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Cut Worms / Nobody Lives Here Anymore (2020) 感想

サッド・ハッピー

 米オハイオ出身のCut WormsことMax Clarkさんの2nd。基本路線は変わりませんが、先行曲を聞いた時の予想通り、オールディーズ感溢れるお気楽・ゴキゲンなカントリー・ラブソング集だった1stに比べてバラードの占める割合が増えた、幾分メロウな仕上がりになっています。レコードでは2枚組の大容量で、愛しさと切なさの波が寄せては返します。結論から言うと、この方向性は大正解だと思います。

 メロウになった理由はよく分かりません。ただ気分でなんとなくかもしれないし、「使い捨ての消費社会と戦後コマーシャリズムの淫夢がいかにして実現しなかったか」、「本当は存在しない子供時代へのホームシック」についてだという今作のテーマのせいかもしれません。
 いずれにせよ、今作に収録された比較的アップテンポな曲と前作の収録曲を聴き比べると、今作に通底する気分の、前作との違いが分かると思います。 

(ドゥワップなコーラスも楽しい1st収録曲)

(今作収録曲)

2枚組、其の甘美な響き

 曲のバラエティが豊富なタイプではありませんので2枚組通して約80分、ダレずに聴けるか少し心配でしたが、リリースから1週間、不思議とアルバムを通して聴けてしまいます。
 レコードのサイドごとにバラードと比較的アップテンポな、ポップな曲のバランスが取れた構成のせいかもしれません。私はストリーミングで聴いていますが。

 中でも私のお気に入りはレコードでは1枚目後半(B面)〜2枚目の前半(C面)にあたる、5."Every Once In A While"〜12."Walk With Me"あたりの流れです。バラードを挟んで内省的になっていき、また緩やかにポップになっていくある種定番の流れですが、ベタなものはいいからこそベタと言われるまでになっているのです。
 特にちょうど1枚目から2枚目への切り替わりにあたる8."Veteran's Day"〜9."Sold My Soul"〜6分の大作9."Castle In The Clouds"の流れは歌詞的にも、先の今作の2つのテーマを最もダイレクトに表した、今作の核と言えるエモさを湛えています。

海で遭難したような気分/年寄り達に、もう御伽噺を語るのは止めろと言ってくれ/白鯨なんて本当は誰も信じていない/
君は知らないだろう/愛が、僕みたいな愚か者にどんな仕打ちをするか
-"Veteran's Day"
遠い昔ににどこかで魂を売ってしまった/その頃はそんなに気にとめてなかったけど
(中略)
葬送曲が流れる頃/その半分でも/君が気にかけてくれていたら/そう教えてくれるかい?/知りたいんだ/君を楽しませることができたか
-"Sold My Soul"
君はこの世界ではただのゲストー少しの間はもてなしてもらえるけど、ずっと居ることはできない
-"Castle In The Clouds"

点数

7.7

 オールディーズっぽいというのは、時間を超えたタイムレスなグッドソングということでもあります。
 余談ですが、Maxさんは今作のリリース時にTwitterで、「80分は地獄みたいな社会政治学的なことから離れて欲しい。聴いてる間は携帯を見ないで。君をいい気分にするよ。自分の為だけの時間をもとう」とツイートしています。最近そんな風に音楽を聴けてませんが、いい言葉だなと。

(参考記事)

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