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年間ベスト番外編:その他の今年印象に残ったアルバム11枚

 年間ベストを書いてしまうとやり切った感がありますが、その他の今年印象に残ったアルバムについて、記録がてらつらつら書いていきます。

Honourable Mention

迷いに迷った年間ベストの次点の次点です。

Matt Berninger / Serpentine Prison

 Taylor Swiftの一連の作品が今年を代表する傑作(特に2枚目の方)であることに全く異論はありませんが、個人的にはどうも「Taylorがインディーに接近した」という以上のものを感じませんでした。同じスーパースターからのインディーへの接近で言えば、Beyonce"Lemonade"ほどの有無を言わせない凄みを感じないというか、隠しきれない根の陽キャ感に違和感があるというか。
 そんな訳で、例の2枚に足りない物がここにはあります。この枯れた哀愁はどうでしょう。いくら本人を招聘しようとも純度100%の本物には勝てません。でも地味。これをバンドで物凄くセンス良くやるとThe Nationalになるんだなと妙に納得の一枚。

Ryan Adams / Wednesdays

 突然出た3年ぶりの新作。基本的には最新版"Love Is Hell"と言った趣の暗くてエモいカントリー・バラード集で、つまり最良のRyan Adamsです。今年は声も音楽性も似ているJason Isbellの評価が高かったですが、ことバラードに関しては断然こちらです。
 しかしあんなことがあった後では、どうしても以前とは聴こえ方が違ってしまいます。誰かが何かやらかす度に作品と演者は関係ないか論争を最近よく目にするようになりましたが、こと音楽、ロックに関しては良くも悪くも演者の人となりが作品のイメージに与える影響は大きいです。前作の名曲"Do You Still Love Me?"なんて今ではどの口が言ってんだって感じです。
 本作は一曲目が"I'm Sorry And I Love You"というあざとさですが、その言葉を素直に聴けるようになるにはまだ少し時間がかかりそうです。いい曲が詰まっているだけに本当に残念です。

がっかりアルバム

期待していただけに聴いて少しがっかりしたアルバム達です。ワーストではなくがっかり。愛情の裏返しです。

Car Seat Headrest / Making A Door Less Open

 サイドプロジェクトでやっていたヒップホップからの影響を取り入れたという本作。サイドプロジェクトの方は聴いたことありません。元々言葉のバンドなのでヒップホップとの親和性は高いのではという気がしますが、結果は何とも残念な感じに。むしろ音を聞かせるために口数は減り、ありきたりなビートといかにもこのバンドっぽい90sオルタナなギターがところどころで鳴り響く、出来損ないのNine Inch Nails(しかも調子が悪い時)みたいな半端な出来です。発売から半年経っても成功しているとは思えません。

Elvis Costello / Hey Clockface

 前作"Look Now"が彼のポップサイドの集大成的傑作(実際過去の曲の寄せ集めですしね)だったので違う路線でくると思ってはいましたが。最初のスポークンワードと次のペシャペシャした打ち込みでズッコケそうになりました。
 以降も手癖で作ったようなジャジーなバラードとチープでノイジーな打ち込みの曲が続き、まったく焦点が定まっていません。よく言えば大病を乗り越えて今なお挑戦的と言えますが、まだリハビリ中ってところでしょうか。

Nick Hakim / Will This Make Me Good

 ローファイ・サイケデリック・インディー・ソウルというもはや何のこっちゃな、しかしそうとしか言えない形容をされていた3年前の1stは、地味な中に垣間見えるソウルフルさが良かったのですが、結構待った2ndはただ地味な一作になりました。たまにボーカルが怖い/うるさいという以外の印象がありません。

ベスト新人

Pillow Queens / In Waiting

 今年はBeabadoobeeを筆頭にイギリスから活きのいい新人がたくさん出てきましたが、個人的に一番グッときたのはこのPillow Queensでした。正確にはアイリッシュですが。なんてことないギタポ、シューゲイザーといえばそうなんですが、そこに"Handsome Wife"等そっと男性上位な価値観を揺さぶる曲を入れるのが2020年的。そもそもよく考えたらバンド名からして子どもに意味を聞かれたら答えられない感じでした。Dream Wifeと並ぶ戦うバンドになってくれるのでしょうか?

Easy Life / Junk Food

 ソウル/R&Bとヒップホップとロックを自由に、かつ緩く横断する様はさしずめバンド版Rex Orange County、またはイギリスのどついたるねん。イージー・ライフ「ジャンクフード」という字面の馬鹿っぽさも見た目のイケてなさも全て最高です。新人の登竜門BBC Sound Of 2020に選出された勢いのままポンポンリリースするタイプかと思いましたが今年はこの7曲入りのミックステープとシングルだけでした。今後に期待です。

ベスト・リイシュー

Tom Petty / Wildflowers & All The Rest

 1994年の傑作。当初2枚組の予定が1枚に削られていたそうですが、生前から噂されていた通りデラックス版として、削られた曲達と宅録ver、新しくは2017年と時期にこだわらず選りすぐられたオリジナルアルバム収録曲プラスαのライブverを追加してリリースされました。
 多作なPrinceのリイシューものは流石に物量に圧倒されますが、「実はこんなんもあったんですけど…」って感じがのさりげなさが実にこの人らしいです。収録された全てが素晴らしく、本作の新たな顔を見せてくれる理想的なリイシューでした。U2、聞いてるのか!(下に続きます)

がっかりリイシュー

U2 / All That You Can't Leave Behind (20th Anniversary Edition)

 アルバムは勿論10点満点、文句なしの大名盤ですが、この20周年記念盤はCDで5枚組と大ボリュームの割に少し手抜きな印象です。うち3枚がリミックスとDVDで観倒したライブの音源化て(でもライブは何回聴いても素晴らしすぎて悔しいです)。残るレア音源集も、この辺りからのU2はB面にキレがないのであまり感動はありません。
 B面曲の中にアルバム曲"Beautiful Day"のプロトタイプがあるように相当試行錯誤してアルバムを作る人達なので、どうせなら"Achtung Baby"の時みたいにがっつり制作過程を入れて欲しかったです。U2のリミックスって誰が得してるのかいまいち謎なんですが、どうなんでしょう。

ベスト・ジャケット

Micko & The Mellotronics / 1/2 Dove 1/2 Pigeon

単純に鳥が好きなんです。可愛いですね。アルバム自体はやや凡庸なロカビリー。だからリーゼントなんですね。

今年リリースじゃないけどよく聴いたアルバム

Hiss Golden Messenger / Terms Of Surrender (2019)

 祝・グラミーノミネート(アメリカーナ部門。そんなのあったんですね)!今年彼にハマったのは完全に偶然ですが、いいタイミングだったのかもしれません。毎年何かと議論になるグラミーですが、ノミネートされないよりはされた方がいいんじゃないでしょうか。ですよね、Abelさん

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 ところで、年間ベストの方は何故かnote編集部のまとめに入ったみたいで、この場末の落書きとしては驚くほど多くの方にお読みいただきました。ありがとうございます。この場をお借りして御礼申し上げます。小心者なので何が起きたのか分かるまで怖かったです。いきなりスパムに爆撃されて。

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