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メールカウンセリングでエモティコンを使うこと

メールでやり取りをするという作業において、私たちは「メールを書くこと」と「メールを読むこと」の二つを行っています。それはメールを使ってカウンセリングをするという状況においても大きく変わるものではありません。とはいえ、カウンセリング場面という特異な状況においては、カウンセラーには、普段行っているメールのやり取りと比べてとくべつに高い「メール表現力」と「メール読解力」が求められることになります。
 今回は、そのうちの「メール表現力」に関わることについて、具体的には、「エモティコン」をどう使うかということについて、僅かですがTipsを共有しようと思います。


カウンセラーはエモティコンを使うべき?

メールに殊更に「表現力」が必要な理由は何でしょうか。それはひとえに、メールという媒体がノンバーバルな情報にかけているからと言えるでしょう。いわゆる「行間」というように文章の間と間には文字にならない様々な情報がありますが、クライエントはカウンセラーが思ったとおりに「行間を読んで」くれるわけではありません。ちょっとした文章の行き違いは生じてしまうものです。

では、そういった行き違いを減らすにはどうすれば良いでしょうか。その答えの一つが顔文字((*^^*) :D など)や絵文字(😁 😢 など)といった文字表現(こういった感情を伝達するための文字のオプションを「エモティコン」といいます)を駆使してニュアンスを伝えることにあります。
(エモティコン研究一般について詳しく知りたいという方はコチラの論文をどうぞ)

とはいえ、あらゆる場面で、顔文字や絵文字を使うのが適切かと言えばそういうわけでもありません。例えば、高齢のクライエントなど、顔文字や絵文字を習熟していないだろう人に対してこういった表現を用いることは逆効果かも知れません。また、どういった印象を伝えたいのか次第で、エモティコンを使用すべきかも変わってくるでしょう。

なにより、エモティコンはそれ自体が単独で多くの意味を持つわけではありません。おおもとの地の文章があり、その文章に欠けてしまいそうな感情的ニュアンスを補助する用途でエモティコンは役立ちます(Zhou et al., 2017) ・Daniel and Camp, 2018)。また、経験的にもわかることかとは思いますが、エモティコンは多用しすぎると、むしろ、うっとうしいというような悪印象を与えます(伊東 , 2014)。

ともかく、一定の限界があるとはいえ、「テキストに顔文字を補完して有効に使うことで、メールによるコミュニケーションをより効果的なものとすることができるであろう」ことは確からしいことのように見えます(武藤・渋谷, 2006:120)。

では、どういったときに、どんなエモティコンを使うのがよいのでしょうか?
以下に、エモティコンの使用が好ましい場面と、そうでない場面について、そしてどんなエモティコンが効果的かについて、ほんの僅かですが、Tipsを載せておきます。

どんなときにエモティコンを使うといいの?

1. 「いいにくいこと」を言うときにエモティコンを使ってみる
エモティコンの使用には緊張緩和効果があります。例えば、遅刻のお詫びをするときや相手の不注意をたしなめるときといった、気まずい場面では、その気まずさを紛らわすためにエモティコンは有用な手段の一つです(田口,2005)。

また、メッセージ内容に「いいにくいこと」(敵対的ではないが受信者に対してプレッシャーを与えるようなこと)が含まれるときには、メッセージに顔文字を含めると、受信者の敵対的な認知が緩和されるという報告もあります(~~~といったことを試してみてはいかがでしょうか?Thompsen&Foulger,1996)。クライエントに対して、何かしらの提案や指示的な促しをするときには、提案の次の文章にクッションとして笑顔マーク(😊)をつかってみるなども良いかも知れません。

例えば、

~~~といったことを試してみてはいかがでしょうか?
試してみて難しいなと思うことなどあったら、教えてくださいね😊

2. インフォーマルな話題の時にエモティコンを使ってみる
顔文字が付加されている文章は内容に関わらず親しみやすく感じられる傾向にありますが、その傾向はインフォーマルな内容において特に顕著であるとされています(竹原,2003戸梶,1997)。クライエントとのやりとりのなかで、カウンセリングで取り扱う主題の脇に、趣味などに関するインフォーマルな会話が挟まっているときは、エモティコンを用いてみると親しみやすさを相手に与えることができるかも知れません(そもそも、主題からの脱線を避けるためにインフォーマルな会話は意図的に回避したほうが良いのかも知れませんが)。

3. 真面目なイメージや誠実な態度を示したいときはエモティコンを使わないエモティコンの利用は、親しみやすさを受けてに与える反面、メッセージから真剣さを失わせることがあります(竹原、栗林,2006)。

傾聴的態度を全面に出す際や、やり取りの最序盤、まだ関係形成が浅い段階など、クライエントに対して、自分が話を誠実に受け止めているのだと伝えたい場合は、顔文字などの使用を控えるほうが良いかも知れません。

4. 表情が伝わるエモティコンを使う
顔文字や絵文字といっても様々なものがありますが、そのなかでも効果的なものは、表情がはっきりと伝わる内容の文字です。顔の絵文字(😁 😆など)も非顔の絵文字(🐸 👍など)も文脈の中で感情を表現することはできるのですが(Riordan, 2017)、顔の絵文字は非顔の絵文字よりも優れて感情を伝えることが出来ます(Jaeger et al., 2019)。

あたり前のことかも知れませんが、解釈に迷わないストレートで単純な顔文字や絵文字のほうが無難です。奇をてらった表現にはノイズ(誤解の種)が多く含まれてしまいます。

まとめ

基本的に、エモティコンを用いたメッセージは受け手に親しみやすさを与え、エモティコンのない文章は比較して専門性のあるイメージを受け手に与えます(伊東,2014)。そういう点で、エモティコンの使用の有無はクライエントとの距離感を調整に便利なツールといえます。他方では、エモティコンはクライエントがカウンセラーにどの程度の親しさを求めているのかを見る上でも役に立つツールということも出来ます。荒木(2004)は、顔文字がメッセージの受け手を自分の近くに引き寄せようとする際によく使用されることを指摘しましたが、この点を加味すると、クライエントが送る文章にエモティコンがあるかないかは、そのままクライエントがカウンセラーに友人的関係を求めているのか、ビジネスライクな関係を求めているのかを理解するポイントとなります。

上記までに書いたことは、多くの人にとっては「いわれなくてもわかってるよ」なことだったとは思いますし、なにより、現場で活躍してらっしゃるカウンセラーの方々のほうが、ここに書いてあることよりも余程多くのことを肌感覚でわかってらっしゃることと思います。

とはいえ、肌感覚でわかることって意外と文字に残っていなかったりしますよね。よかったらこの記事をたたき台にして、みなさんがどういった時に(エモティコンに限らず)どういった文字表現を使うのか、考えてみてくだされば幸いです。

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