見出し画像

Maxïmo Park / Nature Always Wins (2021) 感想

参りました

 4年前の前作「Risk To Exist」がキャリア史上初の駄作、しかもその後にメンバーの脱退もあったりと分かりやすく迷走しており密かに心配していたのですが、参りました。これは私が好きなタイプの作品です。
 Kings Of Leon「Mechanical Bull」、The Charlatans「Modern Nature」、Radiohead「In Rainbows」、The Beatles「The Beatles」…。中堅、ベテランと呼ばれるまでにキャリアを重ねたバンドが、ベテラン故の成熟・円熟を見せる、落ち着いたソング・オリエンテッドなアルバム
 もうそのバンドがトレンドやエッジーさからは一歩引いた、安定期に入ったことを示す作品とも言えます。2."Versions Of You"の王道感はどうでしょう。

 それぞれに今年のアルバムも素晴らしかったShame、Goat Girl、Black Country,New Road等、またぞろポストパンクという言葉が聞かれるようになってきたイギリスにおいて、15年以上前に「ポストパンク・リバイバル」としてデビューした彼らがどんな作品を作るのか?という期待もありましたが、もはや彼らは世間の流行りには影響されないところにいたようです。

ベテランの業

 初期の頃の、転調を多用したキャッチーなポストパンク、的なイメージで聴くと地味な作品に聴こえることは間違いありません。強いて言うならその色を残しているのは9."I Don't Know What I'm Doing"くらいですが、アクセント的な使われ方で、曲単体で聴くとあまりキレがありません。歌詞が子育てについてだという話を読んでからは好きな曲になりましたが、余計なお世話ながら、これが先行曲というあたりにギョーカイ的な彼らのイメージとバンドの現在の差を感じます。

君が初めて血を流した時/とても怖くて責任を感じた/状況は改善されてきているとは言え/君の気分がいい時は僕らも嬉しいけど/君の秘密の言葉には混乱する

 しかし全体としては、思わず「UKロック」という言葉が頭に浮かぶ、小気味良さと切なさが同居した曲が目白押しです。実際このアルバム、British Anthemsという言葉を覚えているくらいの世代にはけっこう刺さるんじゃないでしょうか。相変わらず面倒くさい文学男子感溢れるPaul Smithの歌詞も素敵です。
 曲としては、エモい5."All Of Me"と8."Why Must A Building Burn?"が白眉です。特に2017年のロンドンの高層マンション火災から着想を得たと言う後者は、そのテーマと流れるようなポップさが合わさって何とも言えない後味を残してくれます。

僕は無謀で無遠慮だった/君は人を気にかけるってことを僕に教えてくれた/この歌こそが君の居場所/僕の全て/この歌に君のことが入っていないなら/芸術からかけ離れているなら/僕はそんなもの認めない
写真を見たんだ/テレビに映る/君の笑顔を見つけて唖然とした/それは君だった/ずっと、君だった

 そしてそんなアルバムを、起伏の少ない、初期Pulpみたいなダークなニューウェーブ調の曲で締めるのは元来アート志向の高い彼らの意地でしょうか。この曲があるからこそ、彼らは安定期に入ったからといってもまだまだ音楽的なチャレンジへの意欲を失っていないことも伝わり、本当にバランスが取れたいいアルバムだなあと思う次第です。流石は年の功。

点数

8.0

 彼らのキャリアで言えば、集大成的な最高傑作5th「Too Much Informatiom」、デビュー作「A Certain Trigger」に次ぐ、3番目の傑作と言ってしまっていいと思います。3/6には配信ライブもあるそうなので是非。最近は揃いの衣装を着ていてなんか可愛らしいですね。

(参考記事)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?