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"Standing in the Rain" - Billy Talent; 日陰で生きる人々への思いやりを忘れないように【和訳】

梅雨入りし、本格的に雨の季節。

雨をテーマにした音楽というのは本当にたくさんあって、わたしが好きなアーテイストの曲にも「rain」という言葉がタイトルに入っているものがいくつかある。

その中から今回は、カナダのバンドBilly Talentの「Standing in the Rain」を。
メジャーデビューアルバム「Billy Talent」の8曲目に収録されている。

高校生の時に買ったBilly Talentのアルバムで、もう何度聴き込んだかわからない。
当時「エモ・スクリーモ」と呼ばれていたジャンルで、とにかくヴォーカルのベンの感情のこもったシャウトやスクリームが印象的なアルバム。
まだ荒削りだけど、エネルギーに満ち溢れている。どっちかというと、怒りや絶望のような負のエネルギーではあるが。

その中でもこの曲はより一層、雰囲気の暗い曲だ。
歌詞を読んで、娼婦・売春婦がモデルの曲だとすぐにわかる。

で、この和訳をするにあたって、色々と調べているうちに、どうも実際に起こった連続殺人事件の被害者をテーマにした曲なのではないか、という説に辿り着いた。


1990年代後期から2000年代初頭にかけて、カナダのブリティッシュコロンビア州の養豚農場で起こったロバート・ピックトンによる連続殺人事件。セックスワーカーの女性を次々と殺し、その肉を豚に食べさせていたという悍ましすぎる事件だ。
被害者が売春婦かつ薬物中毒者であったため、なかなか表面化しなかった。
中には捜索願いが出された被害者もいたようだが、警察がなかなか取り合わなかったことから被害が拡大したと思われる。未遂に終わった被害者や目撃者が度々通報するものの、薬物常用者のためその証言が信用されなかったんだとか。
最終的な被害者数は50人近くにものぼる。

この事件の被害者である女性たちの失踪が、この曲のサビの「milk carton mag shot」「missing from 1983」のイメージと重なる。
「ミルクカートンのマグショット(顔写真)」とは、牛乳パックに印刷された尋ね人の写真。アメリカで1980年代に、牛乳パックに行方不明の子供の写真を掲載して情報提供を呼びかける運動があったのだ。

軽く和訳だけするつもりが、なんだかとんでもない背景にたどり着いてしまった気分。こんなサイコすぎる連続殺人事件の話は本当に気持ちが沈む。

歌詞を参照したサイトにあったコメントだが、一部の人が品行方正な市民でないからと言って、その権利・敬意・正義を奪われて良い理由にはならない、というメッセージが込められている。と解釈できる。

The song is written from the point of view of one of the victims, it is meant for us to sympathize with her and her lifestyle. Ultimately, the message is just because some is not A+ citizen does not mean they are not human beings who deserve their rights, respect, and justice.

「Genius」より

売春婦で薬物中毒者だからといって命が奪われて良いはずなどあり得ないし、そのような人々が失踪したからといって警察が真剣に捜索も捜査もしないでいい理由にはならない。


また、サビ前の「pretty baby」というワードから、映画『プリティ・ベビー』が元ネタなのではないかという説もあった。

映画『プリティ・ベビー』は、1978年のアメリカ映画。12歳の娼婦というなんとも衝撃的なテーマの映画で、ロリータ映画に分類される。wikiであらすじだけよんでもひっくり返りそうになる展開が記されている。
売春婦の母親とともに売春宿で暮らす12歳のヴァイオレットが、母親と喧嘩別れした後、水揚げされ、人妻(!)になり、やっぱり別れて最終的には裕福な男と一緒になった母親の元へ戻り、普通の娘として生きていく、というストーリー。あらすじだけ見るとすごいが、主人公の少女がおてんばでわがまま、性に関してもあっけらかんということで、映画の雰囲気的には悲壮感はないみたい。その点だけ救われるかな。

喧嘩別れした母親を恋しく思い、最終的にまた戻るというところから、この曲のサビの最後のフレーズ「Mother, I have lost the way」となんとなくリンクする。


この曲が本当にこの連続殺人事件やロリータ映画を下敷きにして書かれた曲なのかは定かではないけれど、重なる部分も多い。
実際にそういった環境に身を置いて命をすり減らしていった人々や、一般的な常識とは異なる環境や価値観で育った人々がいる。

もしかしたらこういった説は本当に関係なくて、あるひとりの名もなき女性を歌っただけなのかもしれない。
自分自身を売ることしかできなくて、ほかにどうやって生きていったら良いかわからない。そんな虚しさや絶望感が読み取れる。

さまざまな解釈ができる曲だが、とにかく、この曲は娼婦の目線で書かれている。日陰で生きる人々や弱い立場の人々に少しでも共感が持てるように。

どんな人に対しても思いやりを忘れないように、というメッセージを、音楽を通して伝えてくれる。そこがBilly Talentというバンドの一番好きなところだ。




Standing in the Rain 

My head, it hurts, each day it's getting worse
My looks and smile have now become my curse
Tight lips, red skirt, the never ending street
Big car, little man, my lover for a fee

頭が痛む 日毎に酷くなる
私の外見と笑顔は今や私の呪い
固く結んだ唇、赤いスカート 終わりのない通り
大きな車に乗った小さい男 お金で買える恋人

So if you see me will you just drive on by?
Or will I catch the twinkle inside your eye?
And if you want me, well, I guess I want you
Oh, pretty baby, how could you?

私を見かけたらそばに車を停める?
あなたの目の奥に光るものを見つけるかしら
私が欲しいなら、そうね、私もあなたが欲しくなるかも
ああかわいいあなた どうして?

Standing in the rain
Milk carton mug shot, baby
Missing since 1983
Standing in the rain
Twenty years of dirty needles
Raindrops running through my veins

雨の中に立つ
牛乳パックの顔写真
1983年から行方不明
雨の中に立つ
20年間の汚れた針
雨粒は私の血管を流れている

My head, it hurts, each day it's getting worse
No sun, my room has now become my hearse
Cold sores, I'm beat, got bruises on my feet
My pride, these men have taken it from me!

頭が痛む 日毎に酷くなる
陽の差さない部屋は今や私の霊柩車
冷たい古傷 殴られてできた足のあざ
私のプライドは あいつらに奪い去られたの

So if you see me will you just drive on by?
Or will I catch the twinkle inside your eye?
And if you want me, well, I guess I want you
Oh, pretty baby, how could you?!

私を見かけたらそばに車を停める?
あなたの瞳の奥に光るものを見つけるかしら
私が欲しいなら、そうね、私もあなたが欲しくなるかも
ああかわいいあなた どうして?

Standing in the rain
Milk carton mug shot, baby
Missing since 1983
Standing in the rain
Twenty years of dirty needles
Raindrops running through my veins
Standing in the rain
Milk carton mug shot, baby
Missing since 1983
Standing in the rain
Twenty years of dirty needles
Raindrops running through my veins

雨の中に立つ
牛乳パックの顔写真
1983年から行方不明
雨の中に立つ
20年間の汚れた針
雨粒は私の血管を流れている

So if you see me will you just drive on by?
Or will I catch the twinkle inside your eye?
And if you want me, well, I guess I want you
Oh, pretty baby, how could you?!

私を見かけたらそばに車を停める?
あなたの瞳の奥に光るものを見つけるかしら
私が欲しいなら、そうね、私もあなたが欲しくなるかも
ああかわいいあなた どうして?

Standing in the rain...
Standing in the rain...
Standing in the rain...
Milk carton mug shot, baby
Mother, I have lost my way

雨の中に立つ…
雨の中に立つ…
雨の中に立つ…
牛乳パックの顔写真
ママ、私、道に迷ってしまったの

Standing in the rain
Milk carton mug shot, baby
Missing since 1983
Standing in the rain
Twenty years of dirty needles
Raindrops running through my veins

雨の中に立つ
牛乳パックの顔写真
1983年から行方不明
雨の中に立つ
20年間の汚れた針
雨粒は私の血管を流れている

Standing in the rain
Mother, I have lost my way
Standing in the rain
Mother, I have lost my way

雨に中に立つ
ママ、私、道に迷ってしまったの

©️ Billy Talent, 2003

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