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Wahed Out / Purple Noon (2020) 感想

チルの波

 2000年代後半に話題になった、Cill Wave(チルウェーブ)という括りがあります。代表格はToro Y Moi、Neon Indian、そしてこのWashed Outです。
 音楽性はWikipediaに次のようにまとめられています。その名のとおり、適度にサイケでレイドバック感があり、チルアウトするには最適な音楽でした。

チープな打ち込みをバックにノスタルジックなメロディーを乗せ、アンビエントの要素をブレンドした強烈なレイドバック感のあるシンセポップを展開する。

 
 そんなチルウェーブという言葉が生まれてはや10年以上。Toro Y Moiは生音志向のR&B/ソウルに接近し、セクシーという言葉さえ浮かぶ色男になりました。Neon Indianはサイケでドラッギーなディスコミュージックを展開するトリックスターになりました。
 Washed Outは3年振りとなるこの4thで…相変わらずチルアウトしていました。

少しポップになった

 とはいえ、Washed OutことErnest Greeneの音楽性も少しずつ変化してきています。
 チルウェーブという言葉が生まれるきっかけの一つになった、上記WikiどおりなデビューEP"Life Of Leisure"(2009)と比べるとその差は歴然としていますが、今作はビートが強調され、さらにWashed Outとしては比較的メロディーの立った、ポップな仕上がりとなりました。
 
 ポップな5曲目の"Reckless Desires"や9曲目"Hide"には聴いていて新鮮な驚きがあり、ボーカルのアレンジによってはRhyeのようなネオ・ソウル、インディーR&Bとして扱われていたと思います(実際、今作の影響源にはネオ・ソウルの大家、Rhyeの最大のインスピレーション源でもあるSadeが挙げられています)。
 この辺りはサンプリングを駆使してヒップホップ的なビートに接近した前作"Mister Mellow"(内容はともあれ最高のタイトルです)や、他のアーティストへの楽曲提供といった経験が影響しているそうです。

中堅あるある

 しかし、では今作が優れているかと言われると…そうは感じません。
 それは、上述の曲以外は多少ビートが強調されたくらいで「いつものWashed Out」に終始しているせいでもあり、例外的にポップな曲にしても"Washed Outとしては比較的"という範疇のものであり、他のジャンルを巧みに取り込んでチルウェーブの次を見せたToro Y MoiやNeon Indianに比べると、物足りなく感じてしまうからだと思います。
 また2020年という時代の気分が、ただ単純にチルアウトしていられるようなものではないということもあります。現実逃避はしたいですが。

 The Beatles"Beatles For Sale"、Maximo Park"Too Much Informations"、The Killers"Battle Born"…。
 中堅といわれるまでにキャリアを重ねたアーティストにまま見られる、自身の成熟と時代の狭間で産み落とされた、これまでのファンなら絶対に気に入りはすれど、将来は忘れられがちになるアルバム。
 今作からはリリース1ヶ月を待たずして、既にその風格を感じます。

オススメ曲

■ 5. Reckless Desire

 曲の最後に、明確に盛り上げることを目的としたサビらしき箇所があります。それだけで、今作の意識の違いを感じることができます。

■ 9. Hide

 恐らくWashed Out史上指折りでBPMの高い曲であり、なんならThe Weekndの作品にひっそりと入っていても違和感がない気さえするくらい80s風味の強い曲です。いっそのことこの路線を中心にしてもよかったのにと感じます。

■ 3. Time To Walk Away 

 どこかバレリアックな趣の、2ndくらいまでの色を濃く感じる曲です。ある意味で、よりポップな面を示しながらもこれまでの作品群とのバランスを取ろうとしているような、今作を象徴するような曲かもしれません。

点数

5.8

 これまで追ってきたファンなら愛さずにはいられないものの、それ以上のものではなないかなと。
 
 しかしながら、今作のリリースを記念してYouTubeで公開されたライブ動画はチルアウトにもってこいで大変オススメです。




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