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Catherine Anne Davies and Bernard Butler / In Memory Of My Feelings (2020) 感想

バーナード・バトラー、弾く。

 ウェールズ出身のSSWと、元Suedeのギタリストであり今や敏腕プロデューサーのデュオ名義の作品。
 Bernard ButlerがEP2枚で消えた幻のバンドTrans以来、6年ぶりに自身が名を連ねる音源をリリースするということでクラスタは大盛り上がりでしたが、2014年に完成したもののお蔵入りになっていた作品がNeedle Mythologyというインディペンデントなレーベルの目に留まりリリースに至った、という経緯のようです。
 直近の音源ではないことは残念ですが、そんなことはもういいんです。この素晴らしい作品がそのままお蔵入りにならなくて良かったと心から思います。

裏方になりきれない人

 私はバーナードクラスタですので、恥ずかしながらCatherineさんのことは全く知りませんでした。The Anchoress名義で2016年にデビューし期待の新人としていくつかの賞を受賞、MansunのPaul DraperやManic Street Preachersなど特定の層にドンピシャな面々と共演するなど高い評価を獲得、SSWの他作家としても活動…となかなかの才媛のようです。
 件のアルバムはロックなRufus Wainwrightといった趣の、シアトリカルでグラマラスな佳作でした。

 しかし正直聴くまでは、私の今作への期待はどれだけバーナードでバトラーなギターが聴けるかという1点だけでした。
 低音弦だろうが開放弦だろうが容赦なくぶっ叩き、激エモなビブラート/アーミングを効かせ、時にボーカルを食うほどに歌い続けるあのギターです。
 プロデュース作では俺が弾いた方が早いと言わんばかりに演奏でも参加し、時にはプロデューサーの癖にツアーに帯同どころかスペシャルゲスト扱いされたりもする彼ですが、片鱗は見せるものの常に「自分裏方ですから…」という遠慮も感じられました。ファンとしては、なんか大人しくない?もっと腰を振れ!と思っていたものです。

(腰を振り、全身でギターを弾いてこそバーナード)

ステイ・トゥゲザー再び

 前置きが長くなりましたが、そんなこんなで今作。The Tearsはこうあるべきだったと断言したくなる、シアトリカルかつどこか気怠げな色気を湛えたCatherineの歌と、グラム、ソウル等のBernardがキャリアを通じて取り組んできた音楽が高い次元で融合した傑作です。
 肝心のギターもSuedeの頃のような激情はありませんが、円熟のギターを聴くことができます。もう歌いまくり。時にウォールオブサウンドが過剰になりがちなプロダクションもここでは引き際を心得て、流石の敏腕っぷりです。

 曲単位では何と言ってもストンピーなロックンロール3."Sabotage (Looks So Easy)"。ギターソロの弦を叩きつける感じがこれだよこれ!と膝を叩きたくなります。低予算感漂うMVもイケてます。

 バラードにも一切の隙はありません。5."I Know"の歌とそれにまとわりつくギターの絡みの美しさは悶絶モノです。

 極め付けはキャッチーな9."The Patron Saint Of The Lost Cause"を経ての最終曲"F.O.H"。まさに大団円です。ラスト、聴き取れないくらい捲し立てるボーカルと共に盛り上がる束の間のギター・シンフォニー…某Stay Togetherのセルフオマージュとしか思えませんが、だからこそ感涙です。
 10曲というコンパクトな作りも手伝い、何度も繰り返しリピートしたくなる、円熟のロックがここに。傑作です。

点数

8.3

 完成後にお蔵入りになっていたこともあり、本人達は今回のリリースには(Twitterの節々から感じる限り)複雑な思いもあるようですが、メディアの評判もいいようですし、発売初日のUKデイリーチャートで14位に入る大健闘を見せているそうです。
 気を良くして第二弾を作ってくれるといいのですが、果たして。

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