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Ryan Adams / Wednesdays (2020) 感想

別れのヤツ

 出会いと別れの春。バタバタしておりなかなかゆっくり音楽を聴けていないのですが、そんな中でふとした時に聴いているのが、まさ今の時期にぴったりな本作です。先月のフィジカルのリリースを機に聴く機会が増えました。
 本作については昨年末に書いており、結論もまあ同じではあるのですが、せっかく最近よく聴いているので改めて。

泣きのメロディー

 ソロ1stが失恋にインスパイアされた、その名も「Heartbreaker」であることからも明白なように、私生活と作品がリンクしまくるタイプの彼。
 本作では(恐らく2017年の前作「Prisoner」から引き続き)離婚や闘病の末亡くなった兄弟など、様々な形での愛する人との別れが描かれ、そのテーマに引きずられるように、アコギ+ベース+鍵盤の編成を基調とした、静謐な(地味な)フォーク/カントリー・バラード集になっています。なんせ初っ端から"I'm Sorry And I Love You"ですから。

僕を嫌う前の君を覚えている/僕を新しい誰かと取り替える前の君を
貴方はこんな風に去って行きたくなかっただろう/その思いを何とか隠そうとしてたよね/とにかく今、貴方を愛そう
カロライナでは/家の側に薔薇が咲いていて/貴方の弟と妹、お父さんとお母さん/友達が皆んな集まって/貴方が向こうへ行く時は/そこで皆んなが待っていることを願う

 シンプルな作りの本作には、愛すべきRyan Adams節が高い純度で詰まっています。つまりいたたまれなくなるような想いを綴った歌詞と、こっそりと泣いているように震える歌声。ファンなら堪らないでしょう。Bob Dylan風の節回しを取り入れたタイトルトラックなんかも聴いててニヤリとしてしまいます。

 そんな作風であるからこそしかし、ハイライトは全編バンドスタイルで演奏される最初・真ん中・最後の3曲です。泣きのメロディーメイカーっぷりが強調され、その3曲を聴くためだけにアルバムを繰り返して聴いてしまうほど、とにかくエモいです。
 特に中盤、静かな曲が続いた後に7."Birmingham"が始まる瞬間の気持ち良さったらないです。単体でもいい曲ですが、これはやはりアルバムとしての流れで聴いてこそ。

部屋を歩き回っていると、この家はひどく空っぽに感じる/魂が痛むんだ/君は信じないだろうけど

とはいえ

 本作を語る上で避けては通れないのが、彼の元妻含む複数の女性へのハラスメントの告発があったことと、その後、初めてのアルバムであるということです。彼の行いに関しては今記事を読んでも胸糞が悪くなるようなものばかりで、これに関しては全く擁護できません。
 元々上記を受けて発売が白紙になっていた3枚のアルバムの内の2枚の収録曲から構成されているため、特段本作がそれを受けて作られたという訳ではない筈ですが、そういう見方をされることは避けられないでしょうし、やはり告発以前と以降では、彼の曲の聴こえ方は変わってしまいました。失恋ソングの名手である彼ですが、してきた行いを思えば、正直、切ない失恋ソングにできるのは最早サイコパスの域であるとすら思えます。

 過去作含めて言えることではありますが、ギルティプレジャーとでもいいますか、ファンなら抗えない魅力に溢れつつも素直にいいとは思えない、惜しい作品/アーティストに今の彼はなってしまいました。

点数

6.9

 本作もまた三部作の一枚とアナウンスされており、4月に入ってSNSには新曲の断片と思しきものが連投されています。彼の音楽を嫌いにはなれないので、今後も新譜がリリースされたら複雑な想いを抱きながら聴くと思います。
 ファンとしては、SNSに投稿された反省の言葉を信じて見守るしかありません(SNSで言うだけで直接の謝罪がない、と言われてしまっていましたが…)。頼むよホント。

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