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Muzz / Muzz (2020) 感想

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スーパーバンド

MuzzはUSインディー界における所謂スーパーバンドです。メンバーは古くからの友人であるというInterpolのフロントマンPaul Banksと元The WalkmenのドラマーMatt Barrick、そしてThe NationalやThe War On Drugsの作品へも参加しているというマルチ・プレイヤー、Josh Kaufmanの3人で、デビュー作がリリースされました。

GrandaddyとFranz Ferdinand、Travisといった錚々たるメンバーによるBNQTやBright EyesとMy Morning JacketによるMonsters Of Folk等、スーパーバンドというのは得てしてお互いの個性を打ち消し合ったどっちつかずで残念な結果になることも多いものですが、今作は痒いところに手が届く良作になっています。しかしメタルのバンTみたいなロゴとジャケットのダサさは何とかならなかったのでしょうか。

惜しいバンド

Muzzはそもそもの知名度的にInterpolのPaulの新バンドと紹介されることが多く私もそれで知ったクチですが、個人的なInterpolに対するイメージは「惜しいバンド」です。Joy Divisionを彷彿とさせるダークなポストパンクとセクシーなPaulのバリトンボイスでpitchforkで9.5点を獲得し一躍脚光を浴びた2002年のデビュー作以降、いまいち思ったよりもハネずに来てしまった印象があります。

Paulのバリトンやメンバー全員がダークスーツを基調にしたエレガントな佇まい、そしてデビュー当時の騒がれ方からも、Interpolが順当にアルバムを重ねていけばいまThe Nationalがいる、「セクシーかつダンディ、男も惚れる大人の男のロック」で世界中のチャートで一位を狙えるカリスマ的なポジションにいた筈だと思っています。3rdくらいまでは確実にその勢いがありました。しかし大絶賛された1stの呪縛が大きすぎたのか単に本人達の音楽性の幅が意外と狭かったのか、どうも1stからどう発展していくか手探りしている内に作品数ばかりが重なっていき、当初に比べれば地味な存在に落ち着いてしまった感があります(それでも全てのアルバムに必殺の名曲があるのは流石ですが)。

しかし今作で主となるのはInterpolのJoy Division直系のポストパンクではなく、USインディー界におけるダンディズムのエモ担当であったThe Walkmenとセンチメンタリズム担当であるThe National人脈とのコラボレーションによる、まさに後期The Walkmenのようにリバーブの奥から情念が湧き上がるサイケなロックとThe Nationalのようなスロー・バーニングな情感の豊かさが合わさったような曲群です。そんな中でMuzzというバンドを〜っぽい、以上の存在に特徴付ける要因はメロディが70年代のロックに影響を受けたというよく聴けば比較的大らかな、親しみやすいものであることと、多用されるホーンかなと思います。このホーンが不思議と異国的な雰囲気を出しておりいい感じです。そして案の定そうした曲群にPaulの声がまあハマるのです。一聴して浮かぶ言葉はそう、セクシー、ダンディです。アルバムとしては後半ややネタ切れ感がある(ボサノバ風味の"Summer Love"なんかはあまり成功しているとは思えません)のが残念ではありますが、総じてダンディズムに浸れる素敵な作品です。

オススメ曲

その1: 1. Bad Feeling

今作の一曲目でありMuzzとして初めてリリースされた曲でもあります。徐々にビルドアップされていき女声コーラス、更にその後にリバーブのかかったホーンが入ってくる瞬間に昇天しそうになる、至福の音世界です。

その2: 3. Red Western Sky

これぞまさにInterpolのソリッドさとThe NationalのダンディズムとThe Walkmenのサイケ感を混ぜ合わせた、Muzzのメンバーから連想されるイメージのど真ん中を行く曲です。曲を通して漂う緊張感が堪りません。

その3: 5. Everything Like It Used To Be

実際のところ70年代ロックに影響を受けた…と言われてもイマイチピンとこない今作ですが、この曲の流れるようなメロディーとストリングスのアレンジには確かに往年のウェストコーストな雰囲気を感じなくもありません。Paul Banks史上最もポップな曲かもしれません。

点数

7.0

上記の曲以外では7."Kuckleduster"のクリアーな、弾むドラムが好きです。それはさておき、Interpolではメンバーの脱退を経て特徴のないオルタナを鳴らすようになったり地味なソロアルバムを出したり突然Wu-Tang Clanとコラボでヒップホップ作を出したりとこの10年ほど自分探しが続いていたPaul Banksですが、こんなのが聴きたかったんだよ、と思わず膝を叩きたくなる作品です。Muzzが今後も継続して活動していくのか分かりませんが、是非そうしてほしいと思います。

(今作を聴きながら読んだインタビュー記事)



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