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「好き」という態度

ぼくは工場を何も知らなかった

 ぼくが製造業というものづくりの世界に文字通りものづくりの世界に文字通り飛び込んで半年が過ぎました。以前も今もなのですが、「工場の息子」であるとか「ゆくゆくは3代目」とか、そういうキャッチコピーが上手い事キャッチーなキャラクター像としてぼくを認知してもらう助けになっていました。
 しかし、実際のところ、ぼくが最近行っている「工場見学についてnoteに投稿する"町工場の広報"」的な役回りや、町工場の新規顧客を探して繋ぐ営業などの仕事をするまで、「工場の息子」とか名乗っているくせに、ぼくは工場のことなんて全然分かっていなかったのです。
 例えば、家業の鈑金加工工場では「ここにある品物はレーザーで切って曲げて溶接して仕上げをしてできる」というのは知識として知ってはいました。しかし、それは"結果としての品物しか見ていないで知った話"で、"工場はどうやってものを生み出しているのか"のプロセスの話は、全然知りませんでした。品物ができるまでのプロセスこそが工場について知るべきことだったのです。

つくる喜びのある工場

 工場を知るためにはどうしたらいいか。その答えの一つがnoteに掲載している工場見学でした。

 これらの記事は、
・どのような工法でものが生み出されているのか(How)
・そもそも何をつくる工場なのか(What)
・どうしてその工法で・どうして工場をやっているのか(Why)
・働いている人・社長さんはどんな方か(Who)
・どこにある工場か(Where)
・どのくらいの時間をかけて製造しているのか
・就業体制は?(when)
大まかに分けて上記の着眼点で観察をし、書かれているものです。

 物事を分析し理解するための手法として、Critical Thinking とかLogical Thinkingと呼ばれている思考法では、これらのような5W1Hに分けて考えることが良しとされていると思いますが(ぼくは学校でこう習ったので一般的なものがどうなのかよく知らないのですが...笑)、ぼくは工場見学で(最早無意識的に)、主にこれらの問いを頭の中で立てながら工場で観察を行ってきました。記事をご覧頂くと、それらの問いを明らかにすることで工場のことを知っていく過程を垣間見て頂けるはずです。

 記事化しているのはまだ2社だけなのですが、実際は記事化していないけれど見学させて頂いた工場もこの半年でたくさんありました。その中でも取り上げさせて頂いた2社さんでは「やりがいがありますよ」とか「これが結構面白いんですよ・すごいんですよ」という観点をとても大事にされていた点が取り上げて文章化して皆さんにシェアするに至った決め手だったなと思います。
 製造業は効率性や達成目標といったいわゆるKPIを満たすような定量的な数字が重視されがちで、現場の実際の働き手である職人の精神的な充足感は二の次にされがちだと思います。確かに日々納期との戦いなのはよく分かるのですが、見学の記事を見て頂くとこの2社さんは当然効率性も重視しつつも、「こだわり」とか「出来上がりの美意識」といった「つくる喜び」というのも同様に重要視していることが分かると思います。
 「やりがい」や「面白さ」は効率性とトレードオフの関係ではなく、相乗効果をもたらす両立できるものであると思います。

 例えば、個人的にもお付き合いのある松浦製作所のIさんなのですが、放電加工を施したものの好きな所をシェアされていますね。

放電加工というのはWIREDで取り上げられるほどに"映える"加工法です。
一般的に気に入られているのは、動画の様などうやってつくられているのか不思議なほどの「シームレスなツルツルさ」で、Twitter上でも度々バズる加工法です。(↑このWIREDの記事も詳細かつクールに書かれているので是非ご覧下さい!)
 しかし、自ら加工をする職人さんであるIさんは、放電加工の一般的にはよく知られていない別のニッチな「切断した直後のザラザラさ」の一面に愛着と面白味を感じているのです。そして更にIさんは続くツイートで

と、この好きなザラついた質感を生かしたアイデアを提案されています。

 純粋に、これってアツくないですか?

このような自分が気に入ったこと・ものを見出すことこそが、ものづくりに携わる人間全てに共通する「つくる喜び」そのものだと思うのです。

 例えば、画家も絵を描く時にはアクリル絵の具の塗り方や量の乗せ具合で偶然「お、これ良い!」というテクスチャーを発見したりします。その好きなこと・ものとの出会いがアイデアやイノベーションの種となるのです。

職人の美学

 「つくる喜び」の例としてIさんを引き合いに出して語って参りましたが、溶接工の方々なんかも綺麗なビード(鱗状の継ぎ目。規則正しく鱗が出ると丁寧で綺麗な溶接の証)、「綺麗にできた!」と写真をアップしたりするのをよく見ます。溶接に限らず他の職人さんもなのですが、
「加工物をTwitterにアップして褒め合う"職人コミュニティ"」があるのだなとこの半年で思いました。見ててすごいなって思いますし、語ってる職人さんの熱量がすごくて勉強になるし、楽しいんですよね(笑)

 工場の職人さんについての一連の話と関係する話なんですが、ぼくが大学院に居た頃、理解するのに挫折した哲学書があるんですね。
 ゲルノート・ベーメによる『新しい視点から見たカント『判断力批判』』という本なんですが。

 「いきなり哲学とか出て来たけど、で、何が工場とか職人と関係があるの???」と思われても仕方ないのですが、ちょっと説明を書きます。

 実はこの本は昔カントという巨匠が「美しいものってさぁ」と美学について超ハイレベルで難しく論じたことを、ベーメという方が再解釈して現代の人にも共通するような考えを打ち出してくれているのです。
 (全然まだ読み直せていないので適当なことを言うんですが...)
 この本の中で言っていたことの一つは「美しいものは共同体を形成するものだ」ということです。これは、もしかすると、出来の良い加工物をSNSでシェアする職人さんコミュニティのことを指すのではないか?と思いました。
 「これ綺麗!」と、加工物を見てグッときたなぁと心で思える職人さんは「自分は何が好きか(=趣味)」の判断ができる人々なのです。(これを「趣味判断」の能力と述べているのですが、)一節だけ引用を。

カントが表現しているように、趣味を持つ人間、つまり「洗練された人間」は、自分の周囲をより美しくし、自分の周りに美しい事物をちりばめ、そのことで世界に対する自分の愉悦を他者と分かち合うのである。(上掲.p27~28)

自分の周囲を出来の良い(美しい)品物で埋めていき、時には「良くね?」とシェアをする... これは優れた職人さんの工場での姿では???と思ってしまったのです。
 要するに、工場の優れた職人には美学が備わっているのではないか?という仮説をぼくは考えた(そう信じている)のです。
 (※ベーメの本では本当はもっと複雑で緻密な論理が繰り広げられているので、後々再チャレンジでもっと精読して解釈したいと思っております。)

 皆さんの「上手くできた!」とか「これ綺麗!」と感じる品物ってどんなものですか?作業をする時に御自分の美学・美意識に問いながらものづくりをして、上手くできた時にはシェアをして欲しいなと思います。

 勿論、コンプライアンス遵守で!

自分の「好き」が社会で生きる上での態度になる

 ぼくも含めてですが、現場の職人でない経営者であっても美意識や理念は昨今重要視されつつあります。

 ぼくは町工場に関わる仕事以外にも、学芸員資格のバックグラウンドを生かしてアートプロジェクトに関わったりしていますが、「自分が何に魅力を感じるか」「何が好きか」「何を大事にしているか」という内省的な視点を養うために多くの博物館・美術館がビジネス界と連携を目指しています。逆に、アート業界もアートの自由性や独立性を保持しつつお金を稼ぐこと方法を模索するためにビジネスから学ぼうとしているのです。

 先程とは違う、「専門ではなく、楽しみとして愛好するという意味」での"趣味"も「共同体を形成するもの」ですよね。
 例えば、野球が好きだとしても、どうして野球が好きなのかの理由は各々異なると思います。「バッティングでボールを真芯でとらえた時の感覚が好き」とか「球場で飲むビールが好き」とか。でもこの「好き」を他の人と話して共感し合うことももちろんあると思います。逆に「4-6-3のダブルプレーが好き」と話して「それは分かんないわ(笑)」と言われて議論になったりするかもですが、その議論自体は野球好き同士としてとても楽しかったり...
 要するに、まずは自分の「好き」を模索する態度というのは、職人の世界だけではなく社会全般で大切なことなのではないでしょうか。

 ちなみにぼくは、今回のタイトル画像として選んだ「レーザー加工で抜いた後の材料」が洒落ててすごく好きです。

 次回の投稿では、ぼくが好きな工芸作品・製品について書こうと思います。工場と芸術が交わる話ですね...!!

追記:続きの投稿を書きました。


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