です。

「強みの保有」と「強みの適用」は違う?!

さて、冒頭にもお伝えしましたが、「強みの保有」と「強みの適用」は違っています。そしてそれぞれを測定する項目として

強みの保有 = 「VIA-Inventory of Strengths(VIA-IS)」
強みの適用 = 「性格的強みの適用性評価尺度(ACS-RS)」

という2つの尺度があります。この2つと幸福感・ワークエンゲージメント・バーンアウトの尺度を用いて、その関連を調査するのが本研究です。

鍵となる概念の「強みの適用」とその尺度については、以下の記事にて詳しく説明をしています。よろしければ。

研究の全体像

さて、本研究では「医師」を対象にしています。曰くカナダの医師は64%が仕事が多すぎると感じており、また48%が仕事の増加を経験、欠勤・離職・早期退職につながったと答えているとのこと。

この医師を対象とし、「強みの保有」「強みの適用」を分けて調べ、どのように「バーンアウト(燃え尽き症候群)・幸福度・ワークエンゲージメント」にどのように影響しているかを調べることは、医師という職業の幸福度向上に繋がるアプローチを探求するのに役立つことが想像できます。

研究の目的

上記背景も含め、本研究ではその目的を、以下のように定めました。

1,VIA(強みの保有)とACS-RS(強みの適用)を比較し、両者の違いを測定すること
2,特徴的な性格的強みと仕事とプライベートにおける強みの適用可能性について、バーンアウト(燃え尽き症候群)・幸福度・ワークエンゲージメントを調べること

参加者と調査方法

では具体的にどのように調査を行ったのか?以下、ポイントをおまとめます。

●参加者:
オーストラリアの大規模大学病院に勤務する医師 274名(平均年齢34.2歳、女性62%、男性38%)

●調査尺度:
以下の5つを測定しました。

(1)「強みの保有」:性格的な強み(VIA-IS )(120項)
(2)「強みの適用」:性格的強みの適用性評価尺度(ACS-RS)
 ・仕事における性格的強みの適用性(ASCS-W)
 ・プライベートにおける性格的強みの適用性(ASCS-P)
  
※個人の上位5つの特徴的な性格的強みについて8項目(仕事4項目、プライベート4項目)で質問し、1まったくない~5いつもある、で評価した
(3)「幸福感(ウェルビーイング)」(Comprehensive Inventory of Thriving:54 項目)
 ・主観的幸福感(SWB)
 ・心理的幸福(PWB)

(4)「ワーク・エンゲージメント」(UWES)(9項目)
(5)「バーンアウト」(Maslach-Burnout-Inventry:MBI-D)(21項目)

●分析
SPSSを用いて、記述統計ならびに、3~5を従属変数とし、回帰分析を行いました。

結果

わかったこと1:医師の強みTOP5は『誠実さ・親切心・愛情・判断力・公正さ』

サンプルの医師について、最も頻繁に報告された個人の特徴的な性格的強みの5つは『誠実さ』(N = 144)、『親切心』(N = 137)、『愛情』(N = 132)、『判断力(知的柔軟性)』(N = 131)、『公正さ』(N = 92)であることがわかりました。

一方、最も頻度の低かった 5つの性格的強みは、スピリチュアリティ(N = 11)、大局観(N = 14)、自律心(N = 16)、思慮深さ(N = 18)、リーダーシップ(N = 20)でした。

わかったこと2:「強みの適用性」と幸福度・エンゲージント・バーンアウトの関係

次に、「強みの適用」(性格的強みの適用性評価尺度(ASCS)と各尺度の関係を調べました。その結果、いくつかのことがわかりました。以下ポイントを4つほどまとめます。

1、強みの適用(ASCS)は、強みの保有よりも「主観的幸福感(SWB)」に関わっていなかった
2,強みの適用(ASCS)は、強みの保有(公正さ・誠実さ・判断力・愛情)よりも「心理的幸福感(PWB)」に関わっていた
3,強みの適用は(ASCS)は、強みの保有(公正さ・誠実さ・判断力・愛情)よりも、ワークエンゲージメントに関わっていた
4,強みの適用(判断力のASCS)は強みの保有よりも、バーンアウト(感情的消耗・非人格化)に関わっていた

まとめると、「強みの適用」(特に公正さ・誠実さ・判断力・愛情の強み)は、ワークエンゲージメントや心理的幸福感に影響があったものの、心理的幸福感は「強みの保有」のほうが影響があったとのことで、結果は完全に一貫するわけではありませんが、「強みの適用のほうがよりそれぞれの結果に関わっている」ことがわかりました。

まとめと個人的感想

様々なモデルでの分析が行われており、読み解くのが少し骨が折れるものでしたが、総合すると「強みの適用(ASCS)は、強みの保有以上に、ワークエンゲージメントや幸福感、バーンアウトなどの結果を説明している」ということが本研究のポイントと言えそうです。つまり、「強みを持っていると感じるよりも、強みを適用できているいう方が結果に対して重要といえるかもしれません。

また興味深いのが、この論文の後半でも紹介されますが、「医師の強みTOP5(誠実さ・親切心・愛情・判断力・公正さ)も、仕事の適用よりも、プライベートでの適用への関連性が高い」という結果が示されていること。やはり強みを持っているからといって必ずしも、仕事で活用できるとは限らない、と言えるようです。

このことについては、別の研究でも同じことが示されており、興味深いところです。(詳しくは以下の記事より)

強みを仕事とプライベート、どのように統合していくかも、まだまだ探求できそうだな、と感じる研究でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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