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「強みに基づくポジティブ介入」の研究 ー9つの介入が幸福感と抑うつに与えた結果とは?ー

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます。
本日ご紹介の論文は、「強みに基づくポジティブ介入のさらなる証拠」とのこと。強みの介入における第一人者のセリグマン(2005)らの研究を再現しつつ、同じような成果が得られるのか?を確かめた研究となります。

科学には再現性が求められます。「たまたま今回そうだった」、ではなく同じ実験を改めて行っても同じ結果だった、それが様々な文化圏・年齢・対象などで行われても、やはり同じ結果だった、となったとしたら、大きな説得力を持ち得ます。

今回は、9つの強みに基づく介入を検証した内容となります。それでは早速みてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『強みに基づくポジティブな介入:ウェルビーイングを高める可能性のさらなる証拠』
Gander, Fabian, René T. Proyer, Willibald Ruch, and Tobias Wyss. (2013). “Strength-Based Positive Interventions: Further Evidence for Their Potential in Enhancing Well-Being and Alleviating Depression.” Journal of Happiness Studies 14 (4): 1241–59.


30秒でわかる本論文のポイント

  • インターネットを用いて集めた合計622名の被験者(プラセボ対照群を含む)に対して、強みの基づく9つのポジティブ介入を行い、幸福感と抑うつに及ぼす影響を検討した。

  • 被験者は、9つの介入のうち1つ(プラセボ対照介入を含む)を受けた。そして、テスト前、テスト後、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後の合計5回にわたって、幸福感と抑うつ度を測定した。

  • その結果、9つの介入のうち8つが幸福度を増加させ、抑うつ度はプラセボ対照群を含むすべての群で減少した。

とのこと。幸福度を高め、抑うつを現象させた「9つの介入」というのも気になりますね。ということで、早速みてまいりましょう!

「ポジティブ介入」のこれまでの研究

本論文は2013年ですが、それまでに、ポジティブ介入について、まとめられてきた知見が紹介されています。ちなみにポジティブ介入とは「ポジティブな感情、ポジティブな行動、ポジティブな認知を育成することを目的とした治療方法や意図的な活動(Sin and Lyubomirskiy, 2009)」とされています。

これらのポジティブ介入の49のメタ分析から、幸福度や抑うつに対してポジティブな影響があることがわかりました。そしてそれらの知見が、学校や臨床の場などで他の研究活動にも活かされてきています。

今回の研究では「セリグマン(2005)の研究デザイン」を用いて、9つの介入群とプラセボ対照群を設けて、幸福度と抑うつの指標の変化を報告することとしました。

ちなみに「セリグマンの研究デザイン」とは、「感謝の訪問をすること」「毎日経験した3つの良いことを書くこと」「特徴的な強みを新しい方法で使うこと」を行い、介入前、介入後、1週間後/1ヶ月後/3か月後/6ヶ月後)で幸福度と抑うつ度を測定するアンケートに答える、というものです。

研究の全体像

本研究の目的

本研究の目的は、「セリグマンの研究デザインの再現」を行い、ポジティブ介入の結果に対して、さらなる証拠を集めることです。

そのため、まずは同じ介入デザインによって、同じような介入前後の幸福度と抑うつの変化を検証することとしました。

3つの追加バリエーション

そして本研究では、さらなる知見の獲得のため、研究デザインに3つ追加でバリエーションを加えることとしました。その内容は以下のとおりです。

セリグマンの研究デザインの「3つの良いこと」の期間を伸ばしたり、他の介入と組み合わせたり、ちょっとだけ変えたりしています。この結果がどの様になるのかを調べようじゃないか!、ということですね。

●追加1:「3つの良いこと」→介入期間を2週間に伸ばすパターン
(狙い:「介入期間の延長:がもたらす効果を検証する)
●追加2:「3つの良いこと」→「3つの良いこと」+「感謝の訪問」
(狙い:複数の介入による、介入の相乗効果の可能性を検証する)
●追加3:「3つの良いこと」→「3つの面白いこと」に変更
(狙い:「ユーモア」がもたらす幸福度の影響を調べる)

強みに基づく9つの介入方法

介入群(IG:intervention groups)の、それぞれの違いは以下の通りの内容となりました。この9つの介入を、622名の被験者に割り当てて、介入前後にどのような結果になるのかを調査することとしました。

<セリグマンの介入の複製グループ>
●IG1:「感謝の訪問」 
●IG2:「3つの良いこと」
●IG3:「特徴的な強みを新しい方法で使う」

<3つの追加バリエーションの介入グループ>
●IG4:「3つの良いこと」を2週間行う
●IG5:「3つの良いこと」+「感謝の訪問」を行う
●IG6:「3つの面白いこと」

<さらなる追加の介入グループ>
●IG7:「親切を数える」
●IG8:「時間の贈り物」
●IG9:「1つのドアが閉まると、1つのドアが開く」

<プラセボ対照群>
●PCG:「初期の記憶を思い出す」

参加者と研究の流れ

●参加者:622名(最終)
・19~79歳の女性中心(女性94.6%、男性5.4%)
・ほとんどがパートナーと同居で、半数以上に子どもあり

●研究の流れ:
・本研究では、女性誌の記事と、インターネットを通じて「性格的強みを培うためのオンライン・トレーニング・プログラム」として募集されました。
・プレテスト段階では2374名が参加をしましたが、介入後の5回の評価(フォローアップ)を全て行った参加者は622名となりました。

研究の結果

わかったこと1:「強みに基づくポジティブ介入」による幸福度の向上が見られた

「幸福度の平均値」については、プラセボ対照群と比べて9つの全ての介入群で、その合計数値が経時的に高まることが観察されました。また、抑うつに関しては、プラセボ対照群を”含んで”、全群で数値が減少する結果となりました。

右(介入6ヶ月後)に向けて、経時的にスコアが高まっている傾向が見て取れます

わかったこと2:プラセボ対照群と比較して、ほとんどのグループが幸福感が増加した

今回の「ポジティブ介入」の介入内容の影響も検証するために、プラセボ対照群(初期の記憶を思い出す)と比較して、時間的な幸福度の影響(介入後・1ヶ月後・3か月後・6ヶ月後の幸福度)を調べました。
その結果、IG2(3つの良いこと)とIG4(3つの良いこと✕2週間行う)を除いて、プラセボ対照群と比較して幸福度の時間的な効果が認められました。また、抑うつに関しては、全ての群で時間による有意な効果が認められました。

プラセボ対照群と比較した幸福度・抑うつの結果

わかったこと3:追加バリエーションの影響は2つ(3つ中)は変わらなかった

さて、本研究のもう一つの目的である、追加バリエーションについては、どのような結果になったのか。それぞれ先述の狙いに対しての結果を見てみましょう。

●追加1:「3つの良いこと」→介入期間を2週間に伸ばすパターン
(狙い:「介入期間の延長:がもたらす効果を検証する)
→結果:変化がなかった。(考察:介入がルーチン化すると人が飽きてしまう可能性があるのでは?(Lyubomisky,2005らより)

●追加2:「3つの良いこと」→「3つの良いこと」+「感謝の訪問」
(狙い:複数の介入による、介入の相乗効果の可能性を検証する)
→結果:変化がなかった。(考察:2つの強みを訓練すると、飽和状態になり、さらなるプラクティスの追加の効果の増加が見込めなくなるのでは?)

●追加3:「3つの良いこと」→「3つの面白いこと」に変更
(狙い:「ユーモア」がもたらす幸福度の影響を調べる)
→結果:幸福度はどちらも向上、抑うつは変更後の「3つの面白いこと」のみが向上した。(考察:面白いことは即効性があり、強烈にポジティブ感情に寄与する可能性があるのでは?)

まとめと個人的感想

「なんかポジティブっぽい介入をやれば、大体スコアがあがるんじゃないの?」という疑問について、9つの介入パターンに分けて行うことで検証をするというのは、特にどの介入パターンのインパクトが多いか検証をするための良い方法だと感じます。

一方、「抑うつ」については、プラセボ対照群も含めてスコアが高まっており、そもそも「強みを培うためのトレーニングプログラム」というものに参加したというだけで、何かしらの影響があることも否めません(自分で手を挙げて最後まで参加するだけで、たしかに影響はあると思われます)。

日本でも同じプログラムを行ったとしたら、どのような結果になるのか、非常に気になるところだな、とも思いました。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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