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Brian Fallon / Local Honey (2020)感想

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郷愁

Brian Fallonは2006年〜2015年に活躍したバンドThe Gaslight Anthemのフロントマンだった人物です。バンド活動休止後はソロ名義で活動しており、間にバンドのブレイク作10周年記念リユニオンもありつつ3枚目となるソロアルバムが今年リリースされました。今作はソロ名義の3作の中で一番の傑作だと思います。

バンド時代は王道のアメリカンロックを疾走感溢れるバンドサウンドに乗せたアツい、オトコ臭いロックンロールを鳴らし、パンク/ガレージ版Bruce Springsteenとか言われて人気を博していました。パンクな勢いに加え適度にポップさが出た2010年の3rd「Amerian Slang」は大傑作です。

一方でこれまでのソロ作2枚はバンド時代からパンク/ガレージ成分、つまりこの人の魅力を薄めに薄めて引き伸ばしたようなアメリカンロックのアルバムで、バンドに拘らなくなった分アレンジが若干豊かになったり、フォーキーなバラードが増えたりとバンド時代よりも音楽性の幅は広がっていたものの、正直物足りなさしかありませんでした。

しかし、今作はパンクどころかロック成分をも薄め、全編フォーク、カントリーといった所謂アメリカーナ全振りな楽曲群を8曲30分少しのコンパクトにまとめた内容になっています。しかもアメリカーナと言いながらあまり土臭くない、洗練されたプロダクションで非常に聴きやすいです。これがいい。元々のアメリカンロック特有のオトコ臭さ、暑苦しさが落ち着いた曲調によりいい具合に中和されまさにルーツミュージック、いやに郷愁を刺激されて故郷の両親に会いに行きたくなるような、そんなアルバムに仕上がっています。

四十にして惑わず

今回このように音楽性で大きく舵を切った理由の一つが、Brianが40歳という人生の節目を迎えることだったようです。不惑、初老という概念が向こうにあるのか分かりませんが、「そろそろ人のことを気にするんじゃなくて自分のためにやってみようと思った」というようなことを語っています。だからって渋く振り切りすぎだろう、という気もしますが今までのどっちつかずな感じに比べれば大正解でしょう。

歌詞の面でも、今まではBruceみたいなストーリーテラーになりたいんだけどBruceほど頭良くないんだろうなーみたいな、分かるんだけど分かりにくい歌詞が多かったのですが、よりストレートに歌詞のストーリーがこちらに伝わりやすい内容なっています。

私の名前はJolene/同じ名前の曲は嫌いなんだけどね

と、Joleneという女性に彼氏を寝取られそうな女性を描いたDolly Partonの曲を例えに出しながら暴力男との愛憎渦巻く関係が描かれる"Vincent"の世界観なんて切なくて堪りません。私はこうしてそれとなく他の曲やアーティストを引用する曲が大好物です。例を挙げ出すとキリがありませんがCourteenersがThe La'sを聴いたことがない彼女に怒鳴る時やOkkervil Riverが同じく気管切開を受けたRay Davisに想いを馳せながら"Waterloo Sunset"を奏でる時、!!!がどうしようもないShatteredな状況を描写しながら「シャー、シャー、シャーッシュドゥビッ」と歌う時…。よりイメージが具体的になったり、引用の仕方のユーモアについニヤリとしてしまいます。

話は逸れましたがその他にも過去の失恋や娘に送るメッセージなど、40歳のオジサンのストレートな想いが滲みます。今作屈指のエモく切ない"21 Days"は切ない失恋の曲かと思いきや禁煙についての曲でずっこけましたが、そんなテーマも中年男性の哀愁を感じてオツです。

また、Brianは今作が渋くてエモい方向に振り切ったもう一つの理由として、人生の節目を迎えたこと以外にプロデューサーのPeter Katisに今作を作る時に「とにかく『もっと悲しく!』と言われた」ためだと語っています。この人実はあまり意識したことがなかったのですが、エモいUSインディー代表であるDeath Cab For CutieやThe Nationalを手掛けているということで、ある種オヤジくさい音楽であるアメリカーナに洗練された響きを与える手腕とエモさ・オトコの哀愁を引き出すことにかけては天下一品ですね。プロデューサー聴きする人リストに入れたいと思います。

オススメ曲

その1: 2. 21 Days

シングルにもなっている、落ち着いた作風の今作では一番アレンジ面で派手な曲です。ところで、上述しましたがこれを聴いて誰が禁煙の曲だと思うでしょうか。言われてみればそうですが知りたかったような知りたくなかったような。いずれにせよ禁煙についてこうもエモく歌い上げられるBrianの才気が迸る切ない名曲です。今作全編通して言えることですが雨降りの帰り道とかで聴きたい。

君のことが一番恋しくなるのは朝かな…/よくコーヒーを飲みながら話したよね/でも今、僕は新しい友達を見つけないといけない/物事が終わった時/僕らは離れる/僕らは泣く/僕らは癒えていく/人は21日もすれば恋しくなくなるって言うけどさ/君のことを恋しく感じなくなるまであと21日

その2: 3. Vincent

メロウな今作の中でも指折りにメロウな曲です。Joleneという女性と暴力男Vincentとの愛憎渦巻く関係が描かれます。曲の中盤で彼女はVincentを…。そしてお願いだから私の男を盗らないで!Jolene!と歌われるDolly Partonの曲は自分の名前とタイトルが同じだけど嫌いだ、と歌われる冒頭とラストが繋がります。これがストーリーテリングという奴でしょうか。

その3: 1. When You're Ready

冒頭曲であり、落ち着いた今作の中では比較的わかりやすくポップなメロディを持った曲です。だからトップに選ばれたのでしょうか。歌詞のストレートな父から娘へのメッセージが滲みます。もはやさだまさしの世界。フォークと親から子どもへのメッセージの相性は万国共通です。

君が愛するのがどんな人なのか想像もつかない/君のことを馬鹿みたいに元気づけてくれる人だといい/君を夢中にさせてくれるような人だといい/君に成長してほしくなんてない/僕の元から去って欲しくないからね/でも誰かを選ぶ準備ができたその時には/そいつが僕の半分でも君を愛してることをよく確かめてくれ

点数

7.2

私はCDを買いましたが、歌詞カードもとても綺麗な作りでよいです。ヴァイナルだともっと綺麗なんだろうなーと思います。そういうところも昔気質な感じでいいと思います。The Gaslight Anthemには課金を惜しまない!という奇特な方は是非フィジカルで。

因みにBrian Fallonさんは音源のリリースこそ多くないものの、バンド時代からいろんなプロジェクトを掛け持ちしています。The Gaslight Anthemほど暑苦しくなくて今作ほど渋くない、土臭くないアメリカンロックが聴きたい…という欲張りな方には今作にも参加しているギタリストのIan Parkinsと組んだThe Horrible Crowesをオススメします。

(今作を聴きながら読んだインタビュー記事)








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