The Flaming Lips / American Head (2020) 感想
待ってました!
と一部から大喝采を浴びること間違いなしのThe Flaming Lips、1年振り、オリジナルとしてはなんと16枚目となる新作です。
一部とは、私のような"The Soft Bulletin"(1999)〜"Yoshimi Battles The Pink Robots"(2002)〜"At War With The Mystics"(2006)の3作、本質的にノイジーでアングラなサイケバンドである彼らが何を血迷ったかカラフルで多幸感溢れるポップソングを量産していた時期の作品をこよなく愛する人々です。ガチ勢の御仁からはニワカと言われるかも知れませんが…。
(彼らと言えばこの曲。州歌にする出身地オクラホマの懐の深さよ)
"At War〜"後の諸作では再びアングラサイケ街道を驀進し、ポップになったことで増えたファンを一気にふるい落とす唯我独尊っぷりもまた最高でしたが、ここでの彼らは多幸感溢れるあの音を再び鳴らしています。
うつくしい
と言っても、アルバムとしての印象は先の3作とはかなり異なります。"Race For The Prize"や"Do You Realize??"等のハイパーなポップソングに代表されるようにカラフルな(ラリってる)イメージが強いあちらに比べ、今作は全編メロウ。優しいメロディと甘美な音世界にとにかく浸るのが正解だと思います。
とにかく、冒頭の長尺曲"Will You Return / When You Come Down"が最高です。スペーシーな味付けがされたジェントルなピアノ・バラードですが、アウトロでひしゃげたギターが入ってくる瞬間は、2020年にこれまでリリースされた曲の中で最も美しい瞬間かもしれません。
比較的メロディーの立った曲が続き、恐竜に想いを馳せたりするドリーミィな前半から、後半に進むにつれて若くして亡くなった兄弟やLSD体験と後悔、自身の臨死体験などテーマが内省的になっていくのに合わせて曲もダウナーになっていきますが、その名の通り「僕の宗教は君」と歌われる"My Religion Is You"ですぐ側に希望を見出して終わる構成も完璧です。
思わせぶりなアルバムタイトルですが政治的な意図は特にないそうで(「トランプのことなんか話もしないよ。彼より僕らの音楽の方が深いから」ってカッコ良すぎです)、離婚・再婚と第一子の誕生を経、還暦を目前に控えたWayne Coyneのパーソナルな一面が出た作品だということで、こうしたある種落ち着いた作品になったのだと思います。
The Flaming Lipsにこんな言葉を使うとは思ってもみませんでしたが、こんな風に歳を取れたら素敵だな、と思う、そんなアルバムでした。
点数
8.0
因みに今作では、数曲でコーラスにTayor Swiftに並ぶ今様カントリー・シンガーの星Kacey Musgravesが参加しています。
Miley Cyrusもそうですけど、たまに謎のセレブな人脈を披露するあたり、さすが年の功。
(参考記事など)
(記事中の発言はこちらから。"My Religion Is You"の元になった、子供の頃のお母さんとの会話も素敵です)
https://blog.discogs.com/en/wayne-coyne-interview-american-head-band/
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