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263kmマラソン体験記⑥ ~黒石駅が白石麻衣に見えた日~

続き

スタートから41時間。3日目の昼、現在220km地点です。
前回のお話はこちら

3日目_昼(220~252km)

仲間と別れ、一人になる

国道に入る前、仲間のエンディとヒロポンと話しました。

国道からはそれぞれのペースで走ろう。最後の黒石駅で会おう」。そう212kmのチェックポイントを出発しました。

最初は3人はほぼ同じくらいのペースで走っていたのですが、220km、230kmと進むに連れて、段々と距離が開いていきました。私が、徐々に遅れていったのでした。淡々と走り続ける修行僧のようなヒロポン。そしてねちっこい走りでぐぐっと追い上げてくるエンディ。完走経験者の2人の実力が現れていました。

私は彼らの2人のオレンジ色のTシャツを、視界の先にうっすらと認めるだけになっていました。それは蜃気楼のようにぼんやりと見えるような見えないような状態になり、やがて完全に視界から消えていきました。

LINEで2人にメッセージを送ります。「チェックポイントでもまたずに、先に行って下さい。後で追いつきます」ここからは完全に1人。

突如あらわれたゴツ目の男性は

一人とぼとぼと走り続けて、235km地点。

変わらず眠気と戦いながら、走ったり、立ち尽くしたりを繰り返していました。ぼんやりした思考の中で、視界の先に仁王立ちをしているゴツ目の男性がたっていました。それは、100km地点でリタイヤした「提督」こと赤羽氏でした。

我らの兄貴、赤羽提督

側には、妻と子供もいました。私設エイドとして応援をしに来てくれたのでした。

私設エイドを作ってくれていました
(息子2歳は後ろで走り回っている)

嬉しい、、、!

提督と妻がいるまでの数百メートルは、虹がかかったように足取りが軽くなりました。応援してくれる人が、すぐ近くにいてくれるおかげで力をもらえる気がします。

「ヤス、大丈夫? 顔死んでるよ」と提督。
「顔、やばいね・・・」と妻。

私がどんな表情かは自分でわかりませんでしたが、顔を作る余裕がないことは確かでした。

こんな表情

「ごめん、ちょっとだけ、寝かせて」

車の中で5分、寝かせてもらいました。何十時間ぶりなのか、やわらかい座席で寝る5分は、とてつもない効力を発揮しました。体力を、そして応援によって精神力を回復させてくれました。

股擦れ、尻の擦れは、もうデフォルト。諦めています。股も汗でしみてキズパワーパットも効力を果たさなくなっているけど、仕方ない。それでも近くのローソンで傷口を洗浄して、新しいキズパワーパットに張り替えると、これもまた、苦痛がいくらか和らぎました。

そして、チェックポイント「スポーツプラザ藤崎(242km)」に到着しました。

ここまで来ました

黒石駅が白石麻衣に見えた日

あと、、、あと20km!

現在15時30分。制限時間、あと4時間30分。
1kmあたり12分で走れば(歩けば)20kmとして240分。4時間でゴールができます。

これは、いける、、、!

次に目指す最後のチェックポイントは「黒石駅(252km)」です。古い町並みに佇む駅。観光地としても魅了的な場所です。

しかし、少しずつ日が傾いてきた頃、異変が起こりました。

突然、なぜだが地図が読めなくなったのでした。西日に照らされながらなぜだか「黒石駅」が「白石麻衣」(乃木坂46の元センター)に変換されて、脳内で黒石駅、白石麻衣、黒石駅、黒石麻衣、白石さん、黒石さん・・・?

白石麻衣さん(めちゃ美人ですよね)

「あれ、自分はどこへ行こうとしているのか?」と謎の思考ループが始まりました。やばい、これはだいぶやられている。なんとかせねば、、、と近くのローソンを見つけ「メガシャキ」「強眠打破」を3本立て続けにグビグビ飲んで、目を覚まそうと気合をいれました。

そして最後のチェックポイント「黒石駅(252km)」に到着します。そこでも提督と妻が待ってくれてました。

少なくなったスマフォの充電をしつつ、残り10kmの道をGoogleマップでオンタイムで目視しながら進むことにしました。先程の「黒石・白石麻衣症候群」のように脳が彷徨わないよう、”今進んでいるこの場所にのみ集中する”
ためのささやかな工夫でした。

黒石駅(252km)地点にて

ゾンビ化したランナー

あと10km。

その数字に、気持ちが高まります。Googleアップ上で初めて現在地とゴール地点が同じ画面で繋がりました。1kmあたり9分50秒と、通常走るスピードの半分以下のペースでしか走れません。

そんな中、人もまばらな住宅街の255km地点にて、ある老婆の方が道を蛇行しているのが見えました。体をくの字に曲げ、びっこを引いています。それはゾンビ映画のゾンビの歩き方にとても似ていました。

途中フラフラと車道に飛び出してまた路肩に戻っていきます。その予測不能な動きに、恐ろしさすら覚えます。

少しずつ近づいていくと、くの字に曲がって空を向いた背中に、青色のゼッケンがついていました。そこには「263kmの部」とありました。

表情は見えませんが、その方はおそらく50代くらいの女性だったと思います。大丈夫ですかと声をかけると、予想外にしっかりした声で「はい、がんばります」と返ってきました。

「最後まで、がんばりましょう」

皆、ボロボロになりながら走っているんだ、と制限時間が際どい中で自分のことと共に、彼女のゴールも願ったのでした。

制限時間、残り2時間。

現在252km(残り10km)
スタートから49時間(残り2時間)
睡眠時間 合計2時間45分

(つづく)


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