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「関係性クラフティング」は、こんなに奥深い ~読書レビュー『ジョブ・クラフティング』#2~

こんにちは。紀藤です。先日より、ジョブ・クラフティングの初の研究書『ジョブ・クラフティング』について読書レビューをお届けしています。

本日は「第2章 関係性クラフティングの拡張と統合」からの学びをお届けします。「関係性を工夫する」というと、「あーね、確かに大事よね!」で終わりそうです(私だけ?)。

しかし、本章では「関係性」という言葉が、そもそも何を意味しているのか批判的な視点で見つつ、他の研究者の理論と統合することで、「こんなにも関係性クラフティングが奥深いものに見えるのか・・・!」と驚きを感じる章でもありました。ということで、早速参りましょう!

(前回までのお話はこちら)


「関係性クラフティング」とは何か

ジョブ・クラフティングの有名な3次元モデルでは、「タスク」「関係性」「認知」という3つで”仕事にひとさじ加えること”としています。

その中で「関係性クラフティング」の定義は、「仕事において出会う他者との相互作用の質または量のどちらか、あるいは両方を変更すること」(Wrzensniewski&Dutton, 2001)とされます。

うーん、しかしこれだけでは抽象的でなんとも曖昧。。。

よって、著者らは「関係性クラフティングとは一体何なのか?をよりきめ細かく扱うための枠組みを提示すること」を試みています。すなわち、

・関係性クラフティングのインパクトとは、どのようなものなのか?
・関係性クラフティングを、より細分化するとどういうことなのか?

などを解き明かすことを試みました、ということ。

「関係性」と「仕事の意味」のつながり

ちょっとマニアックな話のようですが、Wrzensniewski&Dutton,(2001)は、「ジョブ・クラフティングは『仕事の意味』の変化につながる」と述べております。
・・・がしかし、具体的にどのように変化するのかが説明はされていません。

このことを紐解くとき「関係性」が「仕事の意味」に影響を与えるのでは?と考えられるある概念がありました。それが『社会情報処理パースペクティブ』(Salancik&Pfeffer, 1978)なるものです。

かしこまった表現では、”タスクは純粋に客観的なものではなく、その仕事に従事する従業員によって社会的に構築される”と述べらます。平たくいうと、「タスクが持つ意味(仕事の意味)なども、周りの人や環境によって、捉え方は変わりうる」という話かと。

たとえば、で考えてみます。同じ仕事(タスク)をしている従業員Aさんが、「関係性クライフティング」によって上司と質の高い関係性を築いたとします。
そして上司から、「キミのこの仕事、めっちゃ重要なんだよー!」とか「◯◯さん、本当に頑張っているよね」とか言われたとします。
すると、タスクは変わっていなくても、「仕事の意味」もより重要なものと捉えることに繋がる、というようなイメージです(私の解釈です)。

つまり、「タスクは客観的なものではなく、社会的に構築される」ということ。そして「仕事の意味」にも影響を与えうるものが、「関係性クラフティング」といえるようです。

「仕事の意味」を高める4つの経路

次に、「仕事の意味」を、もうちょっと深めています。

ここでは個人が「仕事の意味を感じる」には4つの経路があると述べられています。これは「本人が真正性(自分らしい)と感じるかどうかによって、重要と感じられるかどうかが変わる」ということです。

平たく言えば「チームに所属して価値を生むことが大事な人」もいれば、「プロフェッショナルとして専門性を磨くことが大事という人」いる。ここって違うよね、というのは分かる話かと思います。

では、どうやって「仕事の意味の経路」を見つけるのか?
その際に、Rossoら(2010)の研究が参考になります。

Rossoらは、個人の特性や関心の影響も含み「縦軸(行為主体性ー共同性)と「横軸(自己ー他者)」の4象限で分けられるとしました。
ちなみに『行為主体性』とは「分離、拡張、支配、創造」などの動機を表し、『共同性』は「他者との接触、接続、帰属、結合」などの動機を含むとされます。

これらから、より具体的に説明すると、以下の4つの経路となります。

<「仕事の意味」を感じる4つの経路>
(1)個性化(行為主体性✕自己)
・自らに価値があると感じられること。自らが業績を上げたり、自身のプロフェッショナルとしての可能性を発揮したりするなどで、自分自身が有能で自律的であると感じられることが重視される。
(2)一体化(共同性✕他者)
・他者との調和や親密な関係を築き、集団への帰属感や一体感が感じられることが重視される。
(3)貢献(行為主体性✕他者)
・他者に対してポジティブな違いを生み出せているという感覚を持てる行動を取ることで発展する。「社会的意義」(自分の仕事が社会にとって重要で価値がある信念を持つこと)と、「ポジティブインパクト」(自分の努力が良い影響を与えると感じられること)の2つが重視される。
(4)自己接続(共同性✕自己) 
・自分らしい感じることが重視される(※こちらは調整要因とされます)

P36-37
P37

なるほど、、、これも言われてみればそのとおり。
こうして整理をすると、納得感が高まる気がします。

4つの経路に適合的なジョブ・クラフティングの例

そして、これらに「社会的ネットワーク論」でいわれる話をかけ合わせると、個人の仕事の意味を感じる経路に合わせた「関係性クラフティング」のあり方が見えてきます。たとえば、

新規性の高い知識は、弱い紐帯から得やすい
→「個性化」に経路の人に、より役立つ?
相互信頼や暗黙的な知識の移転は強い紐帯からなる凝集的ネットワークのほうが有利である
→「一体化」の経路の人に、より役立つ?

みたいなイメージ。

これらの「仕事の意味への経路」「適合するジョブ・クラフティングの例」が示されており、「これは具体的なアクションにつなげやすそうだ・・・!」と頷いてしまいました。

P41

まとめと個人的感想

ただ読んでインプットするだけだと、「関係性クラフティングって、他者との関係性の質と量を高めることなのね、なるほど!がんばります!!」みたいに終わってしまいそうです。

しかし、研究者はこうして疑問を細分化して、見える化していくんだというプロセスが勉強になりました。
 「関係性クラフティングって言われているけど、そもそも何?」「仕事の意味につながるっていうけど、それって学術的にいうとどういったメカニズムでそうなるの?」・・・等、言われてみれば疑問に思うことでも、そのモヤッとした輪郭がないものを言葉にして表し、検証していくというプロセスは途方もないモノを感じます。

ただ、こうして「仕事の意味の4つの経路」「適合する例」などを示すことで、その人により役立つ行動の選択肢が見えるようにも思い、大変勉強になった次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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