お薦めの一冊『問いかけの作法』
こんにちは。紀藤です。本日は、最近読んだ本の中から、お薦めの一冊をご紹介させていただきます。今日ご紹介の一冊はこちら。
「問い」の質が対話を変える
「脳が擦り切れるくらい、”問い”を考えてください」
人材開発・組織開発の大学院の授業で、そのようなことを、その道のプロの実践者でもある先生から、投げかけられた記憶があります。
はて、自分は脳が擦り切れるほど考えているだろうか・・・?
ミーティングや研修の場で、「どう感じましたか?どう思いましたか?」と
”なんとなく”投げかけてはいないだろうか。
場を作るファシリテーションをしている役割を持つものとして、自分を振り返った時に、どきりとする感覚を持ったことを覚えています。
確かに、そうなのです。
「たった一文の問い」なのに、その問いかけによって、場がイキイキとして、皆が意見を重ねて、新しいものが生まれていくこともある。逆に、内容としては似たような問いなのに、皆が頭を抱えて沈黙が続くこともある。
この「問い」が持つ力と、そのメカニズムには奥深いものがあると感じつつ、それを言語化するのは、なかなか難儀なものだと感じていました。
そして、私と似たような感覚を持たれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ファシリテーションをする人だけではなく、チームミーティングを行う管理職、何かのプロジェクト担当となった人。人を巻き込む際に、”場に問いかけて動かす力”は、社会において、人とともに協働する上で大切なスキルの一つにも思えます。
「問いかけ」の作法を徹底解説してくれる著書
さて、そんな前置きを踏まえて、今回ご紹介の著書は、「どのように問いかけをすれば、皆が創造的になり、成果につなげることができるのか?」という問いかけのメカニズムを、実践的に指南してくれる本です。
本書では、よくある問いかけの失敗例として、こんなシーンを紹介しています。(以下引用です)
そして、悲しきかな、優秀でモチベーションが高い人ほど、このサイクルでチームのポテンシャルを抑制してしまい、チームから孤立してしまう・・・と述べています。
その中で「チームで成果を出す」ための一つの武器が「問いかけである」と述べています。そして本書においては
・問いかけが持つ力とは?
・なぜ今、成果を出す上で「問いかけ」が求められているのか?
・問いかけのメカニズムとは?
これらのことを一つずつ説明してくれており、この著書で書かれていることを使いこなすことができれば、確かにチームの成果が高まりそう!と思える、わかりやすくも実践的な書です。
「問いかけ」によって、口を閉ざすor開く
「問いかけ」が持つ力を語る上で、一つわかりやすい例がありました。
たとえば、ある企画ミーティングで、マネージャーがこう問いかけることがあったそうです。
「何か良いアイデアはないですか?」
すると、誰も話すことはなかった、というもの。
(こうした場面、心当たりがある方もいるかもしれません)
しかし、部下の心境としては「萎縮させ、プレッシャーを感じさせるものでしかなかった」とのこと。
理由としては、アイデアは浮かんでいるけれど”良い”アイデアかどうかは自信がなかった、だから「良いアイデアじゃないじゃないか」とツッコまれたらどうしよう・・・と思い発言ができなかったわけです。
質問を投げるマネジャーからすれば、何気なく問いかけた「何か良いアイデアはありませんか?」だったのかもしれません。しかし、無自覚にも含めた”良い”というたった二文字が思考を制約してしまったわけです。
もし、ここで「頭に浮かんだアイデアを、3つ以上ポストイットに書いてみてください。今の段階では、現実的なものではなくても、どんな小さなものでも構いません」などと言ったとしたら、もっと書きやすくなったでしょう。つまり問いかけの方法によって、相手のリアクションは大きく変わる、ということです。
問いかけの4つの基本定石
では、具体的に「問いかけのメカニズム」にはどのようなものがあるのでしょうか? 基本定石として、以下4つが紹介されていました。
1、相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する
(例:この企画で「特に大事にしたかったこと」はなんですか?
「どうして」そう思ったんですか?
「いつ頃から」そういう考えを持つようになったのですか?)
2,適度に制約をかけ、考えるきっかけを作る
(例:「どんなユーザーをターゲット」にしたいかですか?
「これまでボツになった企画の中で」もったいないと思うものがありますか?)
3,遊び心をくすぐり、答えたくなる仕掛けを施す
(例:「悪夢のような職場」の条件を3つ挙げてください。
「社長にバレないように戦略を一つだけ追加するなら」、何をいれちゃいますか?)
4,凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す
いつもと違う言葉遣いをすることで、意外な発想を促す
(例:(いつも遣っている言葉=利便性ではなく)「不便だけど、つい使いたくなる」プロダクトとはどんなものでしょうか?)
問いかけのサイクルモデル
そして、上記4つの定石を基盤にしつつ、どのように「問いかけ」を展開していけばよいのか、以下モデルが示されていました。
(1)見立てる
最初のステップが、この「見立てる」です。というのも、チームの現状、そして望ましい姿、そこに至るためにどのような変化が必要なのか? が見えなければ、効果的な問いも定まらないからです。
そのために、「観察」、それに実行に移す「着眼点」を持ち、チームとチームメンバー1人1人を観察することが大事であるそうです。
まず、観察するにあたって、以下のポイントを見立てるためのガイドラインとすることを提案しています。
<「観察」を支えるガイドライン>
1,何かに囚われていないか
2,こだわりはどこにあるか
3,こだわりはずれていないか
4,何かを我慢していないか
そして、具体的に、その観察を実行するにあたって、どのような行動をすればよいのか?(どこに着眼点を置いて観察すればよいか)を3つのポイントでまとめていました。
<見立ての着眼点>
1,何かを評価する発言
(例:正しい、美しい、微妙だ、ここには何かの価値観が働いています。こだわりやとらわれの仮説を作ることができます)
2,未定義の頻出ワード
(例:使われているキーワードがどのような定義で使われているかに着目する。言葉の定義がチームメンバーごとに違うこともある)
3,姿勢と相槌
(例:こだわりやとらわれは、頷きや相槌など、言葉に表出はされていない仕草に現れることがあります。ミーティングの姿勢もモチベーションなどが表出します)
(2)組み立てる
「次のステップは「(2)組み立てる」です。ここでは、チームにおける自分の立場や、元々の芸風が影響を考慮した上で、「未知数を定める」「方向性を調整する」「制約をかける」という手順を説明されています。1つずつ見てまいりましょう。
<抑えるべき2つの前提>
1、チームにおける自分の立場や役職を考慮する
(補足:組織の経営層や管理職であれば、問いかけがトップダウンの関係性を生み出してしまう可能性があります。またメンバーでは、経験不足を素人質問のように逆手に取る事もできます。そのため、自分の立場や役職を考慮することが必要です)
2,元々の自分のキャラクターや芸風に合わせる
(補足:人にはキャラがあります。口数が多い・少ない、論理的・感情的、柔らかい・厳し目、それらの性格や特性を自覚しておいて、「芸風」として活用することがポイントです。本書では、4つのタイプに分けて説明しています。状況によってスタンスを変えることもできる、としています)
<手順1:未知数を定める>
何を明らかにするための質問なのか。相手に何を尋ねたいのかなど、未知数を決めるところから始めます。
(例:チームにおける「自社のサービス提供価値」を定める)
<手順2:方向性を調整する>
質問の主語のレベルや、質問が示す時間軸を調整します。
(例:「あなた」は、これから「自チームでどんな価値を提供していきたい」ですか? →個人✕未来への願望という方向性)
<手順3:制約をかける>
基本定石でもあるように、相手の意見を引き出すために適度な制約が必要です。(トピックを限定する、楽しくするなど形容詞を加える、時間的制約を加える、答え方を指定する、など)
大きく分けて、発散系と収束系の方向があるとします。
(例:あなたは「3年後」に、自チームでどのような価値を提供したいか? →時間的な制約を設ける)
※具体的な質問の投げかけについては、以下「パワフルな質問の鉄板パターン」にて引用しています。
(3)投げかける
最後のステップが「投げかける」です。質問を投げても、なかなか集中されていないことがあり、どのような文章表現として投げかけるかによって、質問の印象を変えることができる、としています。
その注意を引くためのアプローチとして、以下4つを提案しています。
1,予告:事前に伝えておく
2,共感:相手の心境を代弁する
3,煽動:前提を大げさに強調する
4,余白:敢えて間を演出する
パワフルな質問の鉄板パターン
最後に、具体的にどんな質問が鉄板として使えるかが紹介されていました。
こちら、引用をいたします。
フカボリモード
「とらわれ」を深掘り、根底の価値観を探る質問です。
素人質問:みんなの当たり前を確認する
ルーツ発掘:相手のこだわりの源泉を聞き込む
真善美:根底にある哲学的な価値観を探る
ユサブリモード
「とらわれ」を揺さぶり、新たな可能性を探る質問です。
パラフレイズ:別の言葉や表現に言い換えを促す
仮定法:仮想的な設定によって視点を変える
バイアス破壊:特定の固定観念に疑いをかける
読んでみた感想
読んでみて、よく使っているもの(素人質問、ルーツ発掘、制約をかける)などはあるものの、あまりやらないこと(パラフレイズ、真善美など)もあったりして、自分自身の質問の幅を見直すきっかけになる書籍でした。
こうしたものをチームの現状と望ましい姿を見立ててて、なんとなくではなく意図して伝えるようになることで、対話の場をより成果につながる密度が高い時間にできるように思いました。
私も、こちらを参考にさせていただきつつ、練習をしていきたいと思います。とても勉強になる一冊でした!
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