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かつては聴いていて疲れるぐらいの音楽が好きだった。Art BlakeyとGlenn Gould

今日は午前中、グレン・グールドのCDを聴いて、今はアートブレーキーの”UGETSU”を聴いている。
”UGETSU”のタイトルは「雨月」あの雨月物語をモチーフにしているということなのだけれど、特に和風というわけでもなく、ストレートアヘッドなハードバップに仕上がっている。

私は、実はウェイン・ショーターのサックスはそれほど好きなわけではないのだけれど(巨匠に向かってすみません)この彼が音楽監督をしていた頃のアートブレーキーのアルバムは好きなので、おそらく彼の音楽そのものは嫌いではないのだと思う。

アートブレーキー&ジャズ・メッセンジャーズはいつも豪華なメンバーなのだけれど、その中でも、フレディ・ハバード、カーティス・フラー、ウェイン・ショーターの3管時代のサウンドは迫力がある。それまでのジャズでは3管編成だと、どっちかといえばジャズのビッグバンドの小型版のようにそれぞれの管楽器に役割が割り当てられていたのだけれど、この頃のメッセンジャーズの3管はもっとモダンで、3本の管楽器が全員リードを吹いているような、実際にはトランペットがリードを吹いてあと二人でハーモニーを吹くのだけれど、3人が対等な立ち位置で吹いているような編成である。

それでも、トランペットのフレディ・ハバードの存在感は大きい。彼の、ドスのきいた中音域、ちょっと辛そうにも聴こえるハイノートが織りなすハードバップサウンドは、同時代のハードバップのあり方を定義づけたと言っても過言ではないだろう。

私は、この頃のブレーキーのサウンドを高校時代にCDやらレコードで聴いて以来、付かず離れずでお付き合いしてきたのだけれど、いつ聴いても暑苦しい。でも、いかにもジャズという感じがしていいんだよな。

高校時代といえば、グレン・グールド。高校時代に友人に喫茶店というところに連れて行ってもらった。それまで私が出入りしていたような中高生むけの喫茶店ではなく、おそらく大学生やら、ちょっとインテリっぽいおじさん・おばさんむけの喫茶店である。

白く塗られた壁、低い天井、マホガニー材でできた小ぶりな椅子と机、マントルピース、ガラス窓の奥には小さな中庭。札幌の市街地にひっそりと佇むそのような喫茶店だった。

私は、とりあえずホットコーヒーを頼み(八百円ぐらいしたかもしれない)、お会計を心配しながらそれを大事に飲んだのを覚えている。友人は小樽の医者の息子だったのでお金持ちで、喫茶店の会計など特に心配していなかったのだと思う。

とりあえず、コーヒーを飲んだら落ち着いてきて、店でかかっている音楽にまで神経が行き渡った。それはグレン・グールドが演奏するゴールドベルク変奏曲だったような気がする。いつの録音だったかは覚えていないけれど、独特のテンポ感、時折聞こえる唸り声からすぐにそれがグレン・グールドの演奏するレコードだとわかった。

ピアノ音楽というものにあまり興味がなかった私も、グレン・グールドの演奏については知っていた。それが、他の演奏家のものとはかなり異なっていて、それでいて妙な説得力があるということも。ませた高校生が聴くのにはちょうど良い刺激的な音楽である。

そのレコードが終わるまで、私たちはグールドのピアノに耳を傾けた。次にかかったレコードがなんだったかは覚えていない。ただ、そのちょっとインテリ臭さのある喫茶店の空気に、グレン・グールドのピアノの音色がよくマッチしていたのを記憶している。

今日は意図せずに高校時代に聴いた音楽を立て続けに聴いていて、懐かしい気持ちと、なぜ今あまりそれらの音楽を聴かなくなってしまったのかがわかる気もした。

自営業になり、好きな時に好きな音楽を聴けるようになったわけだが、そんな中でいつも選ぶ音楽はやはり今の自分に合った音楽であり、懐かしさや、ノスタルジーに負けて時々聴く音楽は一時のものであり私のレギュラーラインナップには入ってこない。

グレン・グールドもアート・ブレーキーももちろん好きな演奏家ではあるけれど、高校時代に感じていたような熱さと瑞々しさのようなものが、今の私には少し疲れるのかもしれない。今の私には、金太郎飴のようにどこで切ってもあまり代わり映えのしない安全な音楽の方が合っているような気がしている。それが、カントリー・ミュージックであったり、古いジャズであったり、クラシック音楽であったりというヴァリエーションはあるけれど、高校時代からしてみれば随分と守りに入った音楽ライフである。

かつては聴いていて疲れるぐらいの音楽が好きだった。
今は、聴いていて疲れない音楽を求めているのかもしれない。
今は、それでいいのだし、あの頃はそれが良かったのだろう。これから先また好みは変わるかもしれない。音楽の好みというのは年々変わるもんだなあ。

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