見出し画像

2022年上半期ベストアルバム

 大変ご無沙汰しております。noteを更新したいしたいと思いつつ、気づけば上半期が終わろうとしていました。なんと恐ろしい。ということで上半期ベストは少し多めに20枚選んでみました。長いです。

20. Peter Doherty & Frédéric Lo / The Fantasy Life Of Poetry & Crime

The Libertinesとしてのサマソニでの悲願の来日も迫るPeter Doherty、最近住んでいるというフランスの地元ミュージシャンとのコラボ作です。The Libertinesの新作はどうした。これまでのソロ作の流れを汲んだフォークソング集ですが、フレデリックさんの手がける楽曲は洗練されてます。洗練されすぎてPeterの危なっかしさがないのがファンとしては少し寂しいですが、この人の歌声にはやはり抗えないものがあります。えぱー、えぱー。

19. The Smile / A Light For Attracting Attention

5月のリリースラッシュは凄まじいものがありました。こちらはご存知Radioheadのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッドのサイドプロジェクトです。今回はジャズ畑のドラマーをフックアップしているのが話題でしたが、近年のバンドのイメージからすると比較的シンプル、彼らで言えば"In Rainbows"くらいにはロックの体裁を保っている曲が多くて意外でした。もっと最近のUKジャズに被れると思っていたので嬉しくもあり若干肩透かしでもあり(先行曲やライブ配信からその気配はありましたが)。
"Free In The Knowledge"なんて、あまりにベタなメロディーを真面目に歌い上げているのでギャグかと思いました。素晴らしい。

18. Jarv Is… / This Is Going To Hurt (Original Saundtrack)

昨年はウェス ・アンダーソン絡みのフレンチポップカバー集なんかもあったJarvis Cockerさんですが、本作はバンド名義による、BBCの医療ドラマのサントラです。ドラマはWOWWOWで配信中のため未視聴、原作も未読のため劇伴としての評価、歌詞がどこまでドラマとリンクしているのかなど分からないのでなんですが、Jarv Is…のアルバムとしてしっかりと楽しめるのでファンとしては必聴です。何かはわからないけどとにかく傷つく事が迫り来ていることだけは伝わる冒頭のタイトル曲の静かなパラノイア感。最高です。あとはドラマのサブスクでの配信お願いします。

17. Melody's Echo Chamber / Emotional Eternal

なんせタイトルが「永遠のエモーショナル」ですから。悪いはずがありません。
この人には1人Tame Impala(向こうも1人か)みたいな印象を持っていましたが、あちらがそのポップネスとカラフルなライブで瞬く間に世界中のフェスでヘッドライナークラスにのし上がる中、こちらは相変わらずの脳内お花畑、たまにフランス語も交えながらのトロットロに幽玄なサイケポップ道を邁進していてとてもよいです。

16. Ryan Adams / Romeo & Juliet

腫れ物かのように(いや実際そうなんですが)、すっかりメディアで取り上げられなくなってしまいました。2020年から続く三部作の三作目という位置付けの作品です。今年の初めにこれまたひっそりとリリースされていた"Chris"はこの人がたまに出す勢いと手癖だけで作られたタイプの作品でしたが、三部作の締めともなると気合いの入れ方が段違い、哀愁漂うアメリカンロックが19曲これでもかと詰まっています。古き良き3分間ポップスという括りで考えると、"Doylestown Girl"は上半期一の曲かもしれません。

15. Foals / Life Is Yours

本人も音楽性も初期に比べてかなりマッチョになったのにずっとオシャレなイメージがある不思議なバンド、Foalsですが、本作ではメンバーの脱退も経て開き直ったかのようなダンスアルバムを作ってきました。人生は君のものだ!縛られるな!踊れ!
たいへんカッコよろしいんですがぶっちゃけダンスロックとしては些か普通で、折角だから"Wake Me Up"みたいなこれまでのマッチョ感を織り込んだものをもう少し聴きたかったなという気がします。でもライブで聴くとそんなことはどうでもよくなりそうですね。フジロックに行かれる方が羨ましいです。

14. MICHELLE / After Dinner We Talk Dreams

ロックばかり聴いているとたまに毛色の違うものを聴きたくなります。上半期は言わずもがなのKendrick LamarとKelly Lee Owens、そして本作に特にお世話になりました。取り立てて特徴はない90s〜00sのかほりを感じるR&B/ネオ・ソウルではあるんですが、ディナー後にMステを垂れ流しながら家族で団欒していた頃を思い出す、どこか懐かしくて温かい気持ちになれる、そんな作品です。いやそんな家族の思い出はありませんが。

13. Father John Misty / Chloë and the Next 20th Century 

20世紀のポピュラー音楽絵巻(ロックンロールを除く)となった本作。根の真面目さもとい偏執狂ぶりが垣間見えるその高品質さには舌を巻くほかありません。彼のフォークシンガーとしてのキャリアと美しいストリングスが絡む"Goodbye Mr. Blue"の美しさはこの路線の到達点であるとすら思います。ただのHarry Nilsonという声もありますが。
個人的には本作はストーリーテリングに重きが置かれているというか、例えば2ndや前作のようなこの人個人のじっとりとした情念が後ろに隠れているのが少し残念です(前作はそれに疲れた、という作品でしたが…)。

12. Destroyer / Labyrinthitis

前作"Have We Met"(2020)では怪しげなシンセポップを歌い上げていましたが、本作では怪しげなNW調の曲を気持ちよさそうに歌っています。彼のボーカルの不思議な緩さがなんとも心地よく、ずっと浸っていたくなるような一作です。ファンカラティーナな曲など聴きどころは多いですが、初期New Orderみたいな曲から謎のポエトリーリーディングが始まる"June"〜中期New Orderみたいな"All My Pretty Dresses"へ続くNew Orderのベスト盤のような流れが本作のハイライトでしょうか。「スノー・エンジェルは誰かが作ったクソバカ」と突然ブチ切れるところも含めて。

11. Wilco / Cruel Country 

雰囲気的には近年のJeff Tweedyのソロ作にも通じる朴訥としたカントリー・ロックですが、バンドメンバーがフル参加するだけでこんなにも活き活きとするものなのかと感動します。本作でもたまにジャムっぽくなったりするものの、もはやJim O'roukeが関わっていた頃の音響派みたいなクールな雰囲気は見る影もありませんが、歳を考えるともうそこはいいでしょう。"Hints"とかいい曲すぎやしませんか。

10. Tahiti 80 / Here With You

シティーポップが海外でも注目されていると言われて久しいですが、彼らはやはり年季が違います。ディスコ、ファンク、ソウルをまぶした甘いポップソング集。"Telling Myself"なんかもう眩しすぎて、うだつのあがらないサラリーマンの私はまっすぐ見ることができません。サマソニのビーチステージでブーンシャカブーン("Vintage Cream")するのが楽しみです。なんだか上地雄輔みたいになってしまいました。

9. Pete Yorn / Hawaii

Day WaveことJackson Phillipsさんと組んでの二作目となる本作。前作となる2019年の"Caretakers"ではDay Wave印の浮遊感ある音作りとPete Yornのガレージ版Bruce Springsteenみたいな曲がいまいち噛み合っていない気がしましたが、本作はかなりいい感じではないでしょうか。ギタポ版アメリカンロック、爽やかでフワフワしていてエモい、結構不思議な聴後感?を味わえる作品です。私はまんまとクセになっています。

8. Warpaint / Radiate Like This

この人達のことはまったくフォローしていなかったのですが、こんなにカッコよかったんですね。クールなエレクトロニクスにのせて「私はチャンピオン」と高らかに宣言する冒頭からスイートな"Stevie"までの怒涛のような前半で一気に持っていかれました。その後は基本的に暗いのも、最後の曲でヌードとヌードルで韻を踏んで終わるユーモラスさも非常にカッコよろしいです。ロックは女性の時代なんて言われていますが、10年選手の凄みを見た思いです。

7. Kevin Morby / This Is A Photograph

ここ数作は個人的にマンネリ感を感じてイマイチでしたが、パートナーのWaxahatcheeに触発されたか、久々に聴いた瞬間「あ、好き」となる作品を出してくれました。
父が救急搬送された日の夜に見つけた若く、元気な頃の父との写真にインスパイアされたというタイトル曲の緊迫感からもう凄いです。普通そんな写真見て「これが自分が生きるということについて寂しくなること:自分の体/女の子たち/我が息子/太陽」なんて自分の父親に言わせません。
その後もフィルスペクター風だったりカントリー・デュエットだったりJohn Lennonばりにパートナーへの愛を名指しで歌にしたり、過去一やりたい放題で豊潤な音楽が詰まった作品です。

6. Big Thief / Dragon New Warm Mountain I Believe in You

この大傑作を引っ提げたタイミングでの来日公演が実現するのは本当に素晴らしいですね。地方民になったことをここまで恨んだことはありませんが、きっと今年以降そういう機会が増えていくことでしょう。グギギ。
さて本作、半年近く経っても20曲全てに対して飽きるということがありません。SNSなんかを見てると最大公約数的な曲は"Simulation Swarm"ですかね?私もどれが一番かと言われたらそう答えます。最後のギターのハーモニクスの瞬間に毎回飛びそうになってます。

5. Jessie Buckley & Bernard Butler / For All Our Days That Tear The Heart 

我らがBernard Butler(ex. Suede)のまさかの自分名義の新作は、オスカーノミネート女優との連名作となりました。私はJessieさんの音楽活動については全く知らなかったのですが、Bernardファンからすると遂にきたか、な本格的フォーク・アルバムです(Bert Janshcとコラボしたりしてました)。
静謐なフォークソングが続く前半も素晴らしいですが、やはり作曲的にイニシアチブを握っていたと思しきBernardのポップネスが抑えられなくなる"Footnotes On The Map"以降の後半が堪りません。次曲"We've Run The Distance"で遂に歪んだエレキが登場する時のカタルシスたるや。ぜひそこまでだけでも聴いてください。

4. Spoon / Lucifer On The Sofa

よく言われるように今、中年で、白人のロックンロールバンドというのは非常に微妙な立場に置かれています。何が言いたいかというと、こんな傑作を出したのにSpoonの影がなんか薄くないかということです。単に前作の"Hot Thoughts"が少し微妙だったせいもあるかもしれませんが、軒並みチャート上では順位を下げています。
しかし、Brittのしゃがれ声に乗せて歌われるロックンロールの切れ味・カッコ良さ、バラードのジェントルさはやはり唯一無二。以前にも書きましたが、今年未だに"The Hardest Cut"のブレイク、半音下げの低音弦を叩きつけるだけのギターの、そのカミナリのような迫力に勝るギターの音を他の作品から聴いていないことが、彼らが相変わらず現代最高峰のロックンロールバンドの一組であり、本作が傑作である何よりの証左です。

3. Angel Olsen / Big Time

両親にカミングアウトした後、立て続けにその両親が亡くなるという経験をした彼女。本作に通底しているのは喪失感ながら、どこか解放感と未来への希望があるような、温かくメロウなカントリー作です。疲れている時など本当に本作に救われました。とはいえマジカルミステリーツアーみたいなホーンが聴こえる曲もあったり、ただのレイドバックした作風にならないのがこの人の凄いところ。
そんな作品が、「もうごめん、なんて言えない/自分が悪いと思ってもいないことに」と辛辣な言葉から始まるのも実によいですね。

2. Liam Gallagher / C'mon You Know

完全にファン贔屓ですが、これはもう、Beady Eyeの2ndのリベンジを、あの時Liam(とAndyとGem)がやりたくてもできなかった「宇宙へぶっ放すロックンロール」を、敏腕ソングライター/プロデューサー陣の力を借りて力業で成し遂げた傑作でしょう。
あくまでベースはクラシックなロックンロールでありながら、Liamが無理なく音楽的レンジを広げているのが本当に頼もしいです。"無情の世界"なゴスペル/ソウル・バラード〜ギターのカッティングが響く冒頭に始まり、かのEzra Koening(!)との"Moscow Rules"なんて、Vampire Weekend印のチェンバーポップと中期ビートルズが合体した曲で、聴いててニヤリとしてしまいます。お得意のバラードが今回は少し安っぽいのが残念と言えば残念な点ですかね。
ネブワース2Daysも大成功させ、最近のライブでは遂に"Slide Away"後半の「あのパート」さえ歌うほど絶好調のLiamさん。もうグラストンベリーのトリくらいしかソロで達成してないことないんじゃないでしょうか。

1. Spiritualized / Everything Was Beautiful

冒頭から前作に引き続き循環系、即ち"宇宙遊泳"系の曲で、正直またかという気がしなくもありませんが、予算がなくて一人で作ったという前作と異なり、本作のそれはオーケストレーションの過剰さ、それに伴う高揚感が半端ないことになっています。これだけで傑作であることを確信。
以降も最早いつも通りのガレージ・サイケやソウル/ゴスペルな美しいバラード、ブルースだったりするんですが、白眉はここ最近では珍しくループの中で高揚していくような、2ndあたりの初期の雰囲気を持った"The Mainline Song"でしょうか。全体を通してみても完全に前作のリベンジというか、肉体感のある演奏・録音でグイグイ音の波に引き込まれ、まさに彼らのライブを見ているような感覚にしてくれて堪りません。全7曲44分という開き直った構成も最高です。
今年、アルバムとしてはこれを超える没入感を与えてくれる作品は出てこないんじゃないかという気がしますが、どうなるでしょうか。

****

音楽好きを自称する者としてはなんとかKendrick Lamar、Wet Leg、羊文学あたりを入れてトレンディー感を出したかったんですが、個人的な好みでギリギリ入れられませんでした。
下半期はThe 1975が動きそうですね。とりあえず来月のビヨンセとInterpolを待ってます(東京に何やらポップアップストア?が出るみたいですね。集客大丈夫か)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?