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病院での自費カウンセリングはやっちゃだめなんですってー開業の経緯①ー | 京都・四条烏丸 カウンセリングオフィスSHIPS(認知行動療法・ブリーフセラピー)

 こんにちは。京都でブリーフセラピー、認知行動療法に基づいたカウンセリングをおこなっています。カウンセリングオフィスSHIPS代表です。
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 さて、最初の記事はなに書こうかなあと思ったんですが、やはり私個人としても退職・開業という大きな決断を急にしたので、これまでの経緯を早速好き勝手に綴ることにします。元勤務先の病院など固有名詞も出しますが、自分の経歴を晒すだけなのでNGじゃないですよね。それにそもそも元勤務先の病院(宇治おうばく病院)には感謝していますし、いい病院だと思っています。本当ならそこで働いていたかったくらいなので、誰かを批判するような記事ではないです。

医療のなかでのカウンセリングを取り巻く状況

ニーズはあるのに医療行為としてはグレー扱い

 皆さんはカウンセリングを受けるとしたら、どこで受けることを想像しますか?学校のスクールカウンセリング、地方自治体の相談窓口、大学、NPOなどが運営する相談窓口、それから精神科・心療内科クリニックや病院のカウンセリング、私設カウンセリングルーム、といろいろありますが、期間が定められていたり、医療的支援が必要な精神疾患、精神症状、行動(自傷など)をもっている方はそもそも受け付けていないというカウンセリング機関も多いです。精神疾患治療などの医療ニーズにも応えられるような技量や体制をもつ場所としては精神科・心療内科クリニックや病院のカウンセリングが一般的です。
 そして、医療現場では、診察だけでは到底時間が足りず投薬治療がメインになりがちです。だから患者・クライエントさまにとってもカウンセリングのニーズは高いです。こころと人間関係の悩みって、あそこが痛い/熱がある→じゃあ検査しましょう→お薬出しときますね、というわけにはいかなくて、じっくり悩みをお話しして聞いてもらって対処法を整理していくことが重要なこともとても多いからです。
 でも、精神科・心療内科でカウンセリングを実施しているクリニック・病院もそう多くはありません。なぜなら、臨床心理士という資格ができて心理職というものが社会的ポジションを獲得してきたここ20-30年にあって、臨床心理士や公認心理師がおこなうカウンセリングはいまだ医療行為としてはグレーゾーンという扱いだからです。つまり、健康保険のなかでできるカウンセリングってほぼないに等しいんです。
 病院の中には、健康保険のなかでやりくりしているよー、といっているところもあります。クライエントさんからみたらそれはありがたい話でしょうが、実はそれにかかる費用(設備費、カウンセラーの人件費)はほぼその病院の持ち出しです。主治医の診察にかかる費用の中から捻出しているにすぎません。病院の善意、ボランティアです。でもそれってカウンセリングは常に赤字部門であり続けるわけで、支援体制としても脆弱ですよね(病院がいつカウンセリング部門を閉じても誰も文句はいえないし、心理士の技量向上に予算を投資することもしにくいわけです)。

 精神科病院というのは基本的にすごく収益性が低い業界(飲食業より低いんですよ?)なので、心理職は必要だと思うけれどもお金はないという病院は、自費カウンセリングをおこなっているところもあります。私の勤めていた宇治おうばく病院もそのひとつでした。宇治おうばく病院は、2022年11月末まで栄仁会カウンセリングセンターというカウンセリング部門を運営していて、自費でのカウンセリングを実施していました。
 自費カウンセリングというのは、クライエントさんに実費でのご負担をお願いするという意味です。

実は禁じ手だった自費カウンセリング

カウンセリングが自費(自己負担)であることの意味

 カウンセリングが実費負担であることの意味は、「クライエントも真剣になる」という意味もありますが、経済面でいえば臨床心理士が少しでも病院・運営組織のお荷物にならなくなるということにあります。欧米では1家族に1カウンセラーみたいなのが当たり前の文化になっているところもありますが、カウンセリングにお金を払うという文化がそこまで成熟していない日本では、基本的に公的なカウンセリング機関は赤字運営です。スクールカウンセラーも、自治体の相談窓口も、利用者さまからお金を取らないので、その運営原資ってなにといえば税金です。利用者目線では助かりますが、それは反面事業として独り立ちできていないということでもあります。赤字だからと人件費を抑えようとすれば、若手のうちはよくても経験を積んだ心理士(心理士だけじゃなくて援助職全般)は離れていってしまうでしょうし、組織も赤字部門に積極的に投資しようとはしませんから、専門家としての技量向上のための研鑽に労力や費用を割けなくなって、結果的に本当に質の高い専門家が育ちにくい環境になってしまいます。
 事業としての支援というのは、それを継続できるということに意味があります。赤字運営というのはボランティアと一緒で、それが支援者(経営者)の財政状況や気まぐれ次第で急にできなくなっても誰も文句はいえません。当然ですけど、ボランティアを否定してませんよ、念のため。ボランティアは「私はボランティアです」と明言しているから、「できるときにできるだけ」とその善意を互いに尊重しあえます。でも、どれだけ手厚い支援をしていても、事業という体裁をとりながら内実赤字なら、それは健全な支援のあり方ではないと私は思います。

充実した心理臨床の日々

 おうばく病院は、たしか2007年頃から栄仁会カウンセリングセンターというカウンセリング機関を立ち上げて、そこで実費負担の外来カウンセリングをおこなってきました。
 医療法人(医療機関)の枠組みの中で、自分たちも病院経営にそこそこ貢献できる形として活動できたのは、間違いなく宇治おうばく病院のおかげですし、そこでの臨床の日々は充実したものでした。医療って対人支援のなかで「最後の砦」感があるので、私にとって医療における臨床ができるというのはとても価値を感じるものでした。スクールカウンセリングも学校卒業となれば支援が終わり、児童福祉も成人になったら支援が終わり、司法矯正も矯正期間が終われば終わりになるように、ほかの支援は期間限定であることも多いのですが、支援期間の終了とともに支援の必要性も一緒になくなるケースばかりではないです。ブリーフセラピー(短期療法)を謳っておきながらなんですが、生活支援、人生支援ともいうべき長期間の継続支援が必要な方は実際におられます。どんなに大変な人たちでも、その人たちを、その人たちの人生を見捨てない社会が本当に成熟した社会だと思いますし、私もわずかでもその一翼を担いたいと思ってきたなかで、じゃあそんなヘビーケースが最後に行きつく場所はどこかっていえばやっぱり「医療」なんですよね。だから、心理職がグレーななかでも、医療職とはいえない心理職にも医療チーム・医療体制の一員としての役割を担わせてくれたおうばく病院には感謝しかないです。
 おうばくでの臨床は、医師、看護師、精神保健福祉士、作業療法士、薬剤師、さらには放射線・検査技師、理学療法士、栄養士、事務職員にも恵まれ、入院カウンセリングも外来カウンセリングも本当に楽しく充実した臨床ができました。現場でしっちゃかめっちゃかになりながらも誰もがクライエントのためにと頭を抱える時間は、職業人としてはとても幸せで、辛いなんてことは一切なく、互いに頼りにし合えるよい医療チームだったからこそできた支援、ひとりではとてもできなかった支援経験も沢山させてもらいました。沢山学会発表もしましたし、おうばくで一から臨床を学び、育ててもらえたと思っています。

混合診療というかそもそも収益事業をしちゃいけない問題

 そんなこんなで、こんな生活が続くといいなあと思っていたんですが、これまでも度々問題視されていたというか懸念としてあったのが混合診療の問題でした。混合診療というのは保険診療と自費診療(自由診療)を併用することで、混合診療をすると保険診療分も保険が使えなくなって10割負担になるよ、という決まりがあります。歯医者さんで自由診療の治療費が高いのは、本来保険診療でやれていた分まで自由診療扱いになるためです。これでは自費カウンセリングをしていて、それがもし自由診療とみなされると、医師の診察や投薬まで10割負担になってしまうので、クライエントさんにとって非常に不利益です。だから、保険診療と同一日にはカウンセリングしないとか、病院とカウンセリングの建物を分けるとか、あの手この手で混合診療とならないような工夫をするのです(ほかの病院もそうです)。おうばく病院でもそんな工夫をしていて、混合診療の問題はクリアしていました。てか、そもそもカウンセリングって医療行為じゃないんじゃ?みたいなことも思ってましたが、そこはまあ現場では曖昧で、とにかく混合診療と看做される可能性については皆気にしながら活動していたわけです。
 でまあ、ここまではいいんですが、混合診療問題以外に、そもそもの根本を覆す衝撃の事実を知らされたのが2021年の冬でした。なんか、混合診療にさえならなければ大丈夫とどこかで思っていたんですが、そうではなく、そもそも医療法人として収益事業(保険算定される収益以外の収益を得ること)をやってはいけないんですって。正確には法律で認められた一部の収益事業以外は、収益を得てしまうと医療法上法律違反になるのだそうです。(あともう少し突っ込むと、医療法人格には、無印の医療法人、特定医療法人、社会医療法人なんかがあって社会医療法人は収益事業が認められてはいますが、社会医療法人格を得るのはかなりハードルが高いんです。)だから自費カウンセリングは収益事業ということになってしまい、そもそも法律違反なんですって。

 「だから栄仁会カウンセリングセンターは閉所します、ごめんね」的な感じになりました。そんなん言ってなかったやん。あんなに楽しかったのに、あんなにクライエントさんもいっぱいきて医療の一翼を担えていると思っていたのに、なくなんの?どうなんの?と途方に暮れたのが2021年の冬のことです。
 なんだか尊敬していた親が、実は万引きで生計立ててました、みたいな、ああ結局やってはいけないことをやっていたんですね我が家は、、という衝撃を受けたわけでした。
 自分でいうのもなんですが私はこれまで何度か転職のチャンス、お誘いがありました。ひとつは公務員(これは自分で受けたんですが内定を蹴りました)、ひとつは大学教員(尊敬する知り合いの先生からありがたいことにお誘いがありました)でしたが、その時々でまあまあ悩んだ末に、やっぱり医療の中での臨床・カウンセリングの魅力を捨てきれず、医療系心理士は薄給だけど、人生の質はお金じゃないよなということで、病院に留まってきました。それほど医療臨床が楽しかったし、そのなかで活動することを望んでましたが、それはそもそもやってはいけないことだったんですよね。
 というわけで、どうにか閉所せずに済む方法を右往左往して探し回りましたが、やっぱりなく。2022年11月末で宇治おうばく病院は、栄仁会カウンセリングセンターを閉所するという判断をしたんです。でも、一つの見方としては、グレーゾーンの事業を切り離すという判断は、医療法人として健全でクリーンな運営をしていくという点では誠実な態度であるともいえるので尊重しています。そこに疑問があったり、恨みがあったりということでは一切ないです。でも、医療の中でのカウンセリングに価値を見出していた身としては、本来いけないことをしていたんだ、もうできないんだ、という現実を突きつけられました。

長くなったので後半に続きます。
人生何が起きるかわかりませんね。

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