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Jarv Is... / Beyond The Pale (2020) 感想

コモン・ピープルの人

 Jarvis Cockerの新バンド、Jarv Is…のデビュー作が(またもや)コロナ禍によるリリースの延期を経て、遂にリリースされました。
 Jarvis Cockerといえば、メディアによる90年代の名曲ランキングで必ず上位にランクインする名曲”Common People”で知られるイギリスのバンド、Pulpのフロントマンです。ソロ~Pulp再結成(そして「Pulpはもう終わり」宣言)~Chilly Gonzalesとの企画盤を経ての新バンド、しかもメンバーはアシッドジャズのJames Taylor Quartetのベーシストなど一癖ありそうな人ばかり総勢6名ということで、私の中で期待がストップ高でした。

 今作の楽曲群は、時にLeonard CohenやNick Caveのような荘厳ささえ感じるダンディなJravisの歌唱・語り、そしてサイケとハウスをベースに、後半の盛り上がりへ向けてじっくりとビルドアップしていくような、ストリーミング時代に逆行しまくったタイプのものが主体になっています。
 2017年からライブを重ね、今作もライブを録音したものをベースに作り上げたというだけあり、歳を重ねた今なお生き辛そうなJarvisの世界観(それこそが彼の音楽の最大の魅力でもあります)をドライブさせるバンドとしては全盛期のPulp並みといっていいと思います。

イエス、イエス、イエス、イエス…

 アルバムのハイライトは2曲目”Must I Evolve?”~5曲目”Sometimes I Am Pharaoh”に至る中盤の流れです。というか、全部で7曲なのでそこを核にした構成なのでしょう。Jarv Is…初の公式音源としてリリースされた”Must I Evolve?”では、The Horrorsを彷彿とさせるサイケなロックに乗せてビッグバン(「大してビッグじゃなくてスモール・バン、何かがはじけたくらいのものだったのかも」)から人類の進化をたどりながら、

進化しないといけないのか?/変わらないといけないのか?/発展していかないといけないのか?/(中略)耐えなければいけないのか?

 と問いかけます。その答えとして繰り返されるコーラスは勿論、「イエス、イエス、イエス、イエス…」。バーストする終盤ではこちら側まで進化しなければと…いう強迫観念に囚われ少し怖くなってくるほどです。直後にタイトル通り「何かを見落としているんじゃないか?」と歌われる”Am I Missing Something?”でクールダウンする構成も完璧。

 その後も夜な夜な一人家でハウスに合わせて踊り狂う男をまさにハウスに乗せて描いた”House Music All Night Long”、観光地で銅像のふりをするパントマイマーの視点から、「写真撮影禁止の観光地で知らずに写真を撮り、祟りを恐れる」観光客を皮肉るポストパンクな”Sometimes I Am Pharaoh”で最後に繰り返されるジャンプ!ジャンプ!という掛け声にいたるまで、こちら側の感情を完全に曲の世界とシンクロさせる様は見事というしかありません。
 アルバムは終盤、メロウな”Swanky Modes”でクールダウンした後、ライブ中にアドリブで作ったと勘繰りたくなる歌詞も楽しい”Children Of The Echo”で「残響は収穫低減によって消えていく…」と繰り返しながら終わっていきます。最後の言葉が「収穫低減(diminishing returns)」のアルバムを初めて聴きました。最高。

 7曲は短すぎて物足りない、なんて批評も目にする今作ですが、なんせ一曲がねっとりした熱量を伴っているので、これより曲数が多かったら胸焼けするという絶妙な塩梅だと思います。ライブ活動が制限されている現在ではライブ主体のこのバンドがどうなっていくのか不安もありますが、Jarvis Cocker健在を十分すぎるほど見せつける作品です。

オススメ曲

■ 2. Must I Evolve?

 Pulpの”Common People”を筆頭に歌詞の評価が非常に高いJarvis Cockerですが、今作で海外のメディアに一番ウケているのはこの曲のダジャレめいた一節の印象です。Frankie Knucklesはハウスミュージックの創生に大きく関わっている人だそうです。ブレイクでは久々の素っ頓狂なアーゥ!が聴けて嬉しい限りです。

 Dragging my knuckles, listening to Frankie Knuckles
 めちゃくちゃになりながら、フランキー・ナックルズを聴いていた

■ 4. House Music All Night Long

 抑えた歌唱がクールな人力ハウスに乗せて「家で一晩中ハウスに乗せて踊り狂う」男が描かれます。案の定、クラブが閉まっている昨今の情勢にピッタリなんていわれています。シングルとしてMVが作成されていることからも分かるとおり、今作一キャッチーな曲です。

■ 5. Sometimes I Am Pharaoh

 エフェクトのかかったボーカルによる不穏な前半を経てジャンプ!ジャンプ!とあおられる後半は、今作がライブの現場で練り上げられたことを象徴しているように感じます。フェスで聴いたら狂ったようにみんながジャンプしまくること間違いなしです。銅像の真似をするパントマイマーの視点から間抜けな観光客を皮肉るという設定が天才的。

点数

7.4

 今作をまるごと演奏する(しかも洞窟で)動画が公開されています。24時間限定みたいなのですぐに観れなくなってしまうと思いますが、このバンドの活動はライブがメインであることを納得する熱いライブで最高なのでぜひ。

(参考記事)

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