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The Streets / None Of Us Are Getting Out Of This Life Alive (2020) 感想


イギリスのスチャダラパー

私は英語力がないので、特に言葉の比重が大きいヒップホップは普段から好んで聴く音楽ではありませんが、好きなアーティストはいます。なかでもこのThe StreetsことMike Skinnerは2000年代にUKの音楽を齧った人間には避けては通れないアーティストです。2011年の「Computers And Blues」を最後に活動休止していましたが数年前からライブ活動を再開、そして今年遂に9年振りとなる新作(ミックステープという扱いのようです)がリリースされました。

The Streetsの特徴といえば、UKガラージなトラックと底辺の人々の日常を描いた歌詞です。ガラージ云々は聴き込んでいないので詳しくは語れませんが、明るいダブステップ(逆か)みたいな感じなので普段ヒップホップだR&Bだのは聴かないけどJames Blakeが作ったビヨンセの曲は好き、みたいなナウいインディーロックファンにも聴きやすいと思います。因みにガラージは最近リバイバルがキているようです。

そして何より歌詞、ここに尽きます。The Streetsがデビューした2000年代前半のUKの音楽といえば、内省的な悩みに悶えるRadioheadやColdplayが最大のスターでした。

そこに「携帯の通話切れちゃった?俺の家電波悪くてさ」「ババア、ATMで残高確認するのにどんだけ時間かかってんだよ!?」といった底辺の人々の日常をいかにもUKな(ブラック)ユーモアあふれるリリックで描き倒し、当時の音楽界に衝撃を与えたと言われています。ヒップホップが流行らないと言われていたイギリスにおいて、アングラな最新鋭のビートを駆使して庶民感覚溢れるリリックで絶大な指示を得た辺り、日本でいうスチャダラパーと同じ感覚なのかもしれません。ロック史的に言えば初期Arctic Monkeys、というかAlex Turnerの詩作にも大きな影響を与えていることでも重要な存在です。口数多めにどうにも上手くいかない日常を、ユーモアを忘れずに描写する感覚は確かに通じるものがあります。

9年の時を経てカムバックしたThe Streetsは何を語るのでしょうか?

王道ストリーツ節だけど

まずトラックについてはガラージ〜ダブステップの流れを汲んだものが中心で、王道のThe Streets節といえる音になっており、決して最先端、刺激的という訳ではありません。しかしこれぞThe Streets、という感じは復活作としては正解だと思います。もう一つのトピックは全曲にゲストがフィーチャーされていることですが、私はロック畑のTame ImpalaとIDLESくらいしか知りませんでした。

歌詞の面では、頻繁に出てくるのが電話です。コミュニケーションにおいて携帯/スマホが果たす役割が大きなモチーフになっています。この辺りはSNS疲れがモチーフの一つであった前作から地続きとも言えるかもしれません。

冒頭からTame ImpalaのKevin Parkerが深いリバーブの中から「マジで電話掛け直そうと思ったてたんだよ/その気になったら…」と気怠げに歌い上げるなど、相変わらずニヤリとしてしまうユーモアは抜群ですが、前作から地続きのテーマであるが故にあまり目新しくないことが少し残念だったかなと思います。しかし9年前から変わらずSNS、スマホ疲れを描写しているあたりはMikeの先見の明の証明ともいえます。時代がMikeに追いついた結果少し物足りなく感じるというのも皮肉な感じですが…。

オススメ曲

■ 1. Call My Phone Thinking I'm Doing Nothing Better

Tame ImpalaのKevinをフィーチャーした曲で、Tame Impalaお馴染みの深いリバーブに乗せて携帯の便利さと煩わしさが綴られます。このわかる!という感じがいかにもThe Streetsです。社会派ながらもユーモアとペーソス溢れるリリックをクールなトラックに乗せてラップする様はまさにイギリスのスチャダラパーです。

誓って言うけど、電話掛けなおそうと思ってたんだよ/その気になったらさ…
電話が鳴り続けてる/鳴り止むまで使えやしない/(中略)誰か知らないけど元カノと一緒いる奴、もっとしっかりしてくれよ/いまだに2時から10時まで俺にメッセージ送ってくるぜ/変な酒も人生がめちゃくちゃな時は不思議と美味しく感じるものさ

■ 2. None Of  Us Are Getting Out Of This Life Alive

イギリスの若手社会派パンクスIDLESとの共演曲です。タイトルどおり「最後にはみんな死んでしまう」と繰り返される、ディストーションがかかったトラックとあいまって今作屈指のヘビーな曲です。

■ 7. Phone Is Always In My Hand

王道ダブステップなトラックに乗ってここでも再び、いつでも繋がれる携帯によって逆に窮屈になるコミュニケーションが軽妙な語り口で綴られます。共演のDaptz On The MapはグライムのMCだそうです。

携帯はいつでも持ってるよ/俺がアンタを無視してるって思うだろ、その通りだよ

点数

6.3

全体としては、聴きたかった王道のThe Streets節を聴かせる、手堅い復活作という印象です。ほぼ全曲共演相手がいるため、若干Mikeの影が薄く感じるのも残念に思います。リハビリ?を終えた今後が楽しみです。



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