写真家の豊原康久氏に教わったこと
先日、あるSNSを見ていたら、昨年に写真家の豊原康久氏が亡くなったとの情報が出ていた。本当なのかどうなのかはわからないけれど、本当だとしたら、とても残念なことだ。
豊原氏は写真集「Street」で木村伊兵衛賞を受賞した写真家である。一貫して道行く人々を撮影するストリート・スナップを撮っていて、その作品はどれも爽やかで、押し付けがましくなく、それでいて印象に残る写真群である。
私は、豊原氏の写真が好きで、出版されている写真集はどちらも持っている。何度か写真展を見に行ったこともある。特に、銀座ニコンサロンで開催された「Seaside fact」(だったかな?)はとても印象に残っている。
豊原氏には学生時代に何度かお会いしたこともあり、写真について教えていただいたこともあった。大学の写真クラブに豊原氏が来ているという噂を聞いて、写真に興味があった私は豊原氏の話を聞くために写真クラブに入った。
そこで、豊原先生に色々な写真家の写真集を見せていただいた。
William Kleinの「New York」、Garry Winograndの写真集を何冊か、Robert Frankの「Americans」、Lee Friedlanderの図録「Like a one eyed Cat」。
それらの写真集を見せていただいた際に、William Kleinはすごくインパクトがあったが、豊原先生が特に好きだとおっしゃっていたGarry Winograndの写真集については正直全然わからなかった。写真がなんなのかわからなかった。
その後、何度か豊原先生と写真について話しながら酒を飲んでいるうちに、私は写真の面白さに気がついてきた。一度思想を捨てて、直感的に写真を見るということ、そのうえで自分の知識を活かして写真を読み解くこと、そこに意味など見出せなくても、そこに何が写っているかを鑑賞すること。これで写真がある程度見えてくる。そんなことを「理解」した。
そうやってウィノグランドの写真や豊原先生の写真を見てみると、どんどん吸い込まれていった。そこには、写真の中で複雑なバランスで関連し合う被写体が見えてきた。その、絶妙な絡み合いこそがWinograndや豊原先生の写真、ひいてはストリート・スナップの面白さだった。
今となっては私自身は作品としての写真を撮ろうとする努力はやめてしまい、もっぱら趣味でカメラをいじり家族の写真を撮ったりしているのだが、当時はライカやらシノゴのカメラで写真を撮っていた。
その写真を製作することを通して、写真作品の鑑賞のしかた、美術作品の鑑賞のしかた、音楽の鑑賞のしかたなどを習得していった。
豊原先生に写真についての話をうかがいながら酒を飲めるという機会がなければ、世界を純粋な視線で見つめるということができない大人になっていたかもしれない。それだけ20代前半に豊原先生から学ばせてもらったことは多かった。
この場を借りて、豊原先生にお礼をしたい。
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