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「ジョブ・クラフティング & 強み活用 & 欠点修正」を混ぜた介入アプローチは成果に繋がるするのか? ールーマニア80名への研究ー

こんにちは。紀藤です。本日も強みに関する論文をご紹介いたします。今回ご紹介の論文は「ジョブ・クラフティング & 強み活用 & 欠点修正の混合アプローチによる影響を、無作為比較試験で調べてみた」という内容です。

「強み活用のアプローチ」が、人生満足度やワーク・エンゲージメントへの成果にどのような影響を与えるのか?という研究は王道の印象がありますが、このような「3つの介入の混合」+「ランダム化比較実験」という組み合わせはあまり見たことがなく、興味深い内容でした。

<今回ご紹介の論文>
『ジョブ・クラフティング、強み活用、欠点修正の混合介入の効果 ―無作為比較試験』
Barzin, Liubița, Delia M. Vîrgă, and Andrei Rusu. (2021). “The Effectiveness of a Job Crafting, Strengths Use, and Deficit Correction Intervention on Employee Proactive Behaviors and Well-Being: A Randomized Controlled Trial.” Psihologia Resurselor Umane 19 (2). https://doi.org/10.24837/pru.v19i2.496.


1分でわかる本論文の概要

  • 本研究では、在宅オフィスで働く従業員の主体的行動、ワーク・エンゲージメント、人生満足度、ワークライフバランスに対する、ジョブ・クラフティング、強みの活用、欠陥修正の混合介入の有効性を評価した。

  • 本研究の目標を達成するために、3つの測定時点(介入前、介入後、1ヵ月フォローアップ)を設けた2群間(介入群対待機者リスト対照群)の無作為化比較試験が計画された。

  • 大規模な多国籍製薬会社に所属する参加者80人のサンプルが、介入(n = 45)または待機リスト対照(n = 35)条件に無作為に割り付けられた。

  • 混合要因分散分析の結果、ジョブ・クラフティング、強みの活用、欠点の修正を組み合わせた介入 は、短期的には「人生満足度」および「やりがいのある仕事への要求」にプラスの影響を与えたことが示された。

  • その他、ワーク・エンゲージメント、ワークライフバランスに関しては、2群間に有意差は認められなかった。モデレーター分析により、自律性と仕事量が介入効果といくつかの結果との関係の調整要因であることが明らかになった。

という内容でございます。

こうみると、かなり成果が出たように見えますが、本文をよくよく読んでみると「仮説で思ったよりも介入の効果が現れなかった」と書かれており、リアルで興味深い内容でした。

ワーク・エンゲージメントに影響を与えるもの

ジョブ・クラフティング

これまでの研究で、エンゲージメントを向上させる方法の1つとして「ジョブ・クラフティング」が示されています。これは、認知次元・対人関係次元・タスク次元において“仕事に一匙加えること”とも説明されます。

そして最近では、職務要求―資源理論(JD-R理論)によると、従業員が構造的・社会的な職務資源を増加させ、妨げとなる職務要求を減少させるようにバランスを取ることが、ワーク・エンゲージメントを向上させることがわかっています。
 
ジョブ・クラフティングは、仕事の要求とリソースのバランスを取る方法の一つであり、JD-R理論とジョブ・クラフティングが統合され、組織において研究が進んでいます(Bakke&Demerouti, 2014)。

強みの活用

またエンゲージメントを高めるもう一つの工夫として、「強みに基づいた介入」があります。従業員が自分の強みを特定し、開発し、活用する支援により、個人レベルと組織レベルでもポジティブな結果が生まれる研究結果が示されています。
 具体的には、強みの介入は、ワーク・エンゲジメントを高め(Bakker&Van Wingerden, 2021),人生満足度を高め(Dubreuil et al, 2016)、従業員の離職を低下させる、などです。

強みの活用&弱みの修正

さらに近年では、「強みの活用」だけではなく、弱み(欠点)を修正することの両方をバランスよくアプローチすることは、従業員に活力や意欲を与えることが示される研究も登場しています(Quinlan et al)。

Rust(2009)の介入研究によれば、強みだけにフォーカスをするグループに比べ、強みと弱みに取り組むグループのほうが、介入後の人生満足度が高いことが示されました。また実現されていない強みに取り組むことは、ワークエンゲージントや人生満足度にポジティブな影響を与えるという研究もあります(Minhas, 2010)。

本研究の全体像

上記で述べたように、ワーク・エンゲージメントや人生満足度に影響を与えるアプローチが「ジョブ・クラフティング」「強み活用の介入」「強み活用と欠点修正のバランス型アプローチ」という先行研究を確認することができます。

本研究では、これらの「ジョブ・クラフティング、強み活用、欠点修正3つの混合の介入アプローチ」が「ジョブ・クラフティング、強みの活用、欠点修正」に一次成果としての影響を与え、「ワークエンゲージメント、人生満足度、ワークライフバランス」に二次成果として影響を与えるだろう、そして「自律性」と「仕事量」が介入と成果の間を調整するだろう、という研究モデルを生成しました。

3つ合わせたら成果も爆上がりするのか?はたまた、特に影響はないのか。実際にどのような結果になったのか、以下、参加者、方法、結果についてまとめます。

研究モデル

参加者

大手多国籍製薬会社のシェアードサービス部門で働く従業員80名
(4つの部署の従業員をアルファベット順に整理し、ランダムで実験群(45名)と待機群(35名)にわけた)

調査尺度

以下の調査尺度について、3回の測定を行いました。
(事前テスト:介入 1週間前 、事後テスト:介入1週間後、フォロー アップテスト:事後テスト4週間後)

<先行指標>
(1)   ジョブ・クラフティング尺度(Times et al., 2012)
(2)   強みの活用行動(Van Woerkom, 2016)※強みの使用と欠点修正質問表の下位尺度より
(3)   欠点修正行動(Van Woerkom, 2016))※同上
<成果指標>
(4)   ワーク・エンゲージメント(9項目)
(5)   ワーク・ライフ・バランス(Broughら, 2014)(4項目)
(6)   人生満足度(Diener, 1085)5項目
<調整変数>
(7)   自律性(仕事の経験と評価尺度)(Van Veldhoven& Meijiman, 1994)
(8)   仕事量(仕事の経験と評価尺度より)※同上

介入内容

「ジョブ・クラフティング、強みの活用、欠点修正の混合介入」は、JD-R理論(Bakker & Demerouti, 2014; 2017)と目標設定理論(Laytham& Locke, 2007)に基づいて開発されました。そして、具体的には以下のようなステップで介入が行われました。

【「ジョブ・クラフティング、強みの活用、欠点修正の混合介入プログラム】
●実施方法:
・オンラインで行い、参加者は最大14名のグループになるようにする

●プレワーク
・参加者はSava (2008) の性格評価ツールであるDECAS質問票に記入する
・パーソナリティ・プロフィールと16のプロフェッショナル・コンピテンシーの開発度合いを含むレポートを使い、参加者は介入期間中に自分の強みを2つ、弱みを1つ特定する
↓↓↓
●セッション1:強みと弱み&ジョブ・クラフティング(2時間)
{強みと弱みの学習}
・小グループでインタラクティブな演習を行う。自分の強みをどのように活かしているかや、職場でどのような活動で活かしているかについて話し合い、また新しい方法を見つける。自分の欠点や成長についても話し合う。
{ジョブ・クラフティング・エクササイズ}
・その後はジョブ・クラフティングのパートへと進む。この研修はBerg et al. (2010)とJD-R理論(Bakker & Demerouti, 2014; 2017)に基づいてデザインされている。
・仕事をエネルギーと時間の必要性に基づいて分類し、自分の仕事を見直す。参加者は仕事におけるエネルギーと時間の使い方について報告する。
・JD-R理論の紹介後、参加者は小グループに分かれて自分の仕事や職場環境のリソースや要求を特定する。また、ジョブ・クラフティングとは何か、個人と組織にどのような利益をもたらすかを理解するために、バーツ・ビーズのケーススタディ(Berg, Kahn & Dutton, 2010)が配布される。

{次回に向けての課題}
・セッションの最後には、次回のセッションまでに行う2つの活動が全員に配布された・
1)リフレクティッド・ベスト・セルフ:
参加者はそれぞれ、自分のことをよく知っている同僚を指名し、その同僚に、参加者が最高の自分を発揮できた状況を説明してもらうことにした(強みの特定をより正確な結果にすることができる)。そしてそれをパーソナリティ・レポートに加えた。
2)ジョブ・クラフティングのワーク:
各自がジョブクラフティングの事例リスト(Knightら、2021)を学習し、仕事に求める社会的資源、構造的資源、課題を特定する必要があった。
↓↓↓

●セッション2:自己開発計画(2時間)
・従業員はワーキング・ファイルを受け取り、それに基づいて次の3週間で実行すべき3つの行動を設定した:1)強みを活かして構造的リソースを求める、2)別の強みを活かしてチャレンジを求める、3)社会的リソースを求めて不足を伸ばす。
・次に、具体的でやりがいのある目標は、その達成に向けてベストを尽くそうとする意欲を引き出すという目標設定理論の原則(Latham & Locke, 2007)に沿って、参加者に自分に関連するSMARTな行動を定義するよう指示した。
・計画策定後、社員は小グループに分かれ、計画を実行する上で障害となる可能性のある事項や障壁について話し合い、それらを克服するための戦略を共有した。その後3週間、参加者は毎週始めに次のことを思い出させるEメールを受け取った。
↓↓↓

●セッション3:振り返りと感想の共有(1.5時間)
・2回目から3週間後に行われた最終セッションでは、従業員が自分の経験や感想を共有し、新しい習慣の形成や新しく得た情報を生活に取り入れることについて学んだ。

結果

●わかったこと1:「ジョブ・クラフティング」「強みの活用」「欠点の修正」「ワーク・エンゲージメント」「ワークライフバランス」は介入によって上昇しなかった
仮説では、介入によって「強み活用レベルが上昇」し 、「欠点が修正される」というものでしたが、混合要因分散分析によると、介入前後で、有意な群間相互作用は見られませんでした。
 また「ワーク・ライフ・バランス」に関しては、介入前に比べて介入後も、テスト4週間語も、有意な効果は認められませんでした。

●わかったこと2:介入は「人生満足度」に短期的に影響を与えた
「人生満足度」には短期的に有意な効果が認められました(介入後は高まった)。しかし、介入後4週間を見ると、参加者の人生満足度に関して、グループと時間の交互作用は統計的に有意ではなくなりました。

●わかったこと3:自律性や仕事量は介入とジョブクラフティングの間を調整した
「自律性」は、介入とフォローアップ時に測定された社会的資源を求めるジョブ・クラフティングとの関係において、有意な調整変数として作用しました。

まとめと個人的感想

この論文で一番勉強になったのが、介入内容が詳細に記述されている点です。一方、この内容を2時間でやろうとすると、確かに参加者の方は消化不良になるのでは・・・とも、介入する側の立場に立ってみるとも感じました。

そうした介入手法の影響なのか、想定していた仮説が概ね棄却されたこと(強み活用やジョブ・クラフティングなど高まらなかった)も興味深いです。

この強み活用の介入も、かなり手厚く個別コーチングを行ったりもするので、やはり実際の介入方法、介入期間なども結果に影響するんだな、と当然ながら感じました。

多くの論文では、具体的な介入プロセスが明示されておらず、一方、介入したら仮説通りに人生満足度やワーク・エンゲージメント上がりました、みたいな内容もしばしば見ますが、思ったように行かなかったという例も見ると、インパクトを与える介入に何が必要なのか?も考えるきっかけをもらえるように思いました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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