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恩師に教わった大事な言葉、そして生き方

高校最後の春、県大会決勝戦のセンターコートに
私は立てなかった。
大会直前、新入生にレギュラーの座を奪われ、
補欠要因としてウォームアップエリアから、
チームの決勝戦敗北を見届けた。
本気で勝ちにこだわり戦ってきた当時の監督から
「がっかりだよ」の一言だけを受け取り、
私の高校バレーは幕を閉じた。

悔しくてたまらなかった。
3年間がすべて無駄だったとさえ思えた。
毎朝7時に体育館に行きネットを貼り朝練、
夜は21時前まで自主練習。
お菓子、炭酸、恋愛禁止、髪は耳が見えるまで短く
それが伝統校の部即と言われ、
すべて勝ちのためだけに毎日過ごした。
レギュラーとして決勝戦のセンターコートに立ち、
優勝することだけを目指してきたが、
その夢は結局叶わなかった。

引退試合後、最後のミーティングを終えた時、
今の私に大きな影響を与えた
恩師からのある言葉を受け取った。
当時の現代文の担当教師であり、
3年間陰ながらチームを支えてくれたコーチ。
白髪まじりのダンディな髭をこさえた彼が、
悔し涙をぬぐう私にボソッと一言。

「きっぷのいい選手になったね」

キップ?切符??
17歳の私が出会ったことのない言葉で、
先生は私の3年間への労いを伝えてくれた。
今思えば、どうしてあの時、
すぐに辞書を引っ張り出してこの言葉の意味を調べ、
恩師の想いを理解しようとしなかったのだろうと、
少し後悔している。

【気風(きっぷ)のよい】
気質、気性が転じた言葉で、言動に表れるその人の心の性質。
単に性格がよいという意味ではなく、物事に執着しない、清々しくさっぱりとした心意気を指す。

レギュラーになることがすべて。
勝つことがすべて。
そう思い込んで部活に打ち込んでいた私に、
恩師はその一言で
「人生には華々しい主役ばかりではない。
それぞれに全うすべき役があり、
君はそれをこのチームの中でやり切ったんだよ。」
と伝えてくれていたのだ。

大人になった今、
その言葉を励みに社会人生活を過ごしている。
営業成績が伸び悩んでいると、
「あぁ、私はチームにも会社にも迷惑をかけるお荷物だ。
この組織にいてはいけない存在なんだ」
と自分を責め自暴自棄になりそうになる時がある。

しかし、恩師の教えてくれた
「気風のいい選手」であることを心掛ける。
どんな状況においてもただ悲観的にならず冷静に、
改善策を考え忠実に行い、
周囲の人間に対しても一様な態度で接し感謝を忘れず、
自身の仕事をやりきり帰宅するだけ。
潔く生きること。
それが今でも私が大事にしている人生の心構えである。

今思うと恩師には、
私らしい生き方の心構えを教わったと同時に、
日本語を正しく美しく使って生きていたい、
という憧れを与えてくれたような気がする。
言葉を正しく丁寧に扱える人は、
人に優しくできる人だと思う。

そんな人に私はなりたいし、
その言葉を多くの人に届けられるライターになることが、
今の私の夢になっている。


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