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「強みに基づいたコーチング」はエンゲージメントと希望を高める ~小学生38名への実践~

こんにちは。紀藤です。今日も強みに関する論文をご紹介させていただきます。今日の論文は「小学生に強みに基づいたコーチングを行った結果、”希望”の強みレベルとエンゲージメントが高まった」という内容です。

オーストラリアの私立小学校で、実際のカリキュラムに組み込む形で取り組まれたもので、詳しい介入プロセスと、また定量的な結果だけではなく、関わった教師のコメント(定性データ)も掲載されており、実践に活用できる論文だと感じました。

ということで、早速内容をみてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『小学生を対象とした強みに基づくコー チングを評価するパイロット研究:エ ンゲージメントと希望を高める』
Madden, Wendy, Suzy Green, and Anthony M. Grant. (2010). “A Pilot Study Evaluating Strengths‐based Coaching for Primary School Students.” Coaching Researched. Wiley. https://doi.org/10.1002/9781119656913.ch16.


30秒でわかる本論文のポイント

  • 本研究では、オーストラリアのシドニーにある私立小学校5年生38名が、自己啓発・健康プログラムの一貫として、強みに基づくコーチングプログラムに参加をした。

  • 参加者は2学期にわたって合計8回のコーチング・セッションを受けた。コーチングでは、VIA-Youthを使って性格的強みを明らかにし、意味ある目標を特定し、目標に向かって努力することや強みを活かす方法を指導された。また、自分の最高の状態について書いた。

  • その結果、生徒の自己申告によるエンゲージメントと希望のレベルに有意な上昇をもたらした。

という内容です。

教育における「応用ポジティブ心理学」

「強み」はポジティブ心理学の中核となる考えであり、これらのポジティブ心理学の教育への活用は、その登場から開発されてきました。

オーストラリアでは、2008年セリグマン教授とペンシルバニア大学の研究者チームによって、私立学校のジーロング・グラマー校と協力して「ポジティブ教育の指導・定着・実践」というプログラムが実施されました。

アメリカでは、2006年「ペン・レジリエンス・プログラム」なる、生徒が遭遇した問題に対して、現実的で柔軟な考え方をする方法を教える介入が行われ、生徒のウェルビーイングが改善しました。

イギリスでは、2005年に「ストレングス・ジム」プログラムが実施され、青少年のウェルビーイングに影響を与える研究が行われ、教育に組み込まれる動きがありました。

こうした、ポジティブ心理学を元にして、レジリエンスやメンタルヘルス促進、教育への活用などを行う「応用ポジティブ心理学」は、2000年代中盤から始まってきたようです(今では更に開発が進んでいます)。

本研究の全体像

さて、本論文は2010年のものになりますが、小学生を対象にして「強みに基づくコーチング・プログラム」を実践し、検証をした内容となります。

本研究の目的

「強みコーチングの実施により、小学生のエンゲージメントと希望レベルが向上するか」を確認する

参加者

オーストラリアのシドニーの私立小学校に通う38名の男子小学生(年齢10-11歳)となります。

介入プログラム内容

8週間のコーチングプログラム(1回あたり45分)
(※具体的な介入方法は、後述)

調査尺度

プログラムの1回目と2回目(事前事後)に、以下自己報告式のアンケートに回答しました。

1)精神病理学の尺度(Beck Youth Inventory)
 ー不安・抑うつ・怒りのレベルを評価する
2)性格的強み尺度(VIA-Youth)
3)子どもの希望尺度(Snyder, 2000)
 -子どもの目標指向的思考を主体性などを元に測定する尺度

強みに基づくコーチングの3ステップ

今回の介入である、8週間のコーチングプログラム(1回あたり45分)は、大きく3つの重要なパートで構成されていました。

第一部 強みを特定して自尊心を高めるコーチング

まず、VIAを活用し、自分の性格的強みを特定しました。そして特徴的な強み(主に上位5つの強み)をどのように使っているのかを示す「強みの盾(Strength Shields)」を作成しました。そして、それらを教室に掲示し、定期的に参照するように促されました。

第ニ部 強みを目標に活用するコーチング

次に、参加者が個人のリソース(強みを含む)を特定し、個人の目標に向かってそれらを活用するようにコーチングされました。具体的には、SMART(Specific, Measurable, Attrac-tive, Realistic and Timeframed)(Locke & Latham,2002)を活用し、参加者自身にとって意味のある目標を特定し、 目標達成に向けて努力するよう指導されました。
また参加者は、目標達成に向けて、「自分の強みの1つを活用する新しい方法」を見つけることを実施しました。

<自分の強みの1つを新しい方法で活用した例>
●「向学心の強み」を新しい方法で活用する
目標:今後2週間、毎晩、車に関するノンフィクションを15ページ読む。読んだら母親にサインしてもらう 。

●「リーダーシップの強み」を新しい方法で活用する
目標:学校のお金を集めるために、2人乗友人を巻き込みジェリービーンズ大会のイベントを企画する。校長先生と両親の承認を得る。ランチタイムに食堂の外に店を出す。

●「優しさの強み」を新しい方法で活用する
目標:毎朝学校に行く前に、自分と弟のベッドメイキングをして母親の手伝いをする。父親にやっていることについてサインをもらう。

第三部 目標達成に向けた自己調整コーチング

そして、目標設定に続いて、行動計画の策定、進捗状況のモニタリングと評価という「自己調整サイクル」にを通じて、参加者をコーチングしました。
参加者は、目標に向かって自分で解決策を考え、具体的な行動ステップを考えました。

自己調整サイクル

その他(「グループ・プロセス」と「未来からの手紙」)

●グループプロセス:
個人コーチング・プロセスに加えて、グループ・プロセスも活用されました。参加者はグループで結果を共有し、学んだことを共同で振り返る機会を与えられました。

●未来からの手紙:
自分の最高の状態について書いて、自分のニーズや価値観がどのように満たされているかに焦点を当てて、自分が実現したい全てのことを可能にする解決策を見つける、という自分宛ての手紙を書きました。

結果

コーチングプログラムへの参加によって、開始時(Time1)と終了時(Time2)において「エンゲージメント」「希望」の測定値が有意に増加していることがわかりました。
「希望」については d=2.70と大きな効果量が観察され、「エンゲージメント」についてはd=.98と中程度の効果量が観察されました。

※:コーエンの「d」:効果量を表す指標。d値が0.2を下回ると小さい効果、0.5付近だと中程度の効果、0.8以上で大きい効果と考えられる

教師とコーチのコメント(定性結果)より

また論文内において、教師とコーチからのコメントが記載されていました。その内容がイメージがつきやすいものでしたので、一部引用いたします。

このプログラムは、教師が生徒との好ましい関係をさらに発展させるのに成功した方法だと感じた。生徒の強みを理解することは、生徒をよりよく知る 上で、また生徒が何に夢中になり、何に突き動かされているかを理解する上で、とても役に立った。また、性格の強みにつ いて学ぶことは、生徒が自分だけでなく、 他の人の強みも認識するための有益な対話となった。

例えば、ある新入生が入学して きたとき、生徒たちは彼を歓迎し、最初の 数週間は、勇敢さや社会的知性といった彼 の強みをすぐに指摘した。生徒たちはまた、自分の結果を家族と分かち合い、話し合うことに非常に熱心だった。保護者からの 好意的なフィードバックは圧倒的で、保護者の多くも自分の強みを見つけるために(VIAの)ア ンケートを実施した。(中略)クラス・グループの強みを記録すること で、クラス・ダイナミックスについて興味深い洞察が得ることができた。

まとめと個人的感想

シンプルな研究ではありますが、コーチングのステップが明確で、興味深く読ませていただいた論文でした。

個人的な感想ですが、私自身はVIAではなく、ストレングス・ファインダーを活用して、今回のような3ステップを用いてコーチングを行うことがあります。その結果を思い起こすと、実際にクライアントのエンゲージメントや希望が高まるような感覚があるなあ、感じました。

もちろん、強みに基づくコーチングプロセスでは、様々な介入が含まれているので、どこが機能しているのかを特定することは難しいものです(3ステップのどの部分が機能しているのか?、個人プロセスとグループプロセスのどちらがより効いているのか?など)。よってこの点についてはさらなる探求が必要とも思いますし、介入ごとの結果の違いに関する論文も出ています。

いずれにせよ、こうした一つの体系があることで、小学生の教育に活かすことができるのは、有益な示唆だと感じた次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!


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